443 普通のじいちゃんみたいなんだが……

 高ランク魔石をたくさん費やし、神との通信マジックアイテムを創造すると、シヴァとアカネはイディオスを迎えに行ってブルクシード王国へと出向いた。

 魔力が豊富な地域でシヴァがマスターのダンジョンも多く、フェニックスのカーマインの担当地区である。


 フェンリルのイディオスは今日もふわふわもふもふだった。

 常夏の南国では、さすがに暑かったらしく、氷魔法でイディオスの周囲の空気だけ適温に冷やしている。


 場所はカーマインの住処の洞窟。

 ハゲ山の中腹にあるこの洞窟は標高も結構高いので眺めがよく、ここまで他の人間は来れないし、魔物の邪魔も入らない。

 それでも、一応、精霊や妖精にも邪魔されないよう周囲に結界を張る。


 神獣二匹から上司にあたる神に繋がるライン…『きずな』のようなものを辿り、空間魔法の付与で超遠距離でも繋がる超高性能の通信マジックアイテムを【転移】で送り付ければ、シヴァたちは神と直で話せるワケだ。

 さすがに、そんなに小型化は出来ず、太めのバングル型である。

 何でも探せる【ぐーるぐる】で神の居場所を特定するより、この方が早かった。


【え、何これ、どうやって使うもの?ボタンとか全然ないんだけど?石に触ればいいの?年寄りに難しい操作のアイテムはさ~…って、何なに、思念操作なんだ。へぇ、すごいね。この大きさでかなりの出力があるみたいだし、どれだけ有能なんだか。…って、もう繋がってる感じ?】


 バングル型超高性能通信マジックアイテムを緩衝材代わりの結界の箱に入れ、魔法契約で使う魔法紙の手紙も入れた。連絡が取りたい旨とマジックアイテムの取扱説明である。

 魔石粉入りインクスタンプでイディオスの肉球スタンプとカーマインの鳥足スタンプを付けたので、神も不審な物とは思わなかったのはいいのだが……声は青年なのに、普通のじいちゃんみたいなんだが……。


 シヴァは面食らい、アカネは遠慮なく笑っていた。

 あちゃ~とばかりにカーマインがあらぬ方向を向き、イディオスは前足で目元を覆う。

 通話は双方向でこちらはスピーカーにしてあるので、この場の全員に聞こえる。

 言語が違っても大丈夫なよう念話も併用されてるので、言葉のニュアンスもちゃんと伝わっていた。


「イディオスとカーマインの上司にあたる神様、でいいんだよな?初めまして?イディオスとカーマインの友人で、強制単身赴任転移をさせられていた者だ。通称のシヴァと呼んでくれ」


 シヴァはこちらの共通語で、念話も併用して返した。


【え、もう通じてたの?…コホン。失礼した。さすが、方々から欲しがられてる人材だね。こんなにあっさり通話出来るなんてすごいアイテムだ。直接話すのは初めまして。君たちの概念だと神と呼ばれる存在だよ。管理者と言い換えてもいいかもしれないけど】


 フレンドリー……。

 神の言葉はこちらの共通語に変わった。やはり、念話も併用しているので誰にでも分かる。

 神の声はそう低い声ではないが、青年のような感じだった。声優をやらせたいような美声である。


「じゃ、こっちの状況は分かっていると思っていいんだよな?色々と説明して欲しいんだけど、まず、さっき言った『方々から欲しがられる人材』なのはおれで、誰から?」


【神々や超越者たちだよ。あ、そうそう、神獣たちが随分お世話になったね!予想を遥かに上回る程、活躍してくれて感謝する。わたしのことは『ケンさん』と呼んでくれ。人間には発音も認識も出来ない名前だから一番近い音で通称だとそうなるから】


「分かった。では、まず、『ケンさん』の立ち位置は?」


【わたしかい?この世界を管理している一人…一柱だけど、どれだけ力があるのかって訊かれても基準も曖昧だし、概念も違うから説明も難しいんだよね。万能じゃないのはもう知ってると思うけど】


「ついさっきも思い知った。じゃ、おれがいきなり転移させられたことについて、知ってることを話してくれ」


 そうして聞いた所によると……。

 元々規格外なシヴァは元の世界の神々は元より、方々の他の世界の神々からも欲しがられるような人材だった。

 生まれ付き適応能力が高くてどこの世界でも高い能力を示せる素質がある『改革者』と呼ばれる存在なのだとか。


 しかし、それだけ注目されていると、返ってどこも身動きが取れず、元の世界の神々も手放すワケがなく、シヴァの寿命が来てからが争奪戦の本番だと目を離していた結果、あちこちの世界をひっかき回して楽しんでいるいわゆる愉快犯の超越者たちが無理矢理、シヴァの魂だけケンさんたちが管理する世界…この世界に転移させたらしい。


 身体ごとだとすぐ気付かれるから、なのか、無理矢理だったから身体は転移出来なかったのか、は分からない。


 そもそも、何故、『改革者』が欲しがられるのか?

 行き詰まっていたり、破滅に向かっている世界が多いので、『改革者』がその世界の者たちの刺激になれば世界がまた発展するから、だそう。


 たとえば、水の入ったグラスに水滴を落とすと波紋が広がる。

 その水滴に色を付け、その色付き水滴を何度も落とせばグラスの水はやがて色付いて来る。


 この場合、水の入ったグラスは世界、色付き水滴は『改革者』、何度も色付き水滴を落とす行動は『改革者』の行動、水の色が濃い程、発展している、或いは豊かな世界、ということだ。

 行動力があり、世界に影響を与える程、色んな力があるのが『改革者』の基本らしい。

 まぁ、その辺はだいたい予想通りで、よくある異世界モノ設定とも言える。




 シヴァが魂だけの強制単身赴任転移された時、ケンさんたちこの世界の神々もすぐに気付いていたが、戻してあげたくても神々は力が強過ぎて下手に介入が出来ず、取りあえず、【多言語理解】【状態異常全耐性】スキルと空間魔法を与えて、すぐには死なないようにした。

 『改革者』であり、転移・転生者特典で魔法とスキルの取得はし易いので、後は自分で何とかするだろう、と。


 しかし、シヴァは予想以上に短期間で着々と力を付け、ケンさんたちが画策する前にイディオスやカーマインと仲良しになったので、そのまま行動を観察していたらしい。

 やがて、シヴァは成り行きで色々と人も魔物も神獣もコアたち精神生命体も救って行ったので、この世界の神々はシヴァに感謝している。


 シヴァがアカネを連れて来ようとした時、この世界の神々も手助けしようとは思ったらしいが、コアたちのサポートの方が的確で優秀だったので神々の出番がないまま、無事に成功したのだ、とか。

 シヴァがコアたちとちゃんとした信頼関係を築いていたことも大きい。


 キラキラ宝箱のレア素材、【賢者の石】、【道標の珠みちしるべのたま】、エルフに伝わるおとぎ話、と布石を置いたのは愉快犯の超越者たちで、シヴァの転移に合わせて置いたのではなく、昔の転移者、転生者のために仕掛けて置いたものだった。


 あいにくと、昔の転移者たちは多少の手がかりを掴んだ程度で【ぐーるぐる】のようなマジックアイテム作成までは、全然辿り着けなかった。



 ちなみに、鑑定スキルはシヴァが予想した通り、端末のようなもので「布石が無駄になってざまぁ」みたいな鑑定結果が出たのは、シヴァの鑑定はシヴァが「鑑定様」と呼んで褒めて敬っていたからか、スキルなのに何だか自我が芽生えているらしい。

 スキルには自由裁量や学習能力が付いてるだけに、AI入りの端末のようなものなのだろう。

 これはちょっと嬉しい情報だった。

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