417 そこは自分の選択を褒めるべきだって
今日は野営とはいえ、村の中なので夜番はなし。
いや、結界を張るし、防犯飛行カメラも飛ばすので夜番はずっとなしでいいのだが、夜中に依頼主が起きた場合、ごちゃごちゃ言いそうなので、【幻影】でも用意しておくか。
焚き火ごとの【幻影】なら触らない限り、気付かれる心配はない。温度は魔道具でいい。
【暗示】をかければてっとり早いワケだが、精神操作の類はなるべく使わない方針なので。
…あ、【幻影】も「そういった風に錯覚させる」という意味では精神操作の類か。まぁ、直接記憶を操作するワケじゃないのでセーフ、ということで。
影の中にドームハウスを出し、風呂ユニットを連結して、そちらで全員一緒に男女別に風呂に入る。
「今日はどこで寝ようかな」
「…そんなにあちこち寝る場所があるの?」
ちょっと引いたようにリミトが訊く。
「ああ。アカネのマジックテントかおれの偽装テントで、本当に偽装じゃなく中を整えて寝てもいいし、影の中でこのドームハウスで寝てもいい。更に、影の中とは違う異空間にも別宅があるんで、どうしようかなぁ、と。一応、護衛依頼の時は自宅には帰らないようにしているんだけど」
「そういえば、Bさんたちの自宅ってどこにあるの?」
「ラーヤナ国の某所っつーか、出入り口はそこなだけで中は異空間だな。その出入り口も外部からの干渉はまったく受けない所」
「うーん?よく分かんない」
「分かったらすご過ぎ。まぁ、何にしてもこちらの情報が分かるようにしてから移動するし、インカフで連絡も取れるから、問題ねぇよ。どこで寝るかはおれの気分次第ってだけで」
夜の花見に相応しい場所か夜に咲く花があれば、迷わずその近くでウッドデッキ付きのログハウスを作っただろうが、この辺りだともう少し後のようだ。
そういえば、土魔法ハウスばかりでログハウスは作ったことがない。
作ろうと思ったらディメンションハウスがドロップし、それがその時のイメージ通りのログハウスだったので。
違う形のログハウスも作りたい。いかにも別荘という感じで、素材は水に強い丈夫なトレント、と脳内設計が始まる。
「ねぇ、Bさん。従業員の中では年長なだけに今がどれだけ恵まれてるのか分かってるぼくたちが研修免除なのは分かるけど、こうやってお風呂まで入れる快適冒険者をやってていいの?」
「何かマズイ?」
「一般的な冒険者の苦労を知らないと、後々困ることにならないかなぁ、と思って」
「困ったことねぇけど」
「…Bさんはね。装備一式いいのを揃えてくれて、魔法も戦い方も教えてもらって、マジックバッグまで貸出してもらってるって、破格過ぎでしょ。もし、万が一、転移トラップにひっかかってどっかに飛ばされたり、装備一式奪われたり、強盗に遭遇したり…Bさんが助けてくれるか」
「そう。無意味な仮定。だいたい、いい武器があれば強くなるワケじゃねぇだろ?おれは装備と色々勉強出来る環境を整えただけ。努力したのはリミトたちなんだから誇っていいって」
「そうかなぁ?何にもない所から苦労して装備揃えて、戦い方を覚えようにもどうしたらいいのか分からなくて、っていうのがないのは、ちょっとズルした気もするし」
「機会を与えても選ばなかった連中も多いだろ。そこは自分の選択を褒めるべきだって。そういったことの積み重ねだぞ?人生は」
「人生と来るのか~」
壮大になって来たことに、リミトは何だか笑えて来たらしく、クスクスと笑う。
「本当にほんの些細な選択から人生変わるからな。後であの時が分岐だったのかと思っても、もう遅くてどうにも出来ないことがたくさんある。おれとリミトが今この場にいるのも、色々と選択を重ねて来た結果なワケだな」
「うん」
「そして、こういった話を聞いたことでリミトがこの先、何か選ぶ時に影響を与えるかもしれねぇワケで」
「…えー?…ああ、でも、考えちゃうか、やっぱり」
「リミトがいくら【直感】スキル持ちでもどちらの選択、どの選択もいい場合、近い未来はよくても、遠い未来では悪くなる場合だってある。まぁ、そこまで見透かせるのは【未来見】スキルを持ってても難しいけどな。未来は常に変動してるから。スキルは万能じゃない」
「うん。何度も言われたから分かってる。頼らずどう使いこなすのかが問題だと」
「そ。色々気にして、ちゃんと考えるのはいいことだな」
毎日の生活だけで必死で、ロクに考える力が養われていなかった。
環境が変わって脳味噌にも栄養が行き渡り、生活に余裕が出来て来たのもいいいことだ。
「たびたび思うんだけど、Bさん、年誤魔化してない?ぼくの知ってる誰よりも年上って感じがするんだけど~」
「誤魔化してねぇって。老成してるとはよく言われる。好き勝手やってた兄貴と我儘放題で兄二人は使うもの認識の妹に挟まれてりゃ、こうなっちまうんだよ」
「…ええっ?Bさん以上に好き勝手ってどうやるの?」
「故郷にいた時は、ここまで好き勝手してねぇよ。女どもがうるさくてヘタに笑えない環境だったし、イベントごとに追いかけられまくり、プレゼントという名の呪いのアイテムばかり押し付けられ」
「……そ、そこまで?いや、Bさんの素顔、美形だとは思うけど…」
リミトはとうに見てるので、認識阻害仮面は外してあった。
「命の危険は滅多にない国だったから、暇な女どもが多かったって話」
それに尽きるとシヴァは思う。
遠慮なく反撃出来て、逃げるのも容易い今の状況は本当によかった。
「Aさんに訊くと違う答えが返って来るような気がする…」
「本当なのに」
「それだけじゃなさそう」
そんな雑談をしつつ、シヴァたちはゆっくりと風呂を楽しんでから出て、リビングでまったりスポーツドリンク風飲み物で水分補給。
女性陣はまだまだ上がりそうもないので、シヴァとリミトは久々にトランプで遊ぶことにした。
結局、シヴァが寝た場所はアカネのマジックテントだった。
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