壊してしまった女
高校3年の春…彼にセフレとの関係がバレてしまった。彼は激怒し、私の家に来て私の母さんに私の浮気を伝え、私と別れると言い残して去っていったそうだ。
その日の夜…私と両親の3人で話し合いをした…普段は優しい母さんが怒っている事なんてほとんど無いから…凄く怖かった…
「…何で浮気なんてしたの?」
「…ただのセフレだし…浮気したつもりなんてなかったもん…」
勿論、嘘だ。浮気していたという自覚があるから誰にも話していなかった。セフレは私との関係を自慢気に友人達に話していたらしい。後は伝言ゲーム…彼はその話を聞いて発信源まで辿り着いた。
セフレは彼に病院送りにされ、私は徹底的に非難された。私は怒り狂った彼を前にしてただ謝る事しかできなかった…本当に怖くて…暴力を振るわれたくなくて…ひたすら謝る事しかできなかった…
彼は明日から停学らしい。今度の休日に事情を聞いた彼の両親がウチに来るそうだ…
「あのおとなしい子があんなに怒るような事を貴女はしたのよ。本当に自覚は無いの?」
「たかが浮気であんなに怒るなんて思わなかったのよ…」
私の言葉を聞いた母さんは私の頬を思いっきりぶった。凄く痛かったけど、ぶたれた事の驚きのほうが強かった。私は今まで母さんにぶたれた事なんてなかったから…
「やっぱり…貴女は父さんの子供なのね。浮気をそんなに軽く考えているなんて…」
「い、いや…俺の事は関係無いだろう…」
「関係あるわよ!この子の顔…あの時のアナタと全く同じ表情じゃない!まるでちょっとしたイタズラをして怒られているみたいな…親子揃って、私の事をどこまで馬鹿にすればいいのよ!」
「俺の事はもう過ぎた事だろう…そんな何年も前の話を今出さなくても…」
「……そうね。私も限界よ。別れましょう」
「おい!」
今の話を聞いて…数年前から両親の仲が悪くなった理由がようやくわかった。昔は本当に仲が良かったのに…今はお互いに素っ気ない感じ。たまに父さんが母さんの機嫌を伺うような感じだったのは…別れたくなかったから?
「私がこの家を出て行くわ。慰謝料も親権もいらない」
「だから早まるなって…」
「早まるなですって?むしろ遅いくらいよ。もっと早く別れていれば…こんな娘に育っていたなんて知らずに済んでいたんだから…」
「…ごめんなさい」
「謝罪されないのも腹が立つけど、謝罪されるのもね…どちらにせよ、許せないんだから…」
「………」
母さんは本気だ。本気で家を出て行こうとしている…
「…彼の御両親に説明と謝罪をしたら家を出るわ」
「待てって…冷静になって話し合おう…別れるなんて言うなよ…」
「…こんな事になるならアナタと結婚なんてするんじゃなかった…子供なんて…産まなければよかった…」
母さんはそう言い残してリビングを出て行った。父さんが追いかけていったけど…父さんが呼びかけても母さんは自室に閉じ籠もったまま出て来る事はなかった…
私の遊び感覚の浮気は彼と別れただけじゃなく…自らの家庭まで壊してしまった…修復が出来ないくらい…
数日後、彼の両親が家にきた。お父さんは初めて会ったけど、明らかに不機嫌そうだ。普段は明るいおばさんも怒っているのが一目でわかる。
父さんは仕事だったから、母さんが1人で対応した。相手を怒らせてしまうという理由で私は参加させてもらえなかったけど…玄関で出迎えた時点で話ができる状態じゃないのは一目でわかった。
私は気になったから廊下でリビングでの会話を聞いていた。母さんは2人から責められ、ただ謝罪をしている。
学校からは事情聴取をされたが、私には口頭で同じ事をしないように厳重注意程度の罰しか与えられていない。彼がセフレを殴った原因が私にあっても、学校からは何もできないのだそうだ。
母さんが謝っている声を聞きながら…事情聴取の時の担任の言葉を思い出していた。
「貴女のした事は知人からの信頼を全て失うくらいの事なのよ…今回の場合は貴女の家族にも影響があるでしょうね」
「…はい」
「恋愛は個人の自由よ。でもね、個人の問題じゃ済まない事もあるの。自由だからって何をしてもいい訳じゃないのよ」
よく考えればわかる事。でも、実際に痛い目に遭わないと理解できない事だと思う。身近に父親という反面教師がいたのに私は気付く事ができなかった。本当に何も考えずに過ごしてきたのだと…今になってようやく理解した。
「学校からするとね…貴女の彼だけが加害者なのよ。情状酌量の余地はあるけど…」
理由はともかく、彼がほぼ一方的に私のセフレに暴力を振るった事になるそうだ。どんなに足搔いても無罪にはならない。1度でも特例を作ると理由があるなら暴力が許されてしまう…生徒達はそう考えるからだ。
「正直、貴女の彼が1番の被害者だと個人的には思うけどね。学校ってそういう仕組みなのよ」
「…はい」
「話は終わり。こんな事、繰り返さないように…としか私からは言えないわね。貴女の恋愛観は私とは違うみたいだから…」
「……ご迷惑をお掛けしました」
私はそう言い残して事情聴取の場である生徒指導室から退室した。
…普通じゃないと言われたのだろう。私は先生からの信用も失ってしまっているから…仕方ないよね…
「娘さんは2度と息子に近付かせないで下さいよ!」
「…はい。娘にはしっかりと言い聞かせておきます。誠に申し訳ありませんでした…」
彼の両親が帰りそうな感じだった私は自分の部屋に避難していた。帰り際の彼のお母さんの言葉はまるで私に言っているかのように…よく通る大きな声だった。
母さんは2人を見送った後、私には何も言わずに自分の部屋に籠もってしまった。きっと、顔も見たくないとか思われちゃってるんだろうなぁ…私もどんな顔をして母さんと向き合えばいいのかわからない…
母さんが家を出て行ったのはそれから1週間後の事だった。ほぼ全ての私物を処分しているので家の中は本当に寂しくなった…
父さんは毎日仕事から帰ってくると母さんを説得しようと頑張っていたが…会話すらしてくれなかったそうだ。
母さんが出て行ったのは父さんが仕事から帰ってくる前…私には最後に涙を流しながら謝ってくれた。
「…貴女の事を許せなくてごめんね…産まなきゃよかったなんて言って…ごめんね」
「…行っちゃヤダ…お母さん…ごめんなさい…もう馬鹿な事しないから…行かないでよ…」
「……ごめんね」
母さんが出て行った後、父さんが帰ってくるまで私は玄関で泣き続けた。
父さんは母さんが出て行った後、家では無気力になっていた。時間になったら仕事に行き、遅くまで帰ってこない。
私は母さんの代わりをしようと頑張っているけど…慣れない家事は本当に大変だった。仕事をしながら家事もこなしていた母さんは本当に凄いと思う。
彼とは停学明けから話していない。お互いに距離を置いているから…きっと、もう話す事は無いと思う。
退院してきたセフレからも距離を置かれている。最初に声を掛けてきたのはセフレからだったけど、安易に話に乗ったのは私。責任は両方にある。だからお互いに責めない。セフレとの関係はこのまま自然消滅するだろう。
友人達も私には近寄ってこない…まあ、私も家事をしなきゃいけないから遊んでいる時間なんて無い。だから…別にいい。仮に話しかけてきても浮気の事をネタに馬鹿にされるだけだろうし…
母さんが出て行ったのも、父さんが無気力になったのも私の責任。彼と別れたのも…
だから私は頑張らなきゃいけない。まだ子供だからと甘えていられていた環境を壊してしまったのは私自身だから…
母さんが教えてくれた新しい母さんの連絡先…父さんには教えていないらしい。何か困った事があったら連絡しなさいって言われたけど、できる限りは自力で頑張ろうと思う。いつか母さんに会った時に、少しはまともになった姿を見せたいと思うから…
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