第2話 秘するものは華 麗
大きい舞台ではプロの演出家を招き舞台演出をして頂く。今回もいつもお世話になっているプロの演出家である
彼女もまた外部のプロの劇団にも所属している。親の影響で、小さい頃から、その世界にいたようだ。子役としてドラマに出演した経験もある。
今まで数々の舞台で役者をすることもあったが、今回の舞台では制作に徹することにした。
大学生活最後の舞台。ステージに立ちたいという思いもあったが、この脚本を書き上げた彼女は自分の書いた登場人物たちが、どんな感動を与えてくれるか客席側から見たいという思いがあった。
舞台全体を取り仕切る舞台監督は三年生の
また、舞台を仕上げるためには練習のスケジュールや各係との連携など、いろいろなスケジュール調整も必要だ。全員が各自で把握しておくというのも大事だが、きちんとスケジュール管理をするスタッフも必要だった。それは舞台監督の市原がチーフになるが、そのサポートにあたるスタッフが十数名いた。
そしてこれはどうでもいいが幽霊部員的な人たちも二十人ほどいる。
そういう訳で、実際舞台に立つ役者候補は二十人から三十人。その中でセリフがあったり、主役と絡める役者は数人となる。
この世界に入ってはみたが、演じるのは苦手でバックステージで役者を輝かせる側に回りたいと思うものもいる。『演技が苦手な人』というのは『人前に立つのが恥ずかしい人』と思いがちかもしれないが、苦手なのは客席の目ばかりでもない。
演技として、目の前の役者を本気で怒鳴りつける怒りの演技できるか、あるいは周りの目も気にせず泣く演技ができるか、そんな演技ができない自分に気が付くと向いていないと感じる。
合図と同時に、まるで人格が変わったかのように『怒りの演技』に入る。合図と同時に、『今、悲報を耳にしたかのように泣き崩れる』……それは恥ずかしいからできないのではなくて、できない者にはできないのだ。
練習が終わり、いそいそと帰って行くものもあれば、稽古場で談笑する者もあった。
別に誰しも、
しかし、稽古場で声を掛ける者は少ない。なぜだかわからない。声を掛ければ笑顔で受け応えしてくれる。一旦、話しかければ話しにくい女子ではない。ちょっと見た目より低い声の彼女はそれも魅力的だった。
そんな
「朱里さん普段はどうしてるんですか?」
「ん? 普段は演劇部の練習に来てる」
「練習がないときは?」
「そうねえ……いろいろかな」
朱里はバッグに台本を入れ、手首に何か香水のようなものをつけた。
「なんですか? それ」
「ん?」
といって、瑞葉に手首を出すように促す。そして軽く一吹き、爽やかな香りが広がった。
「一緒に食事でもしていく?」
「はい」
顔がほころぶ瑞葉。
恵人が慈代のところへ行く。慈代は
「お疲れ様、恵人君」
「お疲れ様です。」
「今日は私も途中まで一緒に帰っていいかな?」
「え?」
「一緒に帰るんでしょ。恵人君の家に。」
「ごめん。
「いや、僕はいいですよ。慈代さんがよければ。」
「セリフの練習するんだってぇ。」
「え?」
「ここでしていけば?」
「ええ?」
「うそよ。」
渋谷駅まで一緒に歩いて行く。その前を
女子を引き連れて歩いていたり、誰か特定の女性と二人で歩いているところを見たことがない。いつも一緒にいるのは男友達だ。稽古場でも男友達や後輩男子と楽しそうに話している。内容はだいたい女子の話だが……こういうところが女子から人気があるところなのかなと思った。
電車の中で話をしていると、
今回の作品については、
彼女は言う。いつも晴美に負けていた……と、小さい頃から、かなわないと思っていたという。しかし、劣等感はなかったそうだ。ずっと晴美の演技を見ていたいと思ったという。
この作品は素晴らしい作品であると同時に、彼女の思いが詰まっている。彼女は女優からもインスピレーションを得たと言った。そしてこの作品の主役は晴美だ。
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