429 突貫でもよく出来てるだろ?
すぐにマルセリーノの部屋に通された『裁きの火炎』だが……息を呑んだ。
「これは酷い…」
「可哀想に…」
豪華な部屋とベッドと服が痩せ細った身体に不似合い過ぎて、更に憐れに見えるのだ。
召喚士ギレンはさすが人生経験の差か、すぐに立ち直り、出来ることはしてみよう、と脈を取ったり、まぶたを上げて目を見たり、口の中を見たり、腕のアザを見たり、魔力を通してみたりと診察めいたことをした。
「突貫でもよく出来てるだろ?」とシヴァは威張りたくなったが、この状況では自慢出来ない。
当然ながら、鑑定偽装もしてあるので、シヴァ以上のレベルじゃなければ、見抜けまい。
レベルなんて超越している神獣にはバレバレだが。
「せめて、どんな呪いか分かれば、手の打ちようがあると思うんだが…」
「呪いかどうかすらも分からないのです…。他国には呪術師がいると聞きますが、この国にはいるかどうかも調査中で」
疲れた顔を隠すためか、厚塗り化粧の公爵夫人がそう答える。
「後ろ暗い連中ばかりだしな…。呪いなのは確実だが…エイド、病気にも
ギレンは仲間の回復魔法が使えるテイマーのエイドにそう訊いた。
「あいにくと病気には詳しくない」
「むくむってことは血の巡りが悪いんだと思うわよ」
女魔法使いがそう意見を述べる。
「お医者様もそう言って色々と調べていましたが、病気の特定は出来ませんでした」
公爵夫人はそう教えると、何かを決意したかのようにスカートをぎゅっと握った。
「あの、病気に詳しいヒーラーのアテはありませんでしょうか?怪我を治したことがある方ばかりで、病気の方は中々見付からないのです。お医者様でも薬師でもどなたでもいいです。呪いがどうにか出来る人が見付かるまで、どうにか保たせることが出来れば、希望が…っっ」
公爵夫人はにじむ涙を我慢するかのように目を閉じた。
「思い詰めない方がいいわ。息子よりあなたが先に参ってしまう」
同情したらしく、女魔法使いが公爵夫人の手を握った。
「…あの、これを言うかどうか迷ってたけど、少しは希望が持てるかもしれない。おれの従魔には鳥系魔物もいて、色んな情報を集めて来るんだけど、その中に数々の『奇跡』が起きてる情報もあった。一昨日、隣のケパレーの街まで来てるから、急げば間に合うかも…」
そういえば、まだ一昨日だったか。治療ゲリラも違法奴隷開放ゲリラもしょっちゅうなので忘れていた。
「いや、待て、エイド。その『奇跡』は違法奴隷も解放・保護している謎の組織の話だろ?怪し過ぎる」
な、謎の組織?
商業ギルドに登録してあるし、かなりおおっぴらにやってるのに、謎?
「でも、現に助かってる人も感謝してる人もたくさんいるだろ。これだけ噂を聞くし、まったくの嘘ではないんじゃないかと」
「まぁ、噂は噂。滅多に起きないから『奇跡』なんだけどな」
「噂の真偽も怪しいし、すべての怪我人病人を救ってるワケでもない。そもそも、その謎の組織をどうやって探す?…夫人もとうに探してみたことがあるのでは?」
「その通りです。商人の方が詳しい情報を持っていましたが、確実に連絡を取る方法がないのです。貴族との関わりを嫌っているそうですから、下手に手出しするのも悪手ですし…」
「…え?実はいくつかの国の上層部とは手を組んでいる、という噂があるんだけど…」
「商売の邪魔をして一族郎党抹殺されたという噂もあります。その商売もまったく採算が取れないので道楽なのか、他に目的があるのか、その辺りでも賛否両論ですね。確実に言えることは、謎の組織『にゃーこや』はこの大陸で最高峰の技術と知識を持っていること。速い移動手段を持っていること」
『謎の組織にゃーこや』……。
パワーワード過ぎるだろ!と影の中のシヴァは盛大に笑いつつ、ツッコミを入れた。影の中は次元が違うため、当然、声なんて外に聞こえない。
「え、あの画期的な自動販売魔道具やカップラーメンの『にゃーこや』なのか?『奇跡』を起こしてるのも」
「他の人たちには無理だという消去法だろ」
「七ヶ月前、サファリス国の大雨災害の救援と援助でも活躍したそうですしね。SSランク冒険者も『にゃーこや』の一員じゃないか、というのが定説になってます」
定説なのか。まぁ、間違ってはいない。メインなのだが。
意外に『にゃーこや』の知名度が高かったが、出て行くのはやはり却下。
ドロドロぐだぐだな政治に関わりたくない。
マルセリーノは、このまま死んだことにした方がいい程のドロドロ具合なのだ。
その後、場所を応接室に移して公爵夫人と『裁きの火炎』とで持ってる情報の交換をしていたが、公爵側の方が色んな情報を集めており、そして、そのどれも解決に繋がらず、『裁きの火炎』は帰って行った。
シヴァも調査に戻ったが、うんざりして来たのである程度までで分身たちに任せ、市場で買い物と食べ歩きを満喫しているアカネたちと合流して楽しんだのだった。
『謎の組織にゃーこや』の話はアカネたちにも大ウケだったのは、言うまでもない。
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