第3話 瑞葉と朱里 一

 朱里あかり瑞葉みずはの二人も渋谷駅に向かっていた。後ろから芽衣めいあやがやって来た。朱里あかりと一緒にいる瑞葉が珍しかったのと、自分たちも朱里あかりに近づきたいという思いがあった。

「瑞葉」

「ああ、芽衣と彩じゃない」

芽衣と彩は、朱里あかりと瑞葉を交互に見て、

「ええ? どういう組み合わせなんですか?」

「瑞葉と朱里あかりさんだなんて」

朱里あかりが『何?』という顔で二人を見る。

「珍しいですね」

という芽衣の言葉に、

「そう? 私が誰かと歩いていたら珍しい?」

「いえ? そういう訳じゃないですけど」

結局、芽衣と彩も一緒に食事に行くことになった。渋谷の街で食事をする。話題は舞台のことや演劇部内のこと。


「結局、瑞葉は恵人けいとさんなの?」

「なんか、もう、その思いは少し吹っ切れた感じかな」

「へえ、まさか本当に慈代やすよさん好きになったとかじゃないよね」

と芽衣。

「まあ、それも一つの恋の形よね」

彩が言う。

「でもさあ、私もさあ、あのとき、慈代さんに対して、ドキッとしちゃった」

「芽衣、こわかった?」

彩が興味津々に聞く。

「いや、それが私の場合、まあ怖いのは、確かに怖かったんだけど、グッと近づいて来られた瞬間よ。怖いっていうか……そのドキッが、なんか怖さのドキッじゃなくて、どっちかって言うとキュンって感じ……」

芽衣が声を大きくして言う。

「ええ?」

彩が笑い交じりに芽衣を見る。

「いや、本当なんだって、あの慈代さんの綺麗な顔で、あの距離に来られるとさあ。嘘と思うかもしれないけど、ほんと、なんか、あの時の瑞葉じゃないけど、私も心をわしづかみにされた感じっていうか、なんかイッちゃった感じだったもの」

「ええ?イッちゃったのぉ?」

「瑞葉はキスまでされたんだものねぇ」

チラッと瑞葉を見る芽衣。

「サキュバスじゃないんだから」

彩が笑う。


微笑む朱里あかり

「芽衣さん、声大き過ぎよ」


その後しばらく食事をして、埼玉方面に帰る芽衣と彩の二人とは渋谷駅で別れた。


朱里あかりが瑞葉を気に掛けていう。

「私の家っ、ていうかマンション、成城だけど来る?なんか相談あるって言ってたけど、芽衣と彩が来て言えなかったことがあるんじゃない?」

うなずく瑞葉。

「行ってもいいですか?」

「いいよ」

「行きます。相談に乗ってください」

駅まで歩く二人。

「あまり知らなかったんですけど、朱里さんって一人暮らしなんですね」

「そうだよ。実家、京都だから」

「関西なんですか?」

微笑む朱里。


「慈代さんじゃないけど、瑞葉、あなた本当に綺麗ね」

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