415 勘違いの節約って何?
道中はまったく何事もなく、昼食タイム。
例によって所々
先客は馬車二台、商人三人、護衛の冒険者十人の中規模だった。
馬車三台以上だと大規模に分類されるが、ほとんどが商人たちが寄り集まって集団になるので、中々タイミングが合わないこともある。
護衛が多い程、道中が安全になるし、費用も安くなるので商人側は望んでいるのだが、どこへ行くにも時間がかかる立地なので仕方ない。
活動地域が同じだと商人も冒険者もどこかで繋がってるし、持ちつ持たれつな所もあるため、ソウザ・ペレイラ夫妻もにこやかに挨拶する。
護衛リーダーのシヴァは、先客のリーダーと挨拶し、進行方向のケパレーの街から来たそうなので道中の情報をもらい、こちらも渡した。
道中はまだ半日ぐらいだが、ベニヤミンの街の情報は伝えられる。
「いい馬だな!貸し馬じゃなさそうだが」
「ああ。自前」
人工騎馬たちは特にいい馬だが、リミトとサーシェの馬もいい馬なのでやはり、目に付いたらしい。
「護衛専門にやってるのか?」
「いや、移動ついで。だからこそ、移動の足はそれなりじゃねぇと」
「確かになぁ」
そんな軽い雑談をして終了。
シヴァも昼食準備にかかる。
既にアカネたち三人は馬の世話をし、野鳥とトカゲの下処理も終わらせていた。アカネが解体スキルを持っているので、速くさくさくなのである。
昼食メニューはトカゲ肉の唐揚げの野菜甘酢餡かけ丼、鳥と卵のスープ、葉野菜の浅漬けである。
手際のよさにソウザが近寄って来ようとしたが、ペレイラが止めていた。そこまで費用を節約したいらしい。
ゴクリ、と生唾飲んだのはソウザだけではなく、先客の商人一行たち。馬と馬車の手入れをしていた所にシヴァたちが到着したので、食事はまだった。台数人数が多いと手入れも時間がかかる。
「な、なぁ?ちょっと悪いんだけど、さっきのトカゲ肉ならまだまだあるだろう?売ってもらえないだろうか」
先程の護衛リーダーが商人につつかれて、そう申し出て来た。
「トカゲ肉だけでいい、というワケでもないだろう?鳥はそう量がないから卵スープで、一食一人前銀貨2枚。食器も貸し出してやろう」
「…い、いいのかっ?面倒じゃないのか?」
「大丈夫。慣れてる」
作る途中なので別鍋、別フライパンで量を増やすだけだ。ご飯もすぐ炊けばいい。
「じゃ、金集めて来るからちょっと待ってて!」
護衛リーダーが金を集めて来る間に、さり気なく錬金術でショートカット。ソウザ夫妻も見てないのでやりたい放題である。
「美味しい料理が作れると、道中でも更に稼げるってことね」
ふむ、と頷きながらサーシェはトカゲ肉を揚げる。
「相手を選んだ方がいいけどな」
「ヘタするとスカウトが鬱陶しいことになるね」
野菜餡を作るアカネの実感溢れた発言だった。
「アカネも散々勧誘されてたしな」
「食材や調理器具を余分に持ってる時とは限らないんだから、ヘタなことはしないほうがよくないの?」
追加の卵スープを作るリミトがその辺を訊いて来る。
シヴァはそれ以外で時短炊飯と食器を用意した。
更に長机を出し、一人前ずつトレーに載せる。
「相手による。同じ地域で活動するなら、どこかで会うから好感を持たせておいた方が後々やり易いのは確かだしな。美味しい料理が作れるのはかなり強力な長所だから、他のパーティに混ぜてもらいたい時、組みたい相手がいる時はそれでアピールするといい」
「戦闘力じゃなくて?」
「護衛依頼の場合は戦闘自体がないことも多い。でも、メシは三食だろ?」
「なるほど」
「戦闘力は基準が曖昧だからアピールしても、『この程度で?』と思われるかもしれないし、逆に『ここまで戦えるって聞いてない』というようにもなるしね」
アカネがそう分かり易く補足した。
先客は全員食べるそうで十三人前追加。
護衛の冒険者たちには足りないだろうが、これ以上は時間を取られるし、トカゲ肉も足りないので却下だ。丼は大きいものなので、街の食堂より盛りはいい。
配ってからシヴァたちも食事にした。
手を合わせていただきます。こちらにはお替りもありだ。
味付けはアカネが担当したので、どれも絶品である。
淡白なトカゲ肉には甘酢餡かけがよく合うし、日頃鍛えられているサーシェの火の通り加減もバッチリだ。
あちこちで称賛の声は上がらず、ガツガツと食べるのに夢中だ。行動が分かり易い大絶賛である。
ちなみに、この辺の人たちは箸も使うが、フォーク・スプーンを使う人の方が多いので、一緒に付けた箸は使わず、自分のスプーンやフォークで食べている人も多かった。
そして、「もう我慢出来ん!」とソウザもペレイラを振り切って、その一人に加わった。ペレイラはあくまで我慢するようである。ソウザが分けようとしても断っていた。
何故、そこまで意固地になるのか。
「節約節約と言いながら、実際は無駄遣いしている勘違いタイプじゃないかな?」
食後のデザートの今が旬のストロベリーババロアを食べながら、アカネがそんな推測を述べた。
ババロアはシヴァがサクッと錬成したものである。
「勘違いの節約って何?」
サーシェが質問する。
「計算が出来ない、無駄になっていると認識出来ないってこと。故郷だと『袋に詰め放題でいくら!』という売り方もあったんだけど、詰めるのが楽しいだけで実際は使い切れずに腐らせちゃったりしてた人たちも多かったんだよ。外で買うより材料買って自分で作る方が断然安いのに、最初にかかる調理器具や調味料や食器の費用の方が高いって勘違いしたりして」
アカネがかなり分かり易く説明した。
「ええっ?腐らせちゃうって何で?」
「計画的に使えない、誰かに譲るってこともしないからってことだろ。でも、そんな袋に詰め放題って採算取れるの?」
リミトがそう答えて、疑問に思った所を訊いた。
「取れるよ。そういった詰め放題って普通は売り物にしてない規格外な野菜とか消費期限が間近な物とかだし、お店で売ってるのはその詰め放題だけじゃないから、詰め放題でお客を呼べれば他の商品も買ってくれるんで」
「そんな売り方もあるんだ…」
「驚きだよね…」
リミトとサーシェは考えたこともなかったらしく、衝撃を受けていた。
「こっちでそんな売り方をするのは難しいけどな。流通面と保存面で。逆に言えば、それを解決すれば儲けられるけど…」
シヴァの言葉に、
「冒険者やってた方が儲かるよね。時間停止のマジックバッグがあるのなら、長くダンジョンに潜っていられるし、日持ちしない物を運ぶ専門の冒険者になってもいいワケだし」
とアカネが続けた。
「でも、冒険者だと安全面がネックでしょ?」
リミトはその辺にツッコミを入れるが、そうでもない。
「稼ぐ商人の方が危険だぞ。不特定多数に狙われるから。その点、ダンジョンだと魔物や罠対策やフロア地図もある程度分かってるし、装備やアイテムも色々ある」
「確かに」
「何やるにしても、ある程度の強さは必要だから、戦い方も教えてるワケだね。レベルを上げておくと身体も丈夫になるし」
「いいこと尽くめ。どうしても向いてなければ、別の方法を考えたけどな。ウチの従業員たちにそこまで先天的な運動音痴はいねぇし」
街の外は危険がいっぱいな環境に適応しているのだと思う。
さほど時間がかからず、ぺろりと平らげた食器を回収して、クリーン、浄化をかけて収納すれば、後片付けは終了だ。
先客の一行が先に出発し、すぐにシヴァたちも出発した。
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