444 神をもビビらす我が妻…

「じゃ、おれは【界渡りの有資格者】称号ありだし、ケンさんに頼めば元の世界の元の時間軸に気軽に行けるようになった、ということ?」


 シヴァがそう訊いてみると、いやいや、とケンさんは困ったように否定した。


【もう気付いてると思うけど、シヴァのエネルギー量がオーバーし過ぎで元の世界には入れないよ。余裕で超越者クラス、しかも、上位で、神格を得るための勉強をすると神にだってなれるぐらい。やりたくなさそうだけど】


 神格は資格制みたいなものらしい。

 「出来の悪いヴェスカも試験を受けたのか?」と訊きたくなるが、神獣とは別なのかもしれないし、話がそれるので後回し。


「そりゃな。自由気ままに暮らしてる方が断然いい。じゃ、生身じゃなくケンさんに送った通信のマジックアイテムのような物を送るのはいい?…あ、でも、元の世界か途中で時間の流れが違うのか…」


【なんだよね。シヴァの故郷の世界もその間もどちらも時間の流れが違うんだ。狙った時間に合わせるのも大変だけど、マジックアイテムが送れても正常に動かなくなっちゃうと思うよ。シヴァに称号があってもシヴァ自身じゃないから、界を渡る自浄作用で変質しちゃう。たとえるなら、滝の下から上へと送るような感じ。大きい物程、水の抵抗も大きくなるでしょ?手紙ぐらいは大丈夫だと思うけど、さすがに普通の紙だと難しいだろうね】


「ケンさんに送った手紙と同じく、魔法契約で使う魔法紙に魔石粉を溶かしたインクで手紙を書いて既に元の世界の家族に送ったんだけど、それはどう?」


【こういった紙なら大丈夫。でも、元の世界と時間軸、特定出来たの?苦労してたみたいだけど】


 リアルタイムでこちらを窺っているのではなかったらしい。


「ああ。愉快犯たちの布石の素材で作った何でも探せるマジックアイテム【ぐーるぐる】で」


【へぇ。そういった使い方をしたんだね。何でも探せるのなら、どこかで眠ってる財宝探しで使うのかと思ってたんだけど】


 それが一般的な使い方なのかもしれない。

 既に大金持ちだったり、『財産なんてそこそこでいい派』でなければ。


 そんな感じに友好的に話を進め、今までの報奨と愉快犯たちから二度と干渉されないようにする対策で、シヴァとアカネはケンさんから「加護」をもらった。


「ところで、シヴァという『変革者』を奪われた元の世界の神たち…地球の神々としますが、もちろん、面白くありませんよね?」


 そこで、黙ってやり取りを見ていたアカネが改めてお礼と挨拶をしてから、口を挟んだ。


【もちろん。わたしたちの方にもクレームもらったよ。愉快犯たちがやらかしたことで予想外だったとはいえ、シヴァがいて助かってるのは確かだから。アカネさんも連れて来てるしね】


「こちらの世界にとっては結果的にプラスになったことで、地球の神々に何らか賠償するという話になっていますか?」


【賠償?いや、そういったことを求めるのは人間だけだと思うよ。神は基本的にものすごく長寿で温厚だから】


「でも、クレームを入れたぐらいなので面白くない、とは感じる、と」


【そりゃね】


「先程、少し話を聞いただけでも、愉快犯たち、今までも散々、やらかしていますよね?これ以上、つけ上がらせないよう方がよろしいのでは?影響が大き過ぎて神々が動けないのなら、わたしたちが動きます。その代わり、ケンさん以外の神々にも後ろ盾になって頂ければ幸いです」


 勇者召喚を人間に教えてそそのかしたのも、元の世界からこちらの世界への転生者、転移者が割といたのも、愉快犯たちの仕業しわざだった。


 不治の病(中二病)にかかった三橋マナを転移させたのも、愉快犯のうちの一体の仕業で、食堂の手伝いで毒を入れようとした三橋マナを愉快犯が回収したのはいいが、元の世界の神にも受取拒否され、仕方なく、ここと似たような発展途上の他の世界に連れて行った所、そこでも三橋マナはやらかし、殺された、とか。


 三橋マナも犠牲者、と言えなくもないが、あれだけ強いヒーローヒロイン願望だと、もし、転移させられず、元の世界で生活していたとしても、遅かれ早かれ、かなりの問題を起こしたことだろう。

 サイコパスの素質も十分あった。


 そして、三橋マナを回収した愉快犯…シヴァと一瞬だけ相対したことがある愉快犯は、結果的に三橋マナを殺してしまったことでシヴァの不興を更に買うと思ったらしく、大急ぎで仲間たちから抜け、遠くに旅立って行った、らしい……。


【し、シメるって何?】


 アカネの声が冷え冷えとしているだけに、ケンさんも少しビビっていた。

 本人…じゃない、本神が言った通り、温厚で争いと無縁なのなら、仕方ないことだろう。


 歴戦の勇者とて、今のアカネは怖いと思う。

 勇者じゃない単なる伴侶のシヴァは見なかったことにした。何度見ても怖いので。


「そのままです。とっ捕まえて叩きのめしてつぐなわせます。神たちもわたしたちも、さぞ舐めてるでしょうから、そこが狙い目ですね。超越者と言うからには、元人間か知的生命体だったのでしょう?ならば、いくらでもやりようがあります。お任せ下さい。少し力を貸して頂ければ」


 まずは敵の情報、とアカネは愉快犯の超越者たちの情報をさくさくと集めて行く。ケンさんだけではよく知らないこともあるし、話の裏付けのためにも他の神にも協力してもらった。

 しっかり根回しして戦う気満々な妻にシヴァは苦笑するしかない。

 話し合いによる平和的解決という選択肢を放棄したのは、愉快犯たちだ。

 シヴァも叩きのめすのは賛成だが、捕まえておくのも、償わせるのも労力がかなりかかるのでは、と思ってしまう。

 まぁ、それを面倒がっていては、結局、放置していた神々と同じか。




 では、とシヴァは神々たちの情報を耳に入れながらアカネの希望に添えるよう、コアたちと精神生命体でも捕獲出来るマジックアイテムの作成に入った。

 コアたちも精神生命体なので、自らの弱点はよく分かっているワケだ。

 マスターたるシヴァにそれをさらすことを躊躇ちゅうちょするコアなんていない。

 本当にしっかりと信頼関係を築いているので。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る