演じる女

 まさかね。友人に彼氏を奪われるとか薄い本だけだと思ってたよ。あり得ないでしょ?

 人から奪って幸せになれると思ってるの?

 彼も彼よ。なんで寝取られてるの?

 奴らは私を敵に回した。絶対に許さない。

 

 「という訳で手伝いなさいよ」


 「…え…普通に嫌なんだけど」


 「アンタね。幼なじみが可哀想だと思わないの?」


 「いや…帰ってゲームしたいんだけど」


 「うっさいわね。どうせソシャゲでしょ?数年もしたらサ終するんだからやるだけ無駄よ」


 「サ終しても俺の嫁は永遠だから」


 「なら今終わっても永遠じゃない」


 「……そう…なのか…?」


 さて、馬鹿だけど見た目だけは無駄にいいコイツを使ってあの2人を別れさせよう。


 「服を買いに行くわよ」


 「スウェットが山ほどあるから…」


 「後は…美容院かな」


 「異世界転生の願掛けしてるから…」


 よくわからない事を言ってる馬鹿をつれてコーデしてやった。うん。カッコイイ。


 「その格好なら嫁のコスプレした女の子と付き合えるかもよ」


 「マジか」


 で、今日のアイツらのデートコースは…遊園地?そんなところ私と付き合ってた時は行った事無いじゃない…


 「行くぞ」


 「え…あ…はい」


 秘密のメモ帳をチェックしながら奴らのスケジュールを確認する。有志からリークされた情報だ。信用できる。馬鹿を連れて遊園地に到着した。


 「2人を探すわよ」


 「え…俺その2人知らないんだけど」


 「…同じクラスよ?」


 「俺の机から半径1mくらいしかわからない」


 「学校で引き籠もるなよ」


 メールが届いた。有志からだ。ちなみに有志の正体はあの女の元カレ。かなり酷い捨てられかたをしたらしい。聞いたら体育座りしてしばらく泣いてた。メールの内容は奴らの現在地。有志は観覧車から奴らを見張ってるようだ。


 「場所がわかった。行くわよ」


 「え…なんでわかるの?怖いんだけど…」


 ブツブツ言ってる馬鹿を連れてお化け屋敷へ。クソッ。中でイチャイチャする気か。やらせん。やらせはせんよ。

 怖いの嫌だとか言ってる馬鹿の腕を掴んで突入した。……感じる。近くに誰かいる。

 

 こわ~いとか言いながら満面の笑みで元カレに抱き付くあの女。デレデレしながら笑っている元カレ。よし。〇そう。


 「落ち着いて。ヤバい顔してる」


 馬鹿に止められた。チッ…命拾いしたな。


 「さて、今からアンタは私の彼ね」


 「お断りします」


 「あ?」


 「任せて。ハニー」


 馬鹿の腕に抱き付いて奴らのいるほうに向かう。


 「こ…怖い…」


 「大丈夫。君のほうが…」


 ミシッ


 「…僕がいるから大丈夫さ」


 「うん…」


 我ながら良い演技。奴らは私達を見て驚いていた。


 「早く行きましょう…」


 「もう少し君の怯える顔を見たかったけど…普段は見せてくれないから…」


 「意地悪言わないで…」


 「可愛い君に頼まれたら仕方ないね」


 馬鹿と出口に向かう。この男…流石だ。ギャルゲーの台詞で乗り切りよった。

 あの女が妬ましそうに見ているのがわかる。面食いだからね。めちゃくちゃ嫉妬してると思う。まだだ。まだ終わらんよ。


 お化け屋敷を出て小休止しつつ有志へメール。しばらくすると有志から次はジェットコースターという情報が入った。


 「行くぞ」


 「え…ポップコーンがまだ残って…」


 「なんでそんなの食べてるのよ」


 「遊園地で5秒で飲めるゼリーとかおかしい」


 「ここは戦場よ。補給に時間はかけていられないの」


 「そんなの初耳なんですが…」

 

 馬鹿を引っ張ってジェットコースターへ。同じ時に乗れるようだ。さて、戦いはもう始まっている。 


 「ねえ…あの2人…」


 「ああ。クラスメイトだね」


 奴らに聞こえるように会話する。


 「私の…元カレなの…」


 「そうなんだ。そんなの気にしないで楽しもうよ」


 元カレがちょっと反応した。


 「でも…」


 「君みたいな可愛い子と別れるなんて…勿体ない事するよね。俺なら絶対に離さないけど」


 元カレがピクピクしてる。馬鹿、ナイスだ。後でポップコーン買ってあげる。


 「もう…恥ずかしいなぁ…」


 「そういうところも可愛い」 


 良く見たらあの女もピクピクしてた。馬鹿へのご褒美はちょっと高いキャラメル味のポップコーンにしてあげよう。

 ジェットコースターが発車。到着。無理。絶叫系はマジで無理。死ぬ。馬鹿に本気で介抱された。その光景も奴らにダメージを与えたようだ。肉を斬らせて骨を断つ…あ、ヤバい。ゼリーが…ウプッ…セーフ…


 しばらく死んでると有志から連絡。次は観覧車らしい。有志は既に離脱していた。流石だ。馬鹿に肩を借りて観覧車へ。

 奴らの真後ろに並ぶ。これはもう物理的にやるしか…


 「そんなに抱き付かれたら流石に…」


 訳すと…腕が痛いので止めてください。危ない。折りそうだった。

 

 「ごめんね。デートが楽しくってつい…」

 

 「俺もここまで楽しいのは初めてだよ」


 目の前の2人が凄く苛立っているのがわかる。ヤバい。超楽しい。


 「これで最後にしようか…」


 「俺の家に行かなきゃいけないからね」


 「う、うん…」


 あ、奴らの番だ。チッ。逃げられた。


 「仕留め損なったか」


 「切り替え怖いわ~」


 「アンタもね。なかなかアドリブが効くじゃない」


 「ギャルゲー500本コンプしてる俺に隙なんかないから」


 わあ。キモい。とかやってると私達の番。

 さて、次は抱き付いてるだけでいいか。

 奴らは固まったみたいに座ってるな。なんかこっち見てるし。ほう。私への挑戦とみなす。

 

 「動いたら後で殺す」


 「了解」

 

 奴らの死角になるように顔を近づける。多分、これでキスしてるように見えるはず。


 「おい。適当に抱きしめろ」


 「はい」


 馬鹿が抱きしめるように手を回してきた。よし。かなりイチャイチャしてるように見えるだろう。

 その後もそれっぽい感じを馬鹿のアドリブに任せてやってみた。コイツ…馬鹿じゃなきゃ有能なんだけどなぁ…


 観覧車から降りるまで頑張った私はのんびり休憩。有志からはあの2人は帰ったという情報が入った。彼はそのまま尾行するらしい。御武運を。


 「帰るぞ」


 「は~い」


 家に帰って馬鹿にお礼を言って解散した。



 翌日、朝の登校も馬鹿とイチャイチャを演じてあの2人に見せつけた。


 「ねえ…これはいつまで続けるの?」


 「奴らが喧嘩別れするまで」


 「…流石に我慢できないかも」


 「あ?」 


 「いや、もう本気で付き合う?」


 「アンタが嫁を捨てるなら考える」


 「それは無理」


 「ならダメね」


 その後も馬鹿と頑張ってイチャイチャし続けた甲斐もあって2人は別れた。

 私と馬鹿は只の幼なじみに戻った。やっぱりこのくらいの距離感がいい。馬鹿は恋愛対象に見れない。だから普段は話さないくらいの距離がいい。

 お互いの事はよくわかってる。困った時は手を貸し合う。そんな関係。

 満足したから私も次の恋を探さないとね。

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