報復する男 前

 彼女が浮気をしていた。浮気相手は俺の目の前でボロボロの姿で土下座しているクラスメイトだ。友人でも何でもない奴に彼女を寝取られた。土下座をされたくらいで許す気は無い。

 ちょうど良い位置にあったので思い切り踏みつけた。何度も何度も。

 許可していないのに動こうとした。踵で手を踏みつける。


 誰が動いていいと言った?


 泣いているのだろうか。良く聞き取れない。聞き取れない言葉なんて雑音でしかない。聞くだけ無駄だ。

 髪を掴んで顔を上げさせた。涙と鼻血で酷い顔だ。可哀想に。顔だけしか良い所がなかったのにな。


 なあ?人の女に手を出したんだ。それなりの覚悟はあったんだろう?


 酷い顔を更に歪ませて謝ってくる。

 だからさ…謝っても意味が無いだろう?

 謝ったら浮気する前の彼女に戻るのか?

 お前と浮気した事実が消えるのか?

 お前を死ぬまで許さない。

 お前の顔を見る度に殴ってやる。

 俺から解放されたかったら…自分で死ねよ


 最後に全力で腹に拳をくれてやった。明日からの愉しみが増えたな。捕まっても構わない。出所したら真っ先に殺してやる。




 少し前まで物静かで引っ込み思案だった彼女が徐々に明るくなったのは良いことだと思う。友人が増え、苦手だった俺以外の男とも話をしている。俺は彼女が変わったきっかけを知らなかった。


 クラスの中に五月蝿い奴がいる。いつも自分の事をやたら凄いとアピールする馬鹿。顔だけは良いので女子からはまあまあ人気があった。

 俺は目立つ事が嫌いだ。目立ってもメリットなんか無い。面倒な奴に目を付けられるだけだ。

 五月蝿い奴は俺の彼女に


 めちゃくちゃ可愛くなった

 今日も遊びに行こうぜ

 また可愛がってやるからさ


 ああ、なるほど。自分が俺の彼女を変えたとアピールしてるのか。彼女も照れながら笑っていた。…否定しないのか。そうか。


 帰り道、五月蝿い奴を待ち伏せて捕まえた。抵抗されたので少し痛い目を見てもらった。よほど俺の事を見下していたんだろうな。自分から勝手に喋ってくれた。聞く手間が省けたよ。


 俺の彼女の事は前から狙っていた

 毎日褒めまくって流れでやった

 もうお前の事なんか見てねぇよ

 アイツは俺の女だ


 ああ、五月蝿い奴は数分後には土下座してたわ。コイツは死ぬまで毎日殴る予定…それも面倒だな。さっさと死なないかな…


 次は…あの女か。どうやって償わせるかな。流石に女を殴るのは気が引ける。

 ああ、そうか。コイツを使えばいいのか。

そんなに可愛がって欲しいなら壊れるまで可愛がってもらえばいい…


 殴られたくなければあの女を毎日犯せ

 昼休みと放課後、休日も必ずだ

 1日でもサボったらどこかの骨を折る

 証拠は文章なしで画像だけ俺に送れ


 五月蝿い奴は泣きながら頷いていた。さて、いつまで…いつも通りでいられるかな?




 1週間。あの女の様子は明らかに変わっていた。それでも短い休憩時間は俺の近くにいようとする。


 

 1ヶ月。常に惚けたような顔をしている。五月蝿い奴が風邪で休んだからだ。見舞いに行って左手の薬指を折ってやった。



 2ヶ月。最近は俺のところに来ない。だが、夜にメッセージを送ってくる習慣はまだ残っていた。


 4ヶ月。俺を見ても挨拶すらしなくなった。メッセージも届かない。そろそろ頃合いか。五月蝿い奴を呼び出して新しい指示を出す


 明日からは指1本触れるな

 触れたらどこかの骨を砕く


 五月蝿い奴がそろそろ許して下さいとか泣きついてきた。そろそろって何だ?死ぬまで許さないって言ったはずだが…


 翌日からあの女の様子がまた変わった。どこか落ち着かない感じだ。何かが足りないんだろう。さて…いつまで耐えられるかな?


 1週間。常に発情しているかのような淫靡な雰囲気を放っている。クラスの男子達があの女を見てひそひそと話していた。


 2週間。友人からあの女が男漁りを始めたと聞いた。…ああ、まだ付き合ってる事になってたんだったかな。


 1ヶ月。学生だけではなく教師とまで関係を持ち始めたようだ。五月蝿い奴が報告してきた。半年程前からは想像できないな。まあ、浮気してまで変わりたかったのなら本望だろう。


 2ヶ月。五月蝿い奴に集めさせた証拠を学校に匿名で送った。しばらくして教師が数人いなくなった。あの女と五月蝿い奴も退学になった。五月蝿い奴はどこかで見かけたら殴るくらいにしてやろう。それなりに役に立ったからな。一生許さないが、多少の情けはかけてやる。


 夜にあの女からメッセージが届いた。


 ごめんなさい


 ただそれだけ。あの女なりのケジメだろうか。俺はブロックして寝た。

 あの女の浮気を知ってから毎晩のように同じ夢を見る。


 彼女と二人で穏やかな時間を過ごしている…そんな幸せだった頃の夢だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る