412 治療費は解体といらない部位の始末

 護衛依頼三日目も街泊、四日目は野営で問題なく、五日目。

 いよいよ目的地までもう一息な村に到着したのは、十時過ぎだった。

 雨で進むスピードが落ちたり、予定ルートが土砂崩れで通れず遠回りしたり、で当初の予定よりは早い程度になっていた。


 村で少し休んだとしても、夕方には目的地であるベニヤミンの街に到着出来そうなのだが、村で足止めを食らうことになった。


「ちょうどよかった!ポーションがあれば、売ってくれ!怪我人が多数出てるんだ」


 そう言われたからである。

 何でも村の側に魔物が数匹出るようになってしまったので、冒険者に討伐してもらいたかったが、依頼を出した所ですぐ来れないので、人数集めて討伐しようとした所、返り討ちに遭ってしまったそうだ。

 簡易柵程度しかない防御では、誰も彼もが危機感が半端なかったのだろう。

 返り討ちに遭ったのは昨日の夕方で、備えのポーションは使ったが、怪我が酷過ぎてマシになった程度にしかならなかった。


「なら、下級ポーションじゃダメだろ。…デューク、お茶の準備して、みんなでお茶してて。ここで待機。おれはちょっと見て来る」


 シヴァはアウトドアテーブルセットを出し、パウンドケーキを出すと、後はデュークに任せ、シヴァは村人に案内させた。


「中級ポーションか薬を持ってるのか?」


「持ってるけど、回復魔法も使える」


「是非来てくれ!」


 集会所のような所に怪我人が寝かせてあったが、十七人もいた。重症、毒状態の人もいる。

 クリーン、浄化、エリアキュア、エリアヒール、とほぼ連続でかけてから、一人一人症状に合わせて薬を飲ませて行く。

 大半は造血剤や体力増強剤やビタミン剤だが、まだ熱が下がっていない人もいたので解熱剤も。


 回復魔法では完全に平熱になるまでの解熱は出来ない。コンピューターでたとえるならエラーが出ている状態なので、そう早く治らないのだ。


「毒消しは薬草もあるだろ。使わなかったのか?」


「使ってしまってほとんどなかったんだ。魔物が何だったかもよく分からなかったし」


「サル系だろ」


「ああ。二十匹以上はいたそうだ。ベニヤミンの街から兵士を派遣してもらうよう要請するつもりだが、その間に村が襲われてしまうだろうし…」


「討伐すればいいだけだろ。おれらもベニヤミンの街に行く所だし、道中、襲われるより掃除してからの方がいい。利害は一致してるワケだ。治療費はもらうけどな」


「……え?いや、出来る限り治療費は払うが、討伐ってそんな簡単に出来るもんじゃないから困ってるんだぞ!いくら、村人たちより戦闘力が高いにしても冒険者数人だけでは…」


「いや、一人で十分。普段はソロでやってるCランク冒険者の戦闘力を甘く見るな。怪我の状況からして大して強い魔物じゃねぇし。せいぜい群れでCランク程度。まぁ、普通の村人たちには脅威だけどな」


 一般的なソロCランク冒険者の風評被害になるかも、とシヴァは思いつつ、時間をかければマンダルでも討伐出来るので、さして間違いでもない。

 隊商に戻って事情説明してから、デュークを守りに残し、シヴァが単身で討伐に行った。既に探知範囲にひっかかっているので、まったく難しい仕事ではなかった。


 サル系魔物はポイズンクロウモンキー。

 毒爪が特徴のサルで体長は2mぐらい。3m前後はあるクマ系魔物よりはまだ倒せるかも、と村人たちは思っただろうが、逆だ。

 ポイズンクロウモンキーは身が軽くて機動力が高く、数匹で群れるし、魔法が使える個体もいるので、ほぼ単体で膂力りょりょく自慢のクマ系より倒し難いのだ。


 しかし、身が軽く機動力もある冒険者ならば、ポイズンクロウモンキー討伐はただの駆除作業に過ぎない。

 近くの森にいた個体も残らず殲滅すると、総勢52匹。

 随分、集まっていたものだ。縄張り争いに破れた群れらしく、そこここに傷があった。


 二十分もかからず戻ると、「何か忘れ物か?」と村人たちに勘違いされたが、口で言うより早いか、とシヴァはちゃんと収納して来たポイズンクロウモンキーの死体を出して積み上げた。

 全部首を切ったので、首は別でまとめておく。

 森の中は木が邪魔で、一番収納に時間がかかっていた。


「……は?」


「肉は食えねぇけど、毛皮は使えるし、毒爪から毒消しも作れる」


【けがわ、ごわごわじゃない?つかえるの?】


「絨毯や馬のブラシにするとちょうどいいらしいぞ。この国の工芸品で見たことがある」


【へぇ。だから、なるべくきずつかないようにくびきったんだ。ごていねいにちぬきもしてあるし】


「血は使えねぇし、なまぐさいし」


【あ、シヴァ。まほうつかいってことにしたんじゃなかったっけ?】


「そういや、索敵と血抜きにしか魔法使ってねぇな。今なら『魔法も使える剣士』で通るか」


「…そういった問題かよ」


「そ。…そうそう、治療費。これの解体といらない部位の始末で。後日、取りに来るから急がなくてもいいんでよろしく」


 いくら小さな村でも、動物や小型魔物の解体ぐらいは出来るし、そんなスキルがある村人もいた。


「…あ、ああ、分かった」


 解体する場所までポイズンクロウモンキーを運んでやると、そこそこ、いい時間になったので、シヴァたちはお昼にした。

 ヨング、エイレス兄弟はいまだに意地を張っており、村の食堂に案内してもらっていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る