問い詰める男

 彼女と付き合ってそろそろ1年か。恋愛経験の無かった俺は必死に恋愛について勉強した。デートについて。プレゼントについて。流行りの映画…倦怠期の対処法…浮気の兆候…浮気時の対処法…綺麗な別れ方…

 何を勉強したらいいかわからなかったので手当たり次第勉強した。

 その勉強の成果の一つである浮気の兆候で学んだ知識が彼女が浮気をしていると教えてくれた…気がした。

 それから浮気時の対処法で学んだ知識を使って浮気相手を調べた。弟だった。尾行して証拠を集めまくった。尾行の為にデートを断ったりしたが些細な事だ。デートに誘われた日に弟と密会していたのだから結果的に目的を果たした気もする。

 証拠を揃えた俺は彼女が家に来ている時に部屋に弟を呼んだ。

 

 「お前達の浮気について話がある」


 俺の目の前で正座している2人。俺の彼女と俺の弟。


 「私は…弟さんに無理矢理脅されて…」


 「は?誘ったのはアンタだろうが!?」


 「2人に肉体関係があったのは間違いないな」


 2人の意見が全く噛み合わないが関係を持った事は確かのようだ。


 「いつからだ?」


 「…………」


 「…………」


 「黙秘か。つまりそれなりに長い間…数ヶ月としておく」


 即興で話を合わせる事も難しいらしい。まあ、態度でなんとなくわかるがな。


 「彼女とは別れる」


 「…はい」


 「彼女を脅したお前は通報する」


 「脅してないって!!」


 「判断するのは警察だ。俺に言い訳しても意味は無い」


 家族から犯罪者が出てしまうとは…嘆かわしい。しかし庇う気はない。共犯扱いされる可能性がある。


 「話は以上だ。もう出ていってくれ」


 「おい!!このままじゃ捕まっちまうだろうが!?」


 弟が元カノを怒鳴りつけていた。コイツは本当に学習しないな。

 

 「それも無理矢理言わせようとしてるから脅迫だぞ?」


 「じゃあ…どうしろってんだよ?」


 「捕まって罪を償ってこい」


 ちなみに録音してる。言った言わないは時間の無駄だから。


 「兄貴…悪かったって…許してくれよ」


 「警察に言え」


 「家族だろう?頼むよ…」


 「家族から犯罪者か…お前のせいで俺達は後ろ指を指されるな」


 「…………」


 「行動する時は結果がどうなるか考えてからにしろ。成功と失敗の両方の結果だ」


 「あ、あの…ごめんなさい…」


 「何に対しての謝罪だ?」


 「私が…誘ったの」


 「そうか。今度からは恋人以外と肉体関係を持ちたいなら別れた後にするんだな」


 「……………」


 「じゃあ、別れよう」


 「俺は…通報されなくてすむのか?」


 「ああ。知人と家族から一生軽蔑されるだけで済むぞ。良かったな。クズ」


 「……………」


 「君も共通の知人から軽蔑されるだろうが気にするな」


 「……………」


 「じゃあ、出ていってくれ」


 2人は黙って俺の部屋から出ていった。

 弟はこの日から家ではほとんど喋らなくなった。両親と俺から冷遇されているからだろう。普通に考えたらこうなるのは当然だと思う。よって同情の余地はない。

 元カノは学校でまるで俺に捨てられたかのように振る舞っていたので録音したデータを昼休みに大音量で再生してやった。その日から誰かと話をしているところを見た事が無い。俺は潔白を証明しただけだ。俺が彼女を捨てたなんて冤罪は御免被る。

 彼女から告白してきたのにこんな事になるとは…恋愛とは難しいなと思いながら友人達とのんびりと過ごしている。

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