439 穴子のお寿司で!

 エルフの里を調査した所、大した情報は持ってなかった。

 本体も分身も姿を見せず、何か知っていそうな立場が上らしきエルフに自白剤を投与したり、【暗示】をかけたり、文献を漁ったりして調査したにも関わらず、だ。

 【道標の珠みちしるべのたま】については、本当におとぎ話程度の内容しかなかったのである。


 別に、シヴァはエルフを嫌ってるワケじゃない。

 最初はもう少し穏便に話を聞こうとしたのだが、結界に何も反応させずに侵入したと分かった途端、問答無用で攻撃して来たので、「なら、別にいっか」と割り切っただけである。

 攻撃して来たのに、記憶を曖昧にした程度で許してやった辺り、かなり寛容な対応だろう。


 Sランク弓師については、さすがに郷里だけあって多くの情報が集まった。

 【探知】と【鑑定】を同時発動する多重魔法でエルフの里全体をサーチしてみたのだ!

 キーワードは「Sランク」。名前が分かってからは名前でも。

 幼馴染や親族、親しくしていた人たちには【暗示】をかけて、更に詳しいことを聞き出した。


 Sランク弓師の名前はロドニー・メラーニ。

 今年で156歳だが、見た目は二十歳前後。肩までの青銀の髪をくくっている、という髪型も若く見えるのかもしれない。目の色は濃い青。【魔眼】持ちで相当遠くの標的にも射ることが出来る。

 全然見通しが利かない洞窟タイプダンジョンが苦手。まぁ、弓師なら当然だ。ある程度、風魔法で矢の軌道を曲げられて見えない所へも当てられても限界はある。

 接近戦が出来ないワケでもなく、武器は一通りは扱えるらしい。


 魔法は風魔法が得意、他に水と土。

 『万里一空ばんりいっくう』というAランクパーティに所属。

 『一つの目標に向かってひたすら努力』という四字熟語をパーティ名にしているが、単に語呂がよかっただけらしい。

 国語教師か漢字好きか中二病罹患者がいたのか、異世界人が残した書物にあったそうな。


 A、Bランクのパーティメンバーも強く、今まで結構な数のダンジョンを攻略しているらしい。

 へぇ、と思い、シヴァがダンジョン詳細が載っている【冒険の書】を確認すると、近隣国の攻略してあるダンジョンの三割ぐらいはこの『万里一空』だった。


 そして、その『万里一空』は現在、ヒマリア国の貴族からの依頼で出稼ぎ中だった。

 他に興味深い情報もないようなので、飛行カメラと分身を回収して引き上げようと思ったシヴァだが、ふと思い付いて【地質調査】魔法を使った。分身も同じく。エルフの里、その周囲一帯に。


【ゼロ、あったぞ!隕鉄いんてつ。しかも、たっぷりと】


 すぐに分身『はー』から連絡があった。


「やっぱりか。あー胡散うさんくさっ!」


 手がかりがあるからには何か用意してあるだろう、と思ったワケだが、その通りだったとは。

 胡散臭くても何でも探せる【ぐーるぐる】は魅力的だし、他にも色々使えそうな素材は確保したいので、隕鉄はしっかりと転移で引き寄せて回収した。

 地すべりや地盤沈下にならないよう、ちゃんと穴埋めもしておいた。


 それから、分身を回収して記憶を共有して解除してから、シヴァはキエンダンジョンの自宅へと引き上げた。


 ******


「何、そのお膳立てってさ~」


 キエンダンジョンの自宅のリビングにて、おやつついでにシヴァがアカネに報告した所、アカネもかなり不審げだった。


「しかし、前回はまったくのスルーしたんで、鑑定様が嘲笑してたんだけど」


【界渡りの有資格者・善行を重ね、異世界に自在に渡る資格を得た者。時々経験値十倍ボーナス。も、さぞ、慌てふためいていることだろう。布石のほとんどが全部台無しになったのだから】


 こんな鑑定結果だったので。


「布石が『道標の珠みちしるべのたま』と『隕鉄』だったってことだよね?」


「おそらく。…はい、そして、こちらが集めた素材で作った【ぐーるぐる】」


 形の自由が利いたのでキューブ型で投射するタイプにしてみた。

 小型プロジェクターの「ロジェ」と同じく、スクリーン結界も内蔵である。

 【探知】と【鑑定】を同時発動する多重魔法でも探しものは出来るが、当然ながら範囲が限られている。

 その点、【ぐーるぐる】は出力が段違いで、世界を越えられる程の広範囲を探せる、らしい。鑑定様の鑑定結果によると。


「もう作ったんだ…」


「穴子とかはもとかシャコとか欲しいし」


 長細い仲間…どれもウナギ目…はまだうなぎしか見付けてないのだ。

 うなぎは鱗があるが、穴子と鱧にはなく、海水魚である。鱧は怖い顔で小骨が多いのが有名だ。旬は夏。骨切りをした天ぷらが美味しい!

 エビ系は色々いてもシャコみたいなのはまだ見ていない。


「そっちなのね。確かに欲しい。で、どうやって使うの?試しに使ってみた?」


「まだこれから。穴子から探す?タブレットと同じく思念操作。具体的に思い浮かべる。まったく同じ物だけじゃなく、似たような物も可能だから魔物も検索範囲に入るぞ。…っつーか、まったく同じ穴子だけで検索したら元の世界が分かるのかも?」


「え、そんなに簡単?色んな世界にいそうなんだけど」


「パラレルでも少しずつ違ってるんだから、生態系も変わって来る、と思う」


「あーまぁ、そう言われてばそうかも」


「ともかく、使ってみよう」


 握りの寿司桶、スーパーの寿司パックにも、ほぼ入っているのが穴子の蒲焼の寿司だ。


 寿司ネタが大きいことで知られる回転寿司チェーンでは、シャリの五倍ぐらいのでかい穴子だっけ。

 穴子はうなぎより脂は少ないだけに食欲がない時でも食べ易く、蒲焼は香ばしくて身はふっくら。

 高い寿司屋の穴子も当然いいが、あそこのチェーン店の穴子も好きだったなぁ。

 チェーン店でも店ごとに微妙にタレも焼き加減も違っていて、違う地域で食べた時は「これもまぁまぁだけど、食べたかったのはこれじゃない」感がすごかった。


 そんな風にかなり具体的に想像し、穴子の寿司で検索した所、すぐにヒットした!

 しかも、一件!


 同じ世界に複数同じ物がある時は、現在地から近いものだけ表示することも出来るし、遠い世界ならどの世界にあるのか、だけを表示することも出来る。この場合は後者だ。


「…アカネ、ものすごく簡単に元の世界が特定出来たんだけど。穴子の寿司で!」


「穴子のお寿司で!」


 復唱したアカネが吹き出すのと同時に、シヴァも大笑いしてしまった。

 もう笑うしかないだろう。


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