第3話 漁の無い日

①卸売り市場でのバイト


朝3時半 卸売市場開門

 駆け出しのころは 荷運び係だった。


 そのうち場内整理とか 僕のバイト先ではない漁師さん達が運びこむ魚の仕分けの手伝いとかも任されるようになった。


 農家の人は ちゃんと仕分けしてから荷物を運んでくるけど

 漁師さん達は セリの始まる直前に入港してくることもあるから

 そうなると 卸売市場の人間も魚の仕分けを手伝わないと出荷が間に合わない。


 勤めて5・6年たつ頃には、門横の宿直室の一つを格安で貸してもらえることになった。

 条件は、朝3時半きっちりに門をあけること。


 本来これは「夜衛」の仕事の一つなんだけど、「夜衛」の仕事の中心は

 夜間警備と夜間トラブルの対応。


 「夜間トラブル」で一番多いのが、卸売市場の開門を待って、門前に並ぶ農家の人達の商品を狙って襲ってくる悪党&商売敵しょうばいがたきを蹴落とそうと他人の商品を傷つけようとするやから


 こういう悪い奴らを取り締まっていると、開門時間が遅れがち。


 でも 開門時間が遅くなると、セリの開始が遅れて、商品の鮮度が落ちたり

 買い取りに来る商売人たちの本業に差しさわりが出てくる。


 というわけで、あらたに2人の「夜衛助手」を採用し、

 この二人が1日交代できっちりと門を開けることになったのだ。


 そのうちの一人として僕が採用されたわけ。


 夜衛助手は めいめい 宿直室の一つを格安で借りて住み込むことになった。

  相棒は、引退した元夜衛

   なので「夜衛」のだれかが休むときには、代理を務めて臨時収入を得ているらしい。


◇ ◇

 

 夜衛助手になってからは、漁師さん達の手伝いは、鍵開け当番でない日に限り

仕事の範囲も入港後の仕分けだけに絞り込んだ。


 出漁の手伝いは 体がきつい。

 

 それに 僕が卸売市場で働く目的は あくまでも食材の品質を見極める目を養うとともに値付けのノウハウを学ぶためだから、

 せっかく 卸売市場に住み込むことができるようになったのだから、

海鮮以外の食材についても もっと学びたい、そのためには 卸売市場であきなわれる品を見る機会を増やしたいと思ったのだ。 


 でも せっかくできた漁師さん達とのつながりも保ちたかったし

漁の動向もつかんでおきたかったから、港での水揚げ作業のバイトだけは続けることにした。


朝8時過ぎ~ セリが終われば 市場の清掃 場内整備


朝9時 閉門 (当番の日は 僕が鍵をかける)


卸売市場の宿直室に住むようになった利点は、通勤時間が減って睡眠時間を確保しやすくなったこと。

 幸いにも 僕は 回りがうるさくても寝れるタイプなんだ。


欠点は、出漁に参加しなくなったので、朝食を自前で用意しなければならなくなったこと><


しかも9時きっちりに施錠しないといけないので、市場近くの飯屋のバイトができなくなり その日の朝食のまかない食(ただ)も食べられなくなった。


 おかげで5分間クッキングの為の常温保存可能な常備菜の作り方を覚えた。

 


②ランチタイムは飯屋で調理のバイト (まかない食あり)


③茶店で ティータイムのバイト(まかない食あり)


④夕方4時~夜12時まで 板さん修業 (まかない食あり)

  長年 ただ働きの雑用係を務めていたら、

  「役に立つ下働き」と認められて、給金がわりに、

  「上等なまかない食」をタダで食べさせてもらえるようになった。


 この「上等なまかない食」というのは、客に出す小鉢料理や「つきだし」・デザートと同じもの中からどれか1品だけがついているのだ。

 それらは 季節感・見た目とコストとのバランスが考え抜かれた逸品であった。


・・・

参考

 長野地方卸売市場

   http://www.nagano-ichiba.jp/daily_life

   

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る