先に好きだった女

 ずっと前から好きだった人がいる。クラスの中心みたいな人で私みたいな地味な女にも分け隔てなく話しかけてくれる彼。

 彼の周りには常に人がいて私には近づく事ができなかった。遠くから見てるだけでいい。それだけで幸せだった。


 彼がクラスの子と付き合い始めたらしい。派手な感じの子だ。話した事も無いが私は苦手だった。そんな女に彼が…私は泣いた。動きもしないで諦めてた癖にまるで裏切られたかのような心境になった。

 この考えが間違えてるってわかってる。

 文句を言う資格が無いなんてわかってる。

 でも、彼が好きだった事は偽りの無い本心だ。どうすればよかった…なんて考えても遅いんだ。でも考えずにはいられなかった。あるはずのないもしもを想像して逃げ込む。ふと現実に戻ってまた泣く。その繰り返し。


 彼があの女と別れた…というよりあの女の遊びだったらしい。恋人ごっことか言っている。遊ばれていた彼は目に見えて落ち込んでいた。彼の周りにいた友人達も彼から距離を置いていた。

ふざけるな。彼を傷つけたあの女も…傷ついてる彼を遠巻きに見ながら笑ってる奴らも許さない。

 泣いた時に想像したはずだ。彼がもし別れたら…と。勇気を出して動くのは今しかない。


 あの女と別れてから彼は1人で帰っている。今なら話しかけられる。

 笑いにきたのかと聞かれた。

 心配だったと伝えた。

 傷ついてる時はそっとしておいて欲しい。でも誰かに寄り添って欲しいとも思うのだ。

 私は何も言わずに彼の傍にいた。数日間一緒にいたら彼は少しだけど笑ってくれるようになった。


 一ヶ月もする頃には彼は普通に話せるくらいに元気になっていた。彼から離れた者はもう戻ってこない。当然だ。あんな事をして友人に戻れる訳が無い。私と彼はいつも2人だった。


 一緒に帰っていると彼から告白してくれた。支えてくれてありがとう。そして、君に離れられたらと考えたら怖くなった。だから付き合って欲しい。これからも傍にいて欲しい。


 彼の気持ちは恋愛じゃないのかもしれない。それでもよかった。彼と一緒にいられるなら。その日、私と彼は恋人となった。



 ある日、彼とデートをしているとあの女が真面目そうな男と歩いているのを見かけた。あの女の表情は…彼と付き合っていた時と同じ表情だ。

 彼は離れようとしたけど…私は彼を傷付けたあの女を許す気はなかった。


 恋人ごっこ?また捨てるの?


 女の横にいた真面目そうな男は驚いていた。女は必死に言い訳をしながら私を睨み付けてくる。


 行こう。その女とは関わりたくない。関わってもまた捨てられるだけだからな。


 彼は私を庇うように間に入ってその場から私と一緒に立ち去った。後ろからは口論するような声が聞こえてきたけど…気にしない。


 しばらく歩いて喫茶店に入ると彼から無茶をしないで欲しいと頼まれた。まあ…心配はかけたくなかったし、彼が守ってくれて嬉しかったから素直に謝った。

 彼は仕方ないなって感じで笑って許してくれた。私は自分が思っていたより彼に想われていたらしい。今になってようやく…彼と本当の恋人になれたと信じられるようになった。


 次の日からクラス内では更に孤立するようになってしまったけど…他のクラスの人達から話しかけられるようになった。あの女の事を聞かれたが…隠す必要を感じなかったので全て話した。

 それからしばらくして気付いたけどクラス内は酷い事になっていた。あの女のグループのせいで他のクラスから冷遇されているらしい。クラス内の空気は最悪だ。

 …私と彼以外は共犯だからどうでもよかったけど。それからも私達は変わらずに2人で過ごしている。私はそれだけで幸せだから。


 

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