440 マジで天才!さすが奥様。さすおく!

 【並列思考】があるおかげで、笑いながらでもシヴァはしっかりマーキングした。

 国は多分日本だろうが、穴子の寿司がある場所が生まれ育った街とは限らない。

 もっと細かく条件を指定して行けば、シヴァの実家まで特定出来る。

 実家ならどこに手紙を置いても早めに気が付くだろう。


 シヴァが異世界に来て、十一ヶ月が過ぎた頃だ。

 アカネがこちらに来てからは八ヶ月。

 こちらで三ヶ月が三日だったことから、元世界では十日も経っていないかもしれない。

 まぁ、こちらの世界も道中も時間の流れが一定だとしたら、であって、そうじゃない可能性も高い。


 過去の転移者がバラバラな時代からこちらに来ていることからしても、案外、もっと時間が経ってるかもしれない。

 どこで時間の流れが変わってるのか分からないし、その辺も不明だった。



 笑い終わると、シヴァとアカネはそれぞれ手紙を書いた。

 パスは出来たので最初で最後にはならないだろうが、どれぐらい魔力を使うのかも分かっていないので、手紙を厚くは出来ない。

 最低限伝えたいことだけ書く。


――――――――――――――――――――――――――――――

〈世界は違っても茜と快適生活してるんで心配なく。英樹〉

――――――――――――――――――――――――――――――


 簡潔でいいと思う。久々に本名と日本語を書いた。


「無機物だからこそ、どこかに紛れちゃうってことはないの?」


「結界で覆う。どうせ、魔力を使うワケだし一石二鳥」


「なら、魔法契約で使う魔法紙に、魔石粉を溶かしたインクで手紙を書いた方がよかったんじゃない?契約に使うからこそ、簡単に文字の改変は出来ないんだよね?」


「…天才か!採用」


「シヴァって時々抜けてるよね…」


 シヴァは柔軟な発想が苦手なだけだと思う。

 理論理屈派だけあって。

 アカネはどんな手紙を書いたのか見せてもらったが……。


――――――――――――――――――――――――――――――

〈元気だよ!こちらの方が食べ物が美味しいと思う! 茜〉

――――――――――――――――――――――――――――――


「……アカネ……」


 こんなメモで本当にいいのか。


「何書いても心配するかなぁ、と思って。シヴァ…英樹君の手紙がなくても、一緒にいるのは分かってるだろうし」


「それはそうかもだけど。…ま、初回なんで今後に期待でいっか」


「でしょ!何か色々と異世界モノが流れて来てるから、あっちからこっちの物移動なら簡単かもしれないし」


「その辺もいずれは検証したいな。どうせ、時間はたっぷりあるし。どこぞの超越者たちが邪魔しなければ、な」


「だよね。そこが不安要素。最初が強制単身赴任転移だったしね!…あっ!すごいことに気付いた!探せるじゃん!その【ぐーるぐる】でどこぞの超越者たち!」


「っ!!マジで天才!さすが奥様。さすおく!

 ……よし、まずは元の世界に手紙を送って、それから武装をしっかり整えてから元凶を探してみるか」


「武装は絶対だよね!」


【…マスター、戦争やろうとしてます?】


 そこで、キーコが口を挟んだ。うろたえているような声音なのは、止めた方がいいのか、加勢した方がいいのか迷ってるからだろう。


「いいや。お礼参りだよ、お礼参り。おれらの世界ではよくある風習」


「なら、金属バットが欲しい所だね!」


「わ、スゲー昭和。…まぁ、キーコたちには魔力のサポートをしてもらおうかな。念のために」


 場合によっては分身を無数に展開するので。

 こんなこともあろうかと、分身装備も充実させてある。

 さすがに無尽蔵な魔力でも一時期に大量に魔力を使うと、シヴァだけの魔力では足りなくなるだろうから、コアたちのサポートは必須だ。


「そうだね。念のために」


 ふふふふ、と含み笑うアカネははっきり言って怖い。

 超越者たちの振る舞いにムカついてるのはシヴァだけじゃないのだ。当然ながら。


【…あの、金属バットとは一体…】


「威嚇道具」


「スポーツの道具、時々護身用でしょ」


「そうとも言う。…おれさ。ノリでシヴァって名乗ったけど、結構、本質を突いてるんじゃねぇかな~と思ってみたり。破壊するの得意だし?」


「色々壊したよね~。カップルクラッシャーでもあったし」


「……また懐かしいあだ名を。おれがワザと壊したワケじゃねぇのに」


「精神攻撃の方が効くんじゃないかと思うんだよね。曲がりなりとも超越者なら精神生命体だろうし、それならわたしも得意。感覚や感性が違ったとしても、よく観察していれば弱点は絶対あるハズ」


 あれとかこれとか、とぶつぶつ言い出すアカネは、本気過ぎてシヴァは何だか寒気を感じて来た。

 シヴァが思う以上に茜は強制単身赴任転移に怒っていた、ということだろう。

 まぁ、いきなり旦那が仮死状態、原因不明でこのままだと植物人間状態に、となれば、当然か。


 ともかく、元の世界のシヴァの実家に手紙を送った。

 アカネの手紙も一緒に。アカネの実家も近いので届けてくれるだろう。

 意外と、というか、大きさも重さも質量的に小さかったせいか、手紙自体が魔力を帯びてるからか、思った程、魔力は使わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る