我が儘な男 後
「あの馬鹿女、マジでチョロかった」
体育の授業前…更衣室でサッカー部のエース様が自慢気に語り出した。
「付き合って3日でやらせてくれるとかよ~。便利すぎて笑えるわ」
「マジかよ…俺が先に告れば良かった…」
「飽きたら捨てるに決まってんだろ。その後になら好きにしろよ」
…クズすぎて何も言えねぇ。誰だか知らないがこんなクズに引っかかるとはその女も可哀想だな…
「〇〇って結構人気あるのにな…彼氏いなかったのか?」
「馬鹿すぎて付き合いたい奴なんかいないだろ?ずっと前から好きでしたって告ったら即オーケー。阿呆か。そんな訳ねぇだろうが。前の女を一ヶ月前に捨てたばっかりだっての」
…付き合いたかったけど告れなかった俺がここにいるんだけどよ…コイツ…マジで殺してぇ…
胸糞悪かったから体育はサボった。……アイツ…あのクズと付き合いはじめたのか…最近、妙に明るかったから良い事でもあったんだろうな~くらいにしか考えてなかった。
アイツと俺は同じ中学出身だ。誰とでも話をするアイツは俺にも普通に接してきた。…なんかよくわからないが、アイツから見た俺はチャラ男に見えるらしい。俺の髪が少し茶色っぽいからかな…地毛なんだけど。
人の話をすぐに信じる少し頭の弱い女だけど…俺は中学の頃から好きだったんだ。友人みたいな関係で満足していたから告白はしなかった。…関係が壊れるのも怖かったしな。
クズの話を聞いてからずっとイライラしている。…動かなかった俺に文句を言う資格は無いけどよ…
………奪っちまうか。
放課後になるまで屋上で寝転がりながら空を流れる雲を見続け…空っぽになった頭に浮かんだのはそんな結論だった。
アイツはお人好しなところがあるからクズの本性がクズだと教えてもきっと信じない。だから別れるように仕向けなきゃいけない。付き合い続けても不幸にしかならないだろう。クズの今までの自慢話が本当なら入学してから少なくとも4人くらいヤリ捨てられている。
クズと付き合っている状態で告白しても受けてくれないだろうしな…別れるような事か……アイツに浮気をさせればクズはきっと見限るはずだ。クズはプライドの塊みたいな奴だからな…他人に抱かれた女に執着しない気がする。よし。寝取ろう。
高校2年の7月…俺は惚れた女をクズから寝取る事を決めた。
「俺と浮気しようぜ」
「……浮気?」
「そう。浮気」
我ながら直球すぎた気がする。自分でもあまり頭が良くない自覚はあるが…これは酷い…
「浮気なんかしちゃダメだよ…」
「いやいや。浮気くらい誰でもしてるって」
本当に誰でもしてたら怖いな…
「…そうなの?」
「そうそう。バレなきゃいいんだって」
「そっか…じゃあ、してみようかな…」
…コイツ…大丈夫か?誘った俺が言うのもなんだけどさ…
夏休み直前…学校は午前中で終わった。エース様は部活らしい。1度帰って着替えた後に駅前で待ち合わせをしてホテルに向かった。
いやいや。展開早すぎだろう。確かに浮気といえばホテルで合体が定番なのかもしれないが…俺、童貞なんだぜ?
「チャラ男ってやっぱりセックスは慣れてるの?」
「まあ…人並みにな…」
やっぱりってなんだ…知識はある。動画で見たからな。ちなみに好きなシチュは痴漢だ。現実に出来ない事だからこそ燃える…じゃなくて、とりあえずなんかねちっこい触り方はわかる。
「私、彼しか知らないから…優しくしてね?」
無自覚なんだろうけどさ…そんな事を言われたら優しくするのは無理だ。クズには負けたくねぇ…
女の顔をしたコイツを見るのは初めてだった。めちゃくちゃ興奮した。間違えたやり方だけど…俺はコイツと関係を持つ事が出来た。
俺とのセックスはかなり気持ち良かったらしい。エース様が部活で忙しい夏休みの間だけ…俺達は浮気をする事にした。順調すぎて怖いくらいだけど…計画の最後まで油断せずにやりきらなきゃな。
夏休み中に友人達にアイツと関係を持ったという情報を流した。クズは最初は信じてなかったみたいだけど、クラスメイト達の目撃情報で浮気を信じたとの事。俺に情報を流してくれている友人はクズの事を嫌っているからな。割と協力的だった。
「スパイみたいな事をしてもらって悪いな」
『やり方は間違えてるとは思うけどよ…お前の気持ちはわからなくもないからな』
「助かるよ」
『俺はクズ寄りの位置で情報を集める。学校じゃ話せないからな。何か進展があったら電話かメールで教える』
「…ああ。ありがとう」
『…初恋なんだろ?頑張れよ』
「ああ」
後で聞いた話だが、この時点で友人には何人かの協力者がいたらしい。クズの蛮行に反感を持つ奴は少なからずいたって事か。
夏休み中は可能な限りアイツと会う時間を作った。ホテル代を稼ぐ為に知り合いのところでバイトしてたりしてたからあっという間に夏休みは過ぎていったな…
夏休みの最終日。セフレでいられる最後の日。ダメ元で関係の延長を頼んでみたけど…やっぱりダメだった。諦める気は全く無いけどな。本当に最後になる可能性もあると考えて…つい激しく求めてしまった…やっぱり…コイツの事、好きなんだよなぁ…
夏休み明けの登校日。クラスメイト達の反応を見て状況を理解した。友人は上手く浮気の情報を流してくれていたらしい。
昼休みまで周りのクラスメイトが俺の事を見ながら話していたけど…これくらい覚悟している。少しでも俺が矢面に立たなきゃな…責任は浮気を誘った俺にあるんだから…
昼休みに彼女と話をして…強引な説得でクズの事を諦めさせた。彼女にとってはクズにヤリ捨てられるより酷い状況になってしまった気もする…
結局、俺はどこまでも自分の我が儘を通し続けただけなのだと思う。彼女がヤリ捨てられて悲しむ姿を…俺が見たくなかっただけ。その為に彼女を騙して罪を犯させた。
もっと良い方法はあったのかもしれないけどさ…俺は馬鹿だからこんな方法しか思い浮かばなかったんだよ。
それから彼女を守る為に傍に居続けた。クズには釘を刺しておいたから何もしてこなかったな。無視され続けただけだ。
「スポーツ関係の大学の推薦枠を狙ってるんだろ?俺がお前のヤリ捨てた女の事を教師に話したら内申に響くと思うんだよなぁ…」
「……」
「猫を被ってきたエースさんよ…俺の要求はわかるよな?」
「…チッ。わかったよ。あの馬鹿はくれてやる。今後はお互いに不干渉って事でいいな?」
「それで十分だ。流石に話が早い」
「フン…俺の中古で満足してやがれ」
「…アイツとのハメ撮りが誰かの手に渡ってたら俺も穏やかじゃいられない。キッチリ消しとけよ?」
「自分の物じゃなくなった女に興味ねぇよ」
クズは意外とアッサリと引いてくれた。口約束だから完全に信用は出来ないが…危険性を理解しているなら馬鹿な事はしないと思う。
大学に通っても彼女の傍に居続けた。俺に誘われてアッサリ浮気しちゃうくらいだからな…近くにいないと心配で仕方ない。何人かに声をかけられてるみたいだし…不安だ…
なんとか大学で彼女を守り抜けたと思う。付き合っているという流れでプロポーズしたけど…拍子抜けするくらいアッサリと受けてくれた。本当に軽かったな…
「あ~…あのさ、俺と結婚してくれないか?」
「うん。いいよ」
即答。なんかそこら辺に飯食いに行くくらいの軽いノリだった…あの日から、彼女は少し変わってしまった。その責任は俺にある。だから…これからも傍に居続けて償っていこうと思う。
数年後…2人でテレビを見ていたらスマホに何かの通知がきた。…ニュースか。たまに入ってくるんだよな。
内容はプロになったクズの女性関係のスキャンダルだった。やたら詳しい。名前は伏せられているけど高校の頃の事も書いてある。
隣を見ると妻は固まっていた。…本当に今の今までクズの本性を知らなかったんだと思う。
「……あ~…実はさ、俺、高校の頃からコイツの本性を知っててさ…」
この話を伝え終わった後…妻が俺を見る目はどう変わるだろうか…できれば…昔のように信頼してくれたら嬉しいんだけどな…
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