413 『あなたのためを思って』ってヤツだな

 シヴァは今日は魚が食いたかったので、昼食はお寿司にする。ちらし寿司ではなく、巻き寿司、握り、軍艦、稲荷寿司もあり、で。

 さすがに、器用なデュークも寿司はまだ上手く握れない。巻き寿司、稲荷寿司担当にして、シヴァが握る。


「生魚じゃない?」


「おう。抵抗あるんなら炙るけど、大半の新鮮な魚は生で食うのが美味いし、当然、腹壊したりもしねぇって」


【ていこうあるひと、おおいよね~。すぐ、だいすきになるけど】


「っつーか、どっから生魚を調達して来たんだ?海の魚っぽいけど」


「そう、海魚。調達場所は普通にダンジョンや海」


「…どっちも普通じゃねーってのは?」


【シヴァのふつう。まるごとおさかながドロップするダンジョンもあるんだよ。かそうだけどね】


「だよなっ?おれの認識、間違ってないよなっ?」


【シヴァにとってははたけみたいなもので、つれていかれてしぬかとおもった。すっごいおおきいさかながとびかかってくるんだもん~。にんぎょがこわいかおしてるし~】


「………」


「人魚の形相の方が精神的ダメージでかいよな」


「…………」


「ま、まぁ、貴重な海魚なんだから、オススメの食べ方で食べるべきよね」


 ナディアは少々逃避が入ったらしい。


「……しみじみと規格外…」


 漆もどきで寿司桶も作ってあったので、雰囲気もバッチリだ。

 取り分け文化がないので大きい寿司桶ではなく、一人用で、お替り分は乾燥してしまうのでしまっておいた。なくなりかけに出すということで。

 野菜が少ないので、鶏肉と根菜煮物と貝のおすましも付ける。


 食べ始めると、マンダルもナディアもすぐに生魚に抵抗がなくなった。

 そうじゃなければ、世界中で寿司は愛されていない。

 いくらやうにやカニサラダの軍艦巻き、玉子の握りもちゃんとある。


「穴子がな~」


【あなご?】


「まだ見付からねぇんだよ。寿司には定番なんだけど。穴子の蒲焼。うなぎより柔らかい身であっさりしてる」


【ちいきがちがうんだから、ないんじゃないの?】


「ここまで食材がかぶってるんだから、どこかにあるハズ。現に色々見付けてるワケだし。…あートリュフもか。香り高い高級きのこ」


【おいしいんだ?】


「ああ。ちょっとクセはあるけど、世界三大珍味と言われてたぐらいに。トリュフ、キャビア、フォアグラ、キャビア一つしか見付けてねぇんだけど。フォアグラはアヒルの肝臓でアヒルもいねぇし。あ、そういや、松茸もそこら中の森を探索すればありそうなんだけどな」


【さんさいみたいにきせつものなの?】


「そう。でも、魔物が多い森は魔力が多いからか季節が狂ってる感じだし、ダンジョンなら生えてる所もあるかも」


 シヴァがマスターやってるダンジョンにはないが、ダンジョンごとに 特徴があるので。


「そういや、シヴァ。さらっと『治して来た』って言ってたけど、回復魔法も使えるってことか?」


「ああ」


「あんなに短時間で二十人近くいた怪我人を全員?」


「大した怪我じゃなかった。毒にやられてる人はもうちょっと遅かったらヤバかっただろうけど」


「シヴァさん、回復魔法も相当使えるってことだよね。なのに、何でどっかのお抱えになってないのか、不思議でしょうがないんだけど」


 ナディアはシヴァの言葉は謙遜だと断定し、そんなことを言う。

 詮索になるが、先日の子供たちの質問も別に咎めなかったし、このぐらいで怒らない程度だと、遠慮なく訊いて来たらしい。その通りだ。


「不思議でも何でもねぇだろ。おれにその気がねぇだけ」


【ナディアのにんしきはまちがってるよ。ちからかんけいぎゃく。シヴァがいちばんうえ。りようしようとちかづいてくるひとたちはおおいけどね。どうにでもできるワケで】


「……はい?」


「簡単に言うと価値観が違うって話。貴族や有力者のお抱えになることをナディアは名誉だと思ってるだろうけど、おれはそうじゃねぇし、デュークの言う通り、そもそも立場が違う。王様に紹介状を書かせるぐらいは簡単だしな」


「…………」


「本当っぽい所が対応に困るよなぁ」


 ナディアが悩んでいると、他人事っぽくマンダルが感想を述べた。


【ほんとうだよ。でも、べつにたいどはふつうでいいって。ちがうくにのおうさまたちのはなしだし】


「…たち、とか言ってるし」


【えっと、さいしょうとかこうしゅとか?】


「『たち』の内容は訊いてねぇだろ。まぁ、色々あった結果、どこの国でも探されるようなことになっちまってるんで、新規開拓で移動してるワケだな」


【シヴァ、ちょーべんりだからね】


「って言っても、依頼受けてるだけじゃ、そこまでにはならないだろ。何か派手なことをやったとか?」


「やむを得ず」


【もうちょっとごまかしようがあったとおもうけど】


「すると、人違いされた人が悲惨な目に遭うだろ。誰がやったか明確に、かつ、詳細は曖昧に、という微妙なさじ加減」


【あ、ひとだすけだからかんちがいしないようにね。シヴァをりようしようとするひとたちにはわるいひともいて、ひどいこともするかもってはなし】


「利用しようと思ってても、悪い人じゃないのも混ざってるワケか?」


「悪意も善意も行き過ぎると行動は同じになるんだよ。たとえば、自分ならもっと上手く利用出来るし、その方がおれも幸せだろ、と決め付けやがるワケだな。思い込みが激しく聞き耳持たねぇから善意の方が厄介だけど」


「あー分かる。『あなたのためを思って』ってヤツだな」


「そうそう。余計なお世話。一見、おれにメリットがねぇようなことをたくさんやってるから、そう言って来る奴らも多いワケだけど、タダ働きは滅多にしねぇのに」


【そうかなぁ?】


「投資以上は稼いでるし、まだ目に見えるメリットはなくても、将来的には見込める先行投資だったりするし、熟練度と技術と研究のためにも行動してるワケだ」


【はいはい】


 デュークに信じてないような適当な相槌をされてしまった。

 本当なのに。


 デザートの寒天ゼリー入りフルーツポンチを食べ終わる頃には、怪我が回復して来た村人たちがわざわざお礼に来た。

 それで、あれだけ狩ってもまだ不安なので、もう少し村に滞在して欲しい、と。


 護衛依頼で来てるし、ベニヤミンの街までもう一息なので断り、さっさと出発した。解体を頼んであるので明後日にはどうせ来るのだ。


 道中は何もなく、田舎の風景を楽しみつつ、ベニヤミンの街に到着。

 門の前で入街審査行列に並び少し待ったが、それは少し大きい街ならどこでも一緒だ。

 依頼主に依頼達成サインをもらって冒険者ギルドに行き、手続きをして終了。

 一日早くなったが、報酬は同じ。


 しかし、食事料金を前払いしてもらってるので、シヴァが返そうと思ったら「食料払いで」と言われ、夕食分は作り置きで色々入ってる幕の内弁当を渡し、朝食分はサンドイッチ、昼食分は日持ちするパウンドケーキ、マドレーヌ、クッキー、クラッカー、ベーコン、ツナ瓶を渡した。


 マンダルとナディアは併設の食堂で、すぐに弁当を食べるそうだ。温かい弁当なので尚更なのだろう。


「じゃ、またどこかで」


 定番挨拶をすると、シヴァとデュークは市場へ行き、バロンも呼び出してから一緒に食べ歩いた。これぞ、旅の醍醐味である。


 特産らしく豆料理が多い。

 シンプルに炒って味付けしてあるものから、潰した豆と小麦と混ぜてカラッと揚げたお菓子、スープ類も豊富に豆が入っている。

 あんこのように甘く煮た豆はなかったのは、砂糖が高いからだろう。

 一粒が5cm以上もあってサイズは大きいが、でかい枝豆があったのはラッキーだった。ほっくほくで美味しい。


 もちろん、茹でてない状態で売ってくれないかと交渉してゲット。たっぷり増やそう。


「うぉっ?こんな所に魔物が…」


「どう見ても従魔だろ。毛並みも行儀も良過ぎ」


「何食べるんだい?やっぱり肉?熱いものでも平気?」


「平気。何でも食うって。辛過ぎねぇ限り」


 交易の街なので、従魔連れも多く、デュークとバロンもすんなり受け入れていた。

 しっかり飲み食いし、お土産もそこそこ買った所で、ディメンションハウス経由でキエンダンジョンの自宅へ帰った。


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