410 金がないとテイマーはやれない

「クルルは卵から育てたのよ」


 視線を向けられて訊かれるより先にナディアが答えた。


「やっぱり、卵からだと懐くんだね」


「十何個卵をかえしても、わたしに懐いたのはたった一羽だけよ。効率がいいとは言えないと思う。ララ…トカゲ騎獣は専門の人に売ってもらって従魔契約も引き継いだから、従魔が欲しいのならそっちの方が簡単よ。お金はかかるけど」


「…お金がね…」


「従魔がいたら従魔の分の食料もいるんだぞ。金がないとテイマーはやれないって」


 現実的なことをマンダルが教えた。


「そうなのよねぇ」


【ん?じぶんでかればよくない?】


「クルルはそんなに強くないのよ。ララも場所によっては全然狩れないこともあるし」


 交通量の多い街道側だと、定期的に魔物は狩られているから、厳しい時も多いのだろう。


【ぼく、じぶんのくいぶちぐらいはかせいでるもんね!えっへん!】


「いや、そんな控えめじゃなく、スゲェたっぷり稼いでるだろ。今の依頼だって砂漠の魔物、ほとんどデュークとバロンで倒してたのに」


 デュークたちは簡単に狩っていたので、それ程、稼いでるという実感はなかったのだろう。


【あ、そうだった!】


「おれの奥様と一緒にダンジョンに潜って色々ゲットして来てもいるのにな」


「…え、従魔が他の人につくってありなのか?」


「双方納得してるからな」


「じゃ、従魔を貸してもらうっていうのはありなの?」


「その辺の規制はねぇけど、騎獣以外で貸す奴は滅多にいねぇって。強い従魔は絶対無理。おれも、もし、何かあった場合、対応出来る状況でしか貸してねぇ。何かとは悪い人に無理矢理、おれとの従魔契約を解消させられたり、魅了や洗脳といった精神攻撃を受けたり、という場合でも大丈夫なようにしてある。まだ子供でもデュークが暴れたら街ごと滅ぶし」


 デュークの首輪に転移ポイントが仕込んであるので、単独行動をしてもいいぐらいだが、さすがに対外的にはマズイ。


【じょうたいいじょうたいせいあるから、まずないけどね!】


「街ごとって…そんなに強いんだ?」


【まちごとはおおげさだとおもう~】


「そうでもねぇって。グリフォンは伊達にAランク魔物じゃねぇし。火と風で火災旋風せんぷうを起こせばあっさりだぞ」


「…かさいせんぷう?」


「移動する炎の竜巻」


 エレナーダの大火災でも火災旋風が起こりかけていたが、街の人たちも魔法で消火活動をしていたこともあり、かろうじてセーフだった。


【あーたしかにやれちゃうね】


「認めちゃうんだ…」


「本当にランクの高い魔物なんだね…」


【ぼく、かわいいから、じつはかなりつよいまものっておもわないよね!】


「自信満々か…」


「可愛がられて育った箱入りグリフォンなんで」


「箱入りなのか…」


「ところで、お兄さん、魔法使いでしょ?何か魔法見せて」


 そこで、子供の一人が口を挟んだ。


「何か?…じゃ、ちびちびグリフォンを」


 【幻影】も規模が大きいものだと一般的じゃなさそうなので、手のひらサイズのちびちびグリフォンを子供の腕の上に出して見せた。

 これも【幻影】である。


「…え、何で?重くない…触れないんだけど…」


「幻だから。この応用で髪色を変えることも出来る」


 普通の茶髪の子供の髪を黒髪に見せかけた。


「わっ、すごい!」


「中まで真っ黒!」


「好きな色に出来るの?」


「ああ。人気は金髪?」


「金髪!」


「ぼく、赤がいい!強そう」


「わたしは青!」


 子供たちの希望通りの髪色にして、ちびちびグリフォンは消した。


「…シヴァさん、どんな魔法なの?」


 ナディアが不思議そうに小首をかしげる。


「【幻影】。実体はなく見せかけだけ変えられる。髪色を変えるのは魔力で髪を覆って色をイメージする。もちろん、魔力が尽きたらおしまい」


「一時的だけってことか」


「一定期間変えたいのなら、マジックアイテムか薬の方がいい」


「母さんに見せたいけど、保つ?」


「じゃ、三十分ぐらい保つようにしてやろう」


 わーい、ありがとー…と子供たちは村の中へと駆け出して行った。

 シヴァが気軽に髪色を変えてやったことで、子供たちは魔法使いを志す…かもしれない。


「シヴァ、意外と子供の扱い上手いな」


「妹も甥っ子もいるんで」


【がっこうのせんせいのいらいも、たまにうけるしね】


「先生?何教えるんだ?」


「魔法や魔術」


「どう違うんだ?」


「術式があって誰でも同じ威力で同じ魔力消費量になる魔法が魔術。魔道具によく使ってある。魔法はもっと自由度が高いから、魔力操作の熟練度を上げると消費魔力を抑えることも出来る」


「え、魔術って魔道具なしでは使えないものじゃないの?」


「術式を理解出来れば魔道具はいらねぇぞ」


 そんなことを話しつつ食事を終え、デザートはプリンを出した。

 食休みをしてから出発準備をしていると、商人兄弟が戻って来たので再び出発した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る