固かった女
先日、付き合っていた男と口論して別れた。私は悪くない。浮気をしたあの男が悪い。
いくら腹の立つ出来事があったとしても学校には行かなきゃ…私は高校3年生。彼と別れた事で受験に集中できると前向きに考える事にしよう。
「…はぁ…」
って簡単に割り切れたらいいんだけどね…浮気なんてするような最低な男だったけど…本当に好きだったから…
休憩時間に幼なじみが私に話しかけてきた。
「暗い顔してるな。何かあったのか?」
「…アイツと別れただけ。別に暗い顔なんてしてないし…」
「…アイツはやめとけって俺は忠告してやったはずだけどな」
「うるさいなぁ…放っておいてよ…」
「…カラオケでも行くか?大声を出したら少しはスッキリするかもしれないだろ?」
アイツと付き合ってから疎遠になっていたけど、私達は姉弟のように育ったから仲は良い。私のほうが誕生日が早いから姉。幼なじみは認めないけど私も譲る気は無い。
「アンタの奢りなら行く」
「仕方ねぇな…お前の失恋祝いだ。今日は俺が奢ってやるよ」
「…ムカつく…パフェとか頼んでやる」
「…お手柔らかにな」
放課後、家に帰って私服に着替えた後に2人でカラオケに向かった。あまり気乗りはしないけど、無理にでも切り替えなくちゃ…弟に心配されるのも姉としてどうかと思うし…
「…で、なんで浮気されたんだ?」
「…体を許さなかったから。付き合ったばかりの頃から求められてたけど、そういうムードじゃなかったし…なんとなく嫌だったから」
彼の事は好きだったけど、セックスをするのはまだ早い気がした。…私がこんな態度だから浮気されたんだってわかってるけどさ…納得はできない…
「…アイツは女をヤリ捨てる奴だって忠告したよな?」
「…付き合ってる時は良い人だったのよ。下心はあったみたいだけどさ…恋人なんて少なからずそういうものじゃない?」
「…そうだな。性的に興味が無い相手とは付き合わないだろうな」
「そういう関係になるのが恋人として正しいのなら…覚悟が出来てなかった私が悪いのかもね…」
「だからといって浮気をしていい訳じゃないだろ?…まあ、もう過ぎた事だ。思い切り大声を出してスッキリするといいさ」
幼なじみと話ながら歩いているうちにカラオケに着いていた。幼なじみが愚痴を聞いてくれたおかげで胸が軽くなっていたけど、まだ彼への未練は残っている。彼がもう少し待ってくれていたら…なんて思っても今更だけどね。
「アンタも歌いなさいよ?私だけで歌ってたら声が枯れちゃうから」
「ん~…アニソンなら歌えるが…」
「アニソンでもいいじゃない。歌ってるのは有名なグループだったりするでしょ?」
「そんなメジャーなアニメは見てないな。…プリ〇ュアでいいか?」
「…歌いたいなら好きにすれば?」
幼なじみの熱唱するプリ〇ュアはめちゃくちゃ上手かった。声が高いからそんなに違和感が無いのが凄い。上手かったけど…我慢出来なくて爆笑してしまった。
楽しい時間はすぐに過ぎてしまう。2時間なんて本当にあっという間だった。約束通り奢ってくれた幼なじみにお礼を言って並んで帰る。
「めちゃくちゃ楽しかった。奢ってくれてありがとね」
「少しはスッキリしたみたいだな」
「アンタが笑わせてくれたおかげでね」
「プリ〇ュアで93点は新記録だったな」
馬鹿な話をしながら帰っていると、小さい頃に幼なじみと一緒によく遊んでいた公園があった。…懐かしいな。
「ちょっと寄ってかない?」
「別に構わないけど…遅くなるとおばさんが心配するぞ?」
「ちょっとだけよ」
私は公園のベンチに座って泣いた。彼の事を想って泣くのは最後にしよう。無理矢理にでも切り替えなきゃ…私は動けなくなる。
隣に座った幼なじみの胸を借りて泣いた。何も言わずに寄り添ってくれる幼なじみに心の中で感謝しながら…私は少しの間泣き続けた。
10分もしないうちに落ち着いてきた。少し恥ずかしかったけど…別にいい。
「…ありがと」
「……かなり辛かった」
「何よ…シャツが濡れたくらい許してよ…」
「シャツなんか気にしてねぇよ。お前がアイツなんかに泣かされたと思うとな…マジで苛ついた」
「…」
「お前が立ち直るまで待つつもりだったけどさ…悪い。無理だわ」
「…?」
「俺と付き合ってくれ。俺は絶対に浮気なんかしないから…」
「……少しだけ待ってて。私はまだアンタの事を弟みたいに見てるから…」
「…わかった。お前の気持ちがハッキリするまで待ってるよ」
「…うん。ごめんね。ありがとう」
それからはほとんど会話も無く家に帰った。…恥ずかしくて気まずかったからね…
幼なじみからの告白から2週間…元カレは性病にかかっていた。元カレの浮気相手のギャルっぽい子から移されたらしい。なんか淋病だとか。症状を調べてみたけど普通に怖かった…
「…アイツとやらなくて正解だったな」
「…そうね」
もし元カレと関係を持っていたら私も移されていたかもしれない。私は元カレが何時から浮気をしていたか知らないから…
「…ねえ」
「ん?」
「私と付き合ってもすぐに体を求めてきたりしない?」
「…努力はするが…約束はできない」
「…なんでよ」
「好きな相手としたいって思うのは仕方ないだろ?…まあ、無理矢理迫る気は無いけどな」
「…私も頑張ってみるけど…時間をちょうだい」
「頑張って我慢するさ。待つのは慣れてるしな」
私と幼なじみが初めて結ばれたのは付き合いはじめてから1年の記念日だった。
幼なじみという関係は変わらないけど、恋人になった事で知らなかった一面も見えてくる。幼なじみへの想いは元カレへの想いとは違う…多分、これが本当に好きって気持ちなんだと思う。
「ねえ」
「ん?」
「大好きだよ」
「……俺もだ」
幼なじみが何時から私を好きになってくれていたのかはわからない。もしかすると元カレと付き合う前からだったのかもしれない。
幼なじみのほうが私よりも大人だったのかもね。私が幼なじみへの想いを好意だと自覚したのは幼なじみと付き合いはじめてからだから…
私は元カレと幼なじみの2人に対して同時に好意を抱いていたという事になるのかな?ん~…これって浮気?元カレと付き合ってた時に幼なじみと浮気をしたいとか考えた事は無いけど…
幼なじみに相談したら笑われてしまった…
「好意は恋人に対してだけ持つ訳じゃないだろう?家族や友人に対しても好意はあるはずだ」
「ん~…そうだけど…」
「アイツと付き合っていても俺に対して友人としての好意があっただけだ。浮気になんてならないだろう」
「恋愛って難しいね…よくわからなくなってきたよ」
「わかるまで俺が付き合ってやるよ」
「…アンタ…やっぱり生意気だわ」
付き合い始めてからも私達のやり取りはほとんど変わっていない…それでも、私達は恋人として付き合っている。
好きって気持ちに決まった形なんてないのかもね。
「ねえ…いつから私の事が好きだったの?」
「…知らねぇよ。気付いたら好きになってたからな」
「…いつ、気付いたの?」
「…秘密だ」
「え~…教えてよ~」
「絶対に言わない」
元カレと付き合っていた頃も普通に楽しかったけどね…今のほうが楽しい。恥ずかしいからあまり言わないけど…本当に大好きだよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます