第4話 店員応募

苦節10年を経て、めでたく 「板さん組合」ですし職人の看板を購入できた。


が、しかし・・調理人としての僕の経験は、一膳飯屋と居酒屋と茶店での料理作りだけ。


いくら 老舗の味を覚えたといっても すしを握ったことがなければ、

すし職人として働くのは無理だ!

 と今更ながらに気が付いた。


そこで開店資金は3年定期にして一時保留、


かわりに 3年間すし職人として すしを握る修行をすることにした。


幸いにも 僕には「食材を選ぶ眼」がある。

 これぞ10年間のバイト生活の成果だ!


というわけで、板さん組合で「すし職人」を募集している店に行って、自分を売り込むことにした。


 「すし職人見習いとしての授業料のお支払はできませんが、

  食材の仕入れだけは自信があります。

  だから 3年で一人前のすし職人として自立できるように僕を育て技を仕込んでください」と。


「おまえは バカか!」と呆れられた。


「はい バカです。

 この10年 バイト先でも修行先でも そう言われてきました。


 それでも 僕はすし職人になりたくて、開店資金もためたし、鑑識眼と味覚を磨き

 人脈も築いてきました。


 今の僕に足りないのは すしを握る経験とすし職人になるための教育です。

 どうか それを僕に与えてください。」と頭を下げた。


「目標を定めてまっすぐに前進を続けて来た根性は認めよう

 歩んだ道が 1本2本ズレているのが哀れだが」


店主は悩んだ末に、

「業種を問わず よそでのバイトは完全禁止

 雑用係としてこき使い、その分の賃金は支払ってやるから

 それで授業料(主に 調理実習で使う食材購入費)を支払え


 1年でものにならなければ、実習は打ち切り

 残りの2年間は雑用係としてこき使いながら、初年度分の実習経費の返済をさせる」と条件を付けて来た。


「1年で合格したら?」と言いかけると


「合格ではない進級だ、3年後に 新米すし職人としてどこかで雇ってもらえるほどの腕になっておれば、とりあえず入門研修終わりってとこだな」


「わかりました。

 これから よろしくお願いします」

  僕は 深くお辞儀をした。


「まったく 人手不足解消のために 店員を募集したはずが

 とんでもないお荷物を背負う羽目になった。


 お前のような奴を 押しかけ店員というんだろうな」と 親方はぼやいた。







 




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