閑話休題Ⅳ

 三月みつきひなは美容室で大きなため息をついてしまった。「どうかしたんですか?」と美容師に聞かれるので「あはは、ちょっと恋愛で悩んでて」と返す。――恋人である憂節うきふしみくりとの恋愛形態について迷っていた。

 ひなとしては別に別れたいわけではない。むしろずっと付き合ったままで居たいのだが、クラスメイトの理解が得られず悩み続けている。これは打ち明ける必要は無いものの、将来的にどうなってしまうのか、と。

「大変そうですね」とひなのキレイな髪にハサミを入れる美容師に「ちょっと周りの理解が足りなくて」と苦笑いをしながら返す。「ちょっとはわかりますよ、私も理解されない恋愛をしてきたので」と美容師はまたハサミを入れながら、丁寧に話す。

 ひなは考えた。親から反対されていたのか、それとも相手に問題があったのか?しかし何を考えても――「好きな人が女の子だったんですよね」――ひなの頭は真っ白になった。「……ごめんなさいね、今のは聞かなかったことに」と美容師は真っ赤になった顔を隠すようにひなの後ろに回り、また丁寧に髪を切り落としていった。

 結局ひなは何も返せないまま、カットも何もかもが終わってしまったのだが、レジで最後に一言だけ、ようやく絞り出すように「同じような人が居てよかったです」とだけ返した。ひなは重要な事はとことん言えない性格なのである。美容師は驚いた顔をした後ひなの頭を撫でた。「あなた達は幸せになれるといいですね」とだけ残しお釣りを手渡した。

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