閑話休題Ⅰ

 喫茶店で三月みつきひなはため息をついた。迫るすぐ側の死に対して悩んでいるのだ。方法は決まっている。桜の木を使った首吊り自殺だ。方法は恋人である少女、憂節うきふしみくりが調べていたし死に方としては選べる手段はこれが妥当だろう。場所も選び尽くし人気のない場所を選んだ。

 なのになぜ彼女が悩んでいるのか。それはこれから死ぬために何をするか、どう生きて過ごすかではなく如何に死んでいくかである。みくりがオーダーしたドリンクを持ってくるまでの間、ひなは珍しく顔を曇らせていたがみくりが戻ってくるといつものように満開の花を彷彿ほうふつとさせる笑顔でみくりを迎えた。

 だがみくりは少しの表情の曇りも見逃さず「どうしたの?」とひなに問いかけた。ひなは少しだけ考えると「ちゃんと成功するかちょっとだけ不安で」と当たり障りのない言葉を返すとみくりは納得したような表情でひなの隣に座った。「大丈夫、私達ならうまくやれるよ」とみくりは呟きながらひなにホットココアを手渡す。

 どう死んでいくか――これはみくりの好きな言葉から取ってきた事だが、両者の価値観には一致している。ひなは既に部屋の片付けは終わっているし、みくりも遺書らしい遺書をとりあえず書いてはある。 

 この課題については冬休みが終わるまでには解決しなければならないなとひなは考えながらまたココアを一口飲んだ。

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