411 野菜ばっかかとちょっとひやひやした

 夕方までに無事、ファルクスの街に到着した。

 すぐに宿を探すが、小さな街なので宿屋もそう多くなく、全員がバラけることになった。

 ヨング、エイレス兄弟は一人部屋に詰め込まれることになったが、部屋があっただけラッキーだ。


 シヴァたちは泊まらず、野営。

 予定外に村泊がファルクスの街に泊まることになったので、夕食の料金を返そうと思ったら、是非作ってくれ、とのことで野営も出来る空き地で料理して食べることになった。

 どの部屋も狭いので到底料理する場所まではなかったのである。


 砂漠は寒暖差が激しくても、季節は春。日本なら桜の開花が始まってる頃で、日が落ちるとまだまだ肌寒い。

 それでは、とオーク鍋にした。

 箸はそこそこ普及していても、鍋を囲んで箸でつつくという文化はないので一人ずつ鍋だ。

 ちょっといい所の旅館の夕食のように、一人ずつに魔石コンロを用意して鍋をかける。具はまずは野菜だけだ。


 野菜に火が通るのを待つ間に、塊のオーク肉を薄くスライスして行く。

 しゃぶしゃぶにしてもいいが、そういった文化もないため、出汁ごと美味しく頂ける鍋にした。


「よかったぁ。野菜ばっかかとちょっとひやひやした」


 マンダルはそんな心配をしたらしい。


「そりゃねぇって」


「変わった食器…食器なの?」


 土鍋は見たことないらしく、ナディアがそう訊いた。


「調理器具兼食器でもあるな。これは一人鍋だから。鍋は四人用の大きい鍋もある。この辺の文化ではないみたいだけど、数人で鍋をつつく場合もある。譲ったり取り合ったりするのも楽しいってワケだな」


「ふーん。薄く切るのは何か意味があるとか?」


「火が通り易くて食べ易い上、出汁が絡み易いから。出汁は飲み干すなよ。シメでご飯か麺を入れて更に楽しむのが鍋の醍醐味だから」


「そんな風に変化するのか!面白いな、鍋」


【ふゆのていばんだよね。いろいろあるよ。なべのりょうり。カレーなべとか、からいキムチなべとか、とうにゅうなべも】


「鍋の具材は何でもいいからな」


 そろそろ野菜に火が通って来たので、肉を入れてご飯を配り、いただきます、と食べ始めた。肉はまだ早くても野菜は食べ頃だ。その間に肉に火が通るので、肉も一緒に。


 色んな部位と種類の食べ比べで、たくさん用意した。野菜も追加でどんどん入れてやる。肉ばかり食べそうなので。


 シメはご飯を入れて卵を割り入れ、半熟になる所で火を止め、薬味をまぶして出来上がり。


【このシメがまたいいんだよねぇ。おにくとやさいのうまみたっぷりで】


「シメがねぇと物足りねぇよな。…さて、デザートは何にしよう?」


【アイス!からだがあったまったところでつめたいものでしょ!】


つうな食べ方だよな、それも。じゃ、さっぱりなシャーベットアイスで」


 さらりと食べられるので。


「…この贅沢さは慣れるとヤバイかも。いえ、既にヤバイ…」


 デザートまでキレイに平らげたナディアがそんなことを言う。


「ヤバイって何が?粗食と普通食を繰り返すのが冒険者だろ」


 マンダルはその辺をとうに割り切っているらしい。


【それはかわいそう。ぼくたちむえんだし~】


「食生活、生活の快適さは自慢出来るよな」


「上位種肉がふっつーに混ざってるぐらいだしな…」


「……ええっ?そうだったの?」


「キング、ロードもあった?」


「あった。変異種も。オークの集落を潰したことがあるから豊富に持ってるワケで」


「そういった場合って、緊急依頼でレイドになるんじゃないのか?」


 レイドとは、何組かのパーティやソロを集めて合同で討伐することだ。

 取り分はその時々で変わるが、直接倒さない役割の冒険者もいるため、お金で頭割りになることが多い。


「普通はそうだろうな。北の方の国にいた時で、高ランク冒険者がただでさえ少ねぇ地域だったんだよ。ダンジョンも浅い所しかないような所で」


「…シヴァ、一人で潰したのか?」


「さて」


【シヴァがきをつけるのは、しぜんはかいだけだよね。ちけいかえちゃうとかも】


「ダンジョンの外じゃ、そうでかい魔法は使わねぇっつーの。食う所がなくなるし」


「…そこかよ」


「大事だろ。素材として色々使える魔物も丁寧に倒すけど。トカゲとか蜘蛛とかカエルとか」


「カエル?使えるのって胃袋ぐらいじゃないのか?」


「粘液も。他の魔物素材と組み合わせると色々と便利に使える。カエルの肉もぱっさぱさって人気ねぇけど、料理の仕方が悪いだけだぞ。美味しく食える」


【だよね!】


「えー?何か想像出来ないな」


「じゃ、朝はカエル料理にしてやろう」


「美味いもん食わせろって!」


「ちゃんと美味しいって」


【ほんとだよ。シヴァがマズイものつくるワケがないじゃん】


「でも、カエルでしょ?わたしもちょっと、な」


 ナディアもカエル肉は遠慮したいらしい。


「本当に美味いのに」


【みためがなにな、うなぎだってすっごいおいしいのにねぇ】


「見た目が何の代表は人食い貝マンイータークラップじゃね?」


 人食いサメが可愛く見える程、食う気満々な凶悪なフォルムなのだ。その身も貝柱も絶品なのだが。


【…あーあれはねぇ…】


 料理メニュー決定権はシヴァにあるので、否応なく明日の朝食はカエル料理に決定した。

 じゃ、また朝に、と別れて朝までお役御免。

 シヴァたちは一応ティピーテントを張り、その中に入ってからディメンションハウスに行き、まずは風呂を堪能した。


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