第4話 瑞葉と朱里 二

 成城学園前駅に着いた。駅からそれほど遠くないところに朱里あかりのマンションがあった。ここは恵人の祖師ヶ谷大蔵駅からも遠くない。ちょうど成城学園前駅と祖師ヶ谷大蔵駅の間ぐらいだった。

 近くのコンビニで飲み物とお菓子を買って帰る。二人で飲み物を飲みながら、朱里あかりが言う。

「くつろいでね。さっきコンビニで買って来たもの以外何もないけど」

瑞葉が微笑む。緊張する。

「シャワー使ってもらっていいからね。お先にどうぞ。疲れてるでしょう。これ着ていいから」

バスタオルとスウェットの上下を渡してくれた。バスルームもいい香りがする。


瑞葉がシャワーを浴びている間に果物をいてくれていた。

「いやじゃなかったら、食べててね」

さっきはコンビニで買ったもの以外、何もないと言っていたが、オレンジとキウイとリンゴがお皿の上にあった。

そう言って朱里あかりもバスルームに行った。


しばらくして朱里あかりが出てくる。一緒に果物を食べた。

「おいしいでしょ」

頷く瑞葉。


 演劇部内の誰々は誰々と付き合っていたとか、そんなことを教えてくれた。普段、誰とも付き合いがないような朱里あかりの口からこういう情報が結構たくさん聞けるのに少し驚いた。

 瑞葉が入ってくる前、慈代さんは誰かと付き合ってたようだけど、すぐだめになって、恵人と付き合い始めたのは、ついこの前だというのも教えてくれた。


「瑞葉ってさあ。男の人と、そういう経験はあるの」

あまりに単刀直入な質問に戸惑った。

朱里あかりさんは?」

「質問返し? ……でも、それには応えなきゃね。……あるよ」

「大学に入ってからですか?」

頷く朱里あかり

「高校の時から付き合ってた人がいてね。そういうことになったんだけど、でも、なんか違うかなって思って。結局、すぐ別れた」

「そうですか」

「瑞葉は?」

「私もあります、大学入ってすぐ、私も高校の時から付き合ってた人……でも、なんか違うって……私もそう思って」

「そうなんだ。なんか似てるね」

微笑む朱里あかり

ベッドに横になりながらテレビのチャンネルを変える。

朱里あかりさんって話しやすいですね。今まであまりお話したことなかったけど」

瑞葉も朱里あかりの横に寝転がった。


少しの沈黙が流れた。


「ところで悩みって?」

瑞葉は二人っきりで改めてそう聞かれ緊張した。来る前は朱里あかりに甘えたいという感じだったが、二人きりというシチュエーションと、今、二人でベッドに横になっているこの状況に緊張した。


微笑む朱里あかり

「いいよ。なんか恥ずかしいことだったら。別に言わなくても」

顔を赤らめる瑞葉。

「じゃあ、私が聞いてあげる」

朱里あかりを見つめる瑞葉。

「あの時、慈代さんを好きになった……」

どう応えていいかわからなかった。

「そう思ったけど、実は慈代さんじゃなかった……」

ドキッとした。

「慈代さんじゃなくて、自分は……」

心臓の鼓動が高鳴る。

「大丈夫よ。私もわかるから……」


「こういうの……嫌なら、嫌って言っていいんだよ……」

首を振る瑞葉。


朱里あかりは優しく瑞葉にキスした。

「あなたの相談って、こういうことでいい?」

瑞葉は目を閉じた。夢ではなく、初めて女性と愛し合った。優しく滑らかな指先が瑞葉の身体をなぞる。優しい感触。男性の手ではない感覚。触れる感触も力もすべてが繊細だった。

朱里あかりは瑞葉の手を取り自分の身体からだいざなう。瑞葉は朱里あかりも自分と同じくらい感じているのがわかった。朱里あかりに優しく触れる瑞葉。お互いの身体からだからめるように愛し合った。恍惚の中に溶け込んでいく感覚……その夜、二人は何度も愛し合い、いつの間にか気を失い眠っていた。


 朝日の中で朝食のトーストを焼いてくれる朱里。その音で目が覚めた。

「おはよう。よく眠れた?」

微笑む朱里を見ていると、なにかまったく後ろめたさのようなものはなかった。テーブルにトーストとチーズ、オレンジジュースを並べてくれた朱里に、瑞葉は後ろから抱き着いた。

「どうしたの?」

「なんでもないです」

「……そうでしょ」

「また来てもいいですか?」

「もちろんよ」

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