446 戦乱の世なら軍師として歴史に名を残しまくっていた

 魔物よけに周囲に結界が張ってあったが、上側は開けてあるので光る球体は問題なく降りて来た。


「これが誠意だと?」


 超越者たるもの、人間の言葉ぐらいは理解しているハズだ。

 シヴァにも【多言語理解】があるので、どんな言葉でも理解出来る。

 光る珠は瞬くようにチカチカと光の大きさを変えた。


『お、お初にお目にかかり…』


 ビビってるような念話が伝わって来た。


「挨拶も能書きもいらん。さっさと本題に入れ。下っ端をよこしてどういうつもりだ」


『し、下っ端ではなく…ええっと、ごめんなさい!軽い気持ちでとんでもないことを…』


 くじ引きで負けた奴らしい。

 そこまで力を感じられないが、戦闘特化じゃないだけ、とも考えられる。


「複数の超越者たちがやったことだろう。全員連れて来るのが誠意じゃねぇのか?謝罪の気持ちが本当にあるのなら」


『お、おっしゃる通りですが、何故か力ががれておりまして、私が来るのが精一杯で…』


 知ってる。


「質問に答えろ。おれを転移させた目的は?」


『えーと、あの…本当のことを言っても怒りませんか?』


 そもそもが既に怒らせているので手遅れだ。


「話さないのならここで消滅させるだけだ。別にお前が話さなくても構わん。他にもいるし」


 シヴァはちゃんと作った金属(強化合金)バットを【チェンジ】で右手に装備し、自分の肩をとんとん叩きながら威嚇してみると、ひっ…と光る球体は震えて人間っぽい怯えた反応を見せた。

 …いや、超越者は元人間が多いそうだから人間っぽくて当然なのか。


『は、話します!神々が注目している人間をかっさらって転移させたら面白そうだと思っただけです!本当にごめんなさい!』


 やはりか。

 愉快犯だと聞いた時から大した理由がないとは思っていたものの、本当だとは。思念なので嘘をついてもすぐ分かる。


「魂だけ、の転移になったのは?」


『分からないです。あちらの神から干渉があったのかもしれません。魂だけでは長く保ちませんから、慌てて使えそうな身体に入れました。魂が抜けたばっかりだったので、身体に空いた穴は修復しときました』


 『修復』か。治療ではなく。

 身体を物扱いするのか。


「盗賊に襲われていた最中で、おれじゃなければ、すぐ死んでた状況だったんだけど、その辺は?」


『ごめんなさい~』


「謝れば済むとでも?賠償はどうしてくれる?」


 シヴァは金属バットで球体を軽く小突き威嚇してみる。


『ぼ、暴力はやめましょうよ、暴力は!』


「おれには問答無用で転移だったクセに?物理攻撃なんか精神生命体のあんたには効果ねぇだろ」


『そんなことありません!この珠は生命維持に必要な物なんです!』


「ほう?いいこと聞いた。分解して分析すれば、洗脳も超簡単ということだな」


『に、人間には理解出来ない仕組みですから、壊れるだけですよ!』


「おれが誰だか忘れたか?ダンジョンマスターだ。人外の知識も網羅済のな」


 なので、シヴァは精神生命体の捕まえ方もちゃんと知っていたので、マジックアイテムも作っていた。

 形はただの真っ黒な布だが、闇魔法・影魔法の付与をして『賢者の石』で効果が強化してあり、ささっと動いて包み込むよう光る球体を捕獲し、影収納より出入りが厳重な亜空間へと取り込む。当然、転移なんか出来ない。

 不具合なくスムーズにきっちり捕獲した。


 これで捕物は終了だ。

 実は愉快犯の超越者のうち、最後の一体だったのである。

 布石を置いたのが愉快犯たちなだけあり、シヴァたちが【ぐーるぐる】を使う時、愉快犯たちが密かに監視しているかもしれないので、念には念を入れてみたのだ!


 【ぐーるぐる】を使わないと、シヴァの魂を強制転移させた超越者たちの居場所が分からない、というワケではない。


 ケンさんもこの世界の神々も超越者たちの居場所を知っているので、協力してもらい、シヴァの分身たち、ダンジョンコアの分身のコアバタたち、精神生命体である使い魔のレイス、ノーライフキング、ドラゴンゾンビたち…という魔力体ばかりで軍勢を作った。

 そして、さっき捕獲した下っ端がシヴァの方こちらに向かった後、愉快犯たちのアジトを強襲し、残った愉快犯五体、離れていた三橋マナ関係の一体もすべて捕獲済だった。


 超越者の愉快犯ではあるが、強大な力を持ってるがゆえに戦う機会が滅多にないのか、武闘派では全然なかっただけか、まさか、強襲されるとは思っていなかったらしく、あっさり過ぎる程、あっさりだった。

 シヴァを奪われた形になる地球の神々にも協力を取り付けてあったのだが、出番はまったくなかった。


 色んな世界を引っかき回す超越者たちをいい加減、何とかしよう、とアカネが説得し、他の世界の神々も愉快犯たちからじわじわと力を奪い、弱らせることに協力してくれていたのだが、どうしてこんな事態になったのかも、まったく分かってなさそうだったし、これだけあっさり捕獲出来たのなら必要なかったかもしれない。



 こんな二重三重の罠を仕掛けたのはアカネである。

 しみじみと恐ろしい奥様だった。

 戦乱の世なら軍師として歴史に名を残しまくったことだろう。


 愉快犯の超越者たちは迷惑をかけられた神々に分配され、魔法契約よりもっと効力が強い神聖契約で縛り、それぞれの世界で強制労働することになっている。

 引っかき回したおかげで上手くいい方向に行った世界もあれば、破滅への秒読みが早まった世界もあるので。

 シヴァたちへの賠償もちゃんとさせるつもりだが、何にするか急いで決める必要はない。


 なんせ、寿命がかなり延びたので時間はたくさんあるのだから。


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