第六節
そこからひなは何も言葉を発さず、空になったオレンジジュースをストローで飲もうとし無いことに気付きを何回か繰り返していた。軽くパニックを起こしているのであろう。それもそうだ、いきなり自分は同性愛者だと打ち明けるのには勇気がいるし、それを本人に伝えるのは告白とセットになりかなりの勇気が必要な事だからだ。
グラスの氷がカランと鳴った所で私はようやく答えを返した。「私もそうだよ」とだけ。そう返すとひなは顔をあげて、はにかんだ。「良かった」とだけまた呟くと空になったオレンジジュースをまた一口飲もうとした。ひなは照れるとこう言った癖が出ることはここ一年半で何度も経験した。
その日は手を繋いで帰ったのは今でも鮮明に覚えている。暑くて汗ばむ中お互い暗黙の了解のように手を離しはしなかった。駅の改札を通る時までそれは続き、改札を通る為だけにしょうがなく手を離したと言っても過言ではないだろう。
私が「またね」と手を振るとひなは「うん、また!」と笑顔で大きく手を振り私を見送る。それがとても愛おしくて、それがまた一人の人間の人生を歪めてしまうという自覚を背負って、私は電車の中一人で涙を流した。
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