442 あーあ、頭かてぇな、おれ……
超越者と敵対するに辺り、まずやらないとならないことは何か。
味方を増やすことだ。
『敵を知り、己を知れば、百戦危うからず』という通り、シヴァの意識…魂だけを転移させアルトの身体に入れやがった元凶は超越者たちだ。
神かも、と前は候補に入れていたが、神ならゲームのように胡散臭い情報を散りばめ、集めさせたりはしないだろうし、シヴァの優秀な鑑定様が、
【界渡りの有資格者…善行を重ね、異世界に自在に渡る資格を得た者。時々経験値十倍ボーナス。この世界に転移させた超越者たちも、さぞ、慌てふためいていることだろう。布石のほとんどが全部台無しになったのだから】
と『超越者たち』と特定している。
そこで改めて疑問に思うのが『鑑定スキル』とはなんぞや?ということだ。
鑑定結果はどうやって出すのだろうか?
人や物自体にラベルのように詳細情報が貼り付いているのかと考えたことがあるが、それならば錬金術で素材別分解する際、光学顕微鏡や拡大魔法でも見難い、ナノレベルの物質まで鑑定出来るのはおかしい。
そんな小さなものの、どこにどうやってラベルを貼り付けることが出来るのか。
ならば、どこかにデーターベースみたいなものがあり、それにアクセスして表示出来るパソコンやタブレットのような端末が鑑定スキルと考えるべきだろう。
人によって鑑定結果が違ったり、得意分野が違ったりするのは、鑑定スキルを使って行くうちに、その人の得意分野興味のある分野特化にカスタマイズされ、データーベースのアクセスが速く、情報取得範囲も広くなるのではないだろうか。
鑑定結果が人それぞれで一字一句同じものではないのは、その鑑定した人の語彙力、理解力が及ぶ範囲ということで違いが出る、と。
鑑定阻害や隠蔽も、データーベースとのアクセスを阻害することだとすると、色々と納得が行く。
では、そのデーターベースはどこにある?
スキルとこの世界を作った創造主…つまり、神の所しかあり得ない。
天界樹とか世界樹とかファンタジーでありがちなものが管理しているのかもしれないが、神が責任者なのは変わるまい。
この神がシヴァの強制単身赴任転移に関わってる可能性は低い。
何故なら、神の使いたる神獣が知らなかったからだ。
この世界の神が関わっているのなら、神獣に見張りぐらいはさせたことだろう。歴史が証明している通り、異世界人は不確定要素過ぎるのだから。
…ということで、フェンリルの神獣イディオスとフェニックスの神獣カーマインを通し、上司にあたる神に連絡を取ってもらうことにした。
この世界の神も一柱だけではなく、他の神はシヴァの強制単身赴任転移に関わってるかもしれないので、全部の神が無罪とは思わない。
鑑定様の『超越者たち』の『たち』は『超越者』と『神』、或いは『超越者たち』と『神たち』かもしれないのだ。
それでも、神は敵ではないとシヴァは思う。
神が敵ならば、シヴァがせっせと覚えて磨いたスキルや魔法を取り上げたり、ステータスが上がらないよう妨害したり、シヴァの行動を妨害する何らかを派遣したりといったことをしそうだからだ。
神は力が大きいだけに、直接人間を排除したり、妨害したりは出来ないだろう。
下手に動くと天変地異、それが神だから。
「って、シヴァ。スキルや魔法を削除出来るよね?神の力じゃん、それ」
アカネがその辺にツッコミを入れた。
アカネとコアたちとのリモート会議では、過激な武装準備がエスカレートし、うっかりでこの大陸自体が吹き飛びそうだったので、シヴァが止め、まずは腹ごしらえ、と穴子メインの寿司を食べさせて落ち着かせた。
美味しい物は殺伐とした気持ちも和ませるものである。
その後、改めて状況把握から、と話し合っている所だった。
「今更も今更。『アイテム創造』スキルも神の力だぞ。魔力で物質を作り出せるんだぜ?」
「ディメンションハウスもどんどんレベルを上げて行くと、新しい世界が作れちゃう『創世』アイテムだっけね、そういえば」
「そうなんだって。必要魔力量が多過ぎてそこまでは中々だろうけどな」
シヴァの魔力量は既に無制限、計算上の寿命もかなーり延びているようだし、ダンジョンコアたちのおかげで大量の魔力も集めることも出来るので、創世しようと思えば出来そうだが、面倒なのでやらない。
もう人間のカテゴリに入ってないような気がしなくもないが、シヴァははっきりさせたくないので詳細鑑定なんかしない。
知らない方がいいこと、はあるのだ!
「…んん?ねぇ、シヴァ。『アイテム創造』で【ぐーるぐる】が作れたんじゃないの?素材なしで魔力だけで。【ぐーるぐる】の存在を知らなくても、何でも探せるマジックアイテムなら作れたんじゃない?」
そこで、アカネがそんなことに気が付く。
「いや、まさか、そんな……」
まさかな、とは思ったものの、シヴァの規格外さはアカネの方がよく分かっている。
シヴァは『アイテム創造』で魔力だけで【ぐーるぐる】を作ってみた。
大量の魔力が一気に消費されるが、浮遊魔力利用が出来るし、そもそも、ダンジョン内なので魔力が豊富だった。全然、余裕で足りた。
そして、まったく同じ【ぐーるぐる】が作れた。
「…って、作れるし!素材探す必要なかったのかよ~」
素材はあればあったで、色々と使えそうだから、それはいいのだが……。
「やっぱり!ひっかけじゃん、これもさ。…いや、でも、イディオスたちの神様のおかげってこと?『アイテム創造』って何かの称号が付いた時にもらったスキルだったよね?」
「ああ。『常闇の光明Extra』な。前からあったけど、ランクアップして。サファリス国の大雨災害の時だ。…ってことは、八ヶ月前には帰還に関するアイテムや、おれを強制転移させた元凶を探るアイテムが作れたってことか!」
別に何でも探せる【ぐーるぐる】じゃなくてもいいのだ。
素材なしで【アイテム創造】スキルを使うと消費魔力が高いため、その時のシヴァの魔力量だと足りないかもしれないが、コアたちからもらえばいいだけで……。
神が差しのべたチャンスに気付かないにも程があった……。
シヴァは思わず両手で頭を抱えた。
視野を広く持つのはいいが、色んなことに手を出し、細かいことばかりに気を回し、簡単なことに気付かず、色んな可能性を考えたり、複雑に考え過ぎたりして変な所で抜けてる、というのはシヴァの短所である。
「どんまい。イディオスたちの神様が気にかけてくれてることが改めて分かったってことだよね。じゃ、シヴァ、その神様と直で通信出来るアイテムを作ったら?イディオスたち経由より早い気がする」
アカネはぽんぽんとシヴァの背中を軽く叩いて慰めつつ、新たにかなり建設的な提案をした。イディオスたちは神獣だけに上司たる神に、どうしても遠慮があるからだろう。
「…だな。本当に賢いのはアカネだよな。あーあ、頭かてぇな、おれ……」
「まぁまぁ。別に急いでなかったんだし、時間があっただけ情報も集まってるし、わたしたちも強くなってて、味方も増えてるんだからさ。悪いことばかりじゃないと思う」
「フォローまで上手な奥様」
やる気にさせるのも上手いと思う。
シヴァは気を取り直して、イディオスたちの上司にあたる神と通信出来るアイテムを創造することにした。
神獣と神は加護やら契約やらで繋がってるハズなので、そこから辿ればいいのだ。
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