430 さくっと捕まえて餌付けして交渉した結果

 マルセリーノはあれから治療を続けるうちに高熱を出したり、むくみが酷くなったりしたものの、ある所を越えた時点でスッと症状が治まり快方に向かった。保護して三日後のことだ。


 呪いは早々に解呪しても、悪化させる要因がなくなっただけで、マルセリーノは衰弱し過ぎていて、過剰に魔力を摂取し過ぎてる状況が長かったため、制御出来なくなり魔力暴走をするようになっていた。

 伸びたゴムは戻らないのと一緒だ。


 魔道具を作って魔力を一定値で安定させるようにしたが、本人が魔力制御をし直さない限り、一生魔道具なしでは生活出来なくなるので、元気になったらそれが一番の課題になるだろう。


 そもそもちゃんと魔力操作が自分で出来ていれば、魔石症にはならなかったのだ。自然に任せず、意識して余剰魔力は溜め込まず、排出出来るので。


 食事に魔石の粉を混ぜていたのは公爵家の普通の料理人で、医者からマルセリーノの薬だと言われていたが、公爵夫妻に呼ばれた医者ではなかったので、それでまた調査して…と面倒だった。

 味見をする料理人は問題なかったので、「体調をよくするためにも残さず食べなさい」と言っていた公爵が罪悪感と申し訳なさを感じることとなった。


 そう!

 公爵夫妻にマルセリーノの病気は魔石症で、呪いは浮遊魔力を集めて吸収するもので魔石症を悪化させるもの、原因は誰でどれだけ関与していたのか教えたのだ!

 召喚士ギレンの使い魔の妖精と、テイマーエイドの小鳥の従魔を通して小出しに。


 ギレンたちが情報集めに放っていたので、さくっと捕まえて餌付けして交渉した結果である。

 妖精、従魔の手柄になるし、ギレンたちにも報酬を支払われるし、こちらは正体を隠せるし、で一挙両得なのだ。


『貴族たちが面倒なのは分からなくもないけど、何の縁もない子の難しい病気の治療をして、手柄を譲ってまで正体を隠すにゃーこやのメリットって何?どうにも納得出来ないんだけど~』


 パリパリとクッキーを食べながら、蝶の羽を持つ手のひらサイズの人型妖精…マルティカが何度目かにそう訊く。


『だから、一般的には納得し難いメリットがこちらにはあるんだって』


 難しい病気の検証をしたいし、臨床実験もしたいし、薬師でもあるからどういった薬が効くのかも…と何度も説明したのだが、マルティカには理解出来なかったので、シヴァはかなり簡単に言う。

 会話は念話で、ここは王都オルディアの宿の一室だ。


『そもそも『にゃーこや』って何が目的の組織なの?…ああ、都合が悪くなければ、でいいけど』


 機嫌を損ねるかも!とマルティカはやっと思ったらしい。

 妖精は大半が素直な性質なので腹芸は無理だ。


『非合法の組織じゃなくちゃんとした商会だっつーの。自動販売魔道具でかき氷、カップラーメン、小冊子を売ってて、高級宿屋や他の施設も経営してるんだよ。自動販売魔道具のレア素材や技術は一見、採算が取れないように見えるようだけど、他で取れるし、長期的には十分に利益が出るってワケ』


『じゃ、『奇跡』を起こしてるのは?』


『そう言われてるだけで本当は『奇跡』じゃねぇから。この世界の医療は遅れてるんで、『治療ゲリラ』をして臨床実験しまくってるだけ。霊薬なんかなくても簡単に手に入る薬草で十分に治る病気なのに、知識がないせいで悪化させてる場合も多いんだよ。色々気を付けていれば、病気にかからずにも済むのに』


『よく分からないからもっと簡単に言って』


『おれの勝手で強制治療、原因不明の知らねぇ病気も悪化はしねぇから患者にもメリットってだけ』


『何で悪化しないって言えるの?』


『人体の構造を知ってるし、レアな霊薬も作ってるから』


『って、あれ?おとぎ話って言われてる万能薬のこと?本当にあるの?』


『あるんだよ。ギレンだって若返りの霊薬を飲んでるだろ』


『え、そうなの?今の姿から何年経っても変わらないのはステータスが高いからかと思ってた』


 妖精が人間の容姿を気にしているワケがなく、時間の観念も緩いので、マルティカが気付くまで十何年は経っていそうだ。


『若いうちにステータスを高くするのは、並大抵の努力じゃ無理だぞ。素質も必要だしな』


『それはそっか。…って、店長は?若いよね?』


『そりゃもう努力したとも』


 元の世界でも。


『店長はギレンより遥かに素質も才能もあったってことよね』


『それはあるだろうな。…で、そのギレンに怪しまれてねぇ?』


『大丈夫よ。わたし、有能だもん。精霊にも協力してもらったって本当のことも言ったし』


 下位の精霊は妖精より意識がしっかりしておらず、力もあまりないが、たくさん集まれば情報集めのお手伝いぐらいは余裕で出来る。


『伊達に長生きしてねぇな』


 マルティカは素直な性格でも、長寿なだけに経験で知恵は回るようだ。


『そうでしょ。大いに敬って美味しいお菓子を献上しなさい!』


『はいはい。…っつーか、あまり頻繁だとギレンの使い魔から外れちまうんじゃねぇの?その使い魔契約、スゲェ緩いし』


 マルティカを気遣ったのか、そうぎっちり縛ると意志まで縛ってしまい逆に使えないか。


『…はっ!それはダメだわ。残念だけど、時々ね』


 これからも長く付き合って行きたいらしい。


『はいはい』


 シヴァは軽く手を振ってマルティカを見送った。


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