第五章

第十四節

 億劫おっくうな秋がやってきた。私達の愛は揺らがないものだったが、それでも周りの視線が怖くなった。やれやれ、たかだかクラスメイトじゃないか。ただの他人だぞと自分に言い聞かせるが、それでも自分の中での恐怖、そして希死念慮きしねんりょは増していくばかりで、でも、そうするとひなを残すことになる事が嫌でもわかり、それでまた憂鬱ゆううつな気分になっていった。

 ひなは相変わらず明るく振る舞っていたし、(この秋と言う季節の中では)自殺と言う選択肢は提示してこなかった。それどころか強く生きるかのように立ち回っていた。

 そんなひなの本音を知ったのが十一月の後半、何気ない休日だった。

「みくりちゃん、提案があるの」とひなが珍しく真剣な顔をしているので私は「どうしたの?」としか返せずひなの次の言葉を待っていた。

「二人で死んじゃおっか」と笑顔でひなは話すもので、私は呆気にとられてしまった。そこで私は打ち解けた、秋にずっと考えていた事を。そして、二人で決意した。――幸せに勝ち逃げをしよう。

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