406 マジック(アイテムを中で使うカムフラージュ)テント

 砂漠の夜は一気に気温が下がるので、焚き火程度では暖が取れず、暖房の魔道具は必須だった。


「おいおい、テントぐらい持って来いって。寝袋だけじゃ凍死するぞ」


 マトンシチューとジューシー唐揚げの夕食後、護衛たちに宿泊準備をさせた所、テントを出す素振りがなかったナディアにシヴァは呆れた。

 ソロのクセにそうも準備不足なら、温度管理は考え直した方がいいかもしれない。


「いやいや、大丈夫だよ。一応魔道具で中が温かくなる寝袋だし、前も…前は馬車の中、その前はパーティのテントで泊まってたっけ」


 事情は聞いてないが、ナディアはずっとソロではないらしい。


「あーじゃ、おれのテントにもう一人ぐらい入れるぞ?よければ」


「…え、いいの?マンダルさん。じゃ…」


「土魔法で家を作ってやるから、そこで寝ろ。二人共睡眠不足の方が困る」


 眠れたとしても、よく知らない相手と一緒に寝るのはストレスが溜まるだろう。


 空気穴だけで窓がない立方体の豆腐ハウスでいいか。

 ベッドや机や椅子といった家具も土魔法で作ってやった。扉も土魔法製だが、ちゃんと蝶番で開き、簡単な鍵までかかる。

 マットレスまでサービスしないが、寝袋があるなら平気だろう。深い穴方式のトイレも別の部屋に。


「…何かもうマヒして来たわ。色々とすご過ぎて。ありがとう」


「どういたしまして」


「詮索するのはマナー違反だけど、実はどこかの国の宮廷魔法使いだったりするのか?権力争いに疲れて冒険者になったとか」


「ないない。宮仕えなんかしねぇし」


【シヴァがおうさまになるのはあるかもだけど】


「ねぇっつーの。面倒臭い力関係は先日説明しただろ」


【そうだけど、シヴァならうまくやるようなきがするし~】


「やる気ねぇから」


「貴族に目を付けられて困ったことはとうにあるワケだ?」


「別に困ってねぇよ。面倒だから関わり合いたくねぇだけで」


「色々あったワケか。まぁ、でも、それだけ魔法が使えるんなら冒険者やってるのはちょっともったいないかもな」


「商売もちょっとやってるけどな。従業員に任せてあるけど」


「…働く必要ないのか?ひょっとして」


「金銭面だけならまったく。実際、行かねぇと手に入らねぇもんがたくさんあるから各地に行ってるワケで」


 そんな話をしてから、マンダルもシヴァもテントを設置した。

 マンダルのテントは二人用だった。最近までペアを組んでいた相手がいたのかもしれない。


 ごく普通のティピーテントを見て、はぁ?とばかりにマンダルとナディアは首をかしげる。


「何でこうも普通?」


「何か悪い?」


【ぼくたちもつちまほうでいえをつくればいいのにって、おもってるんじゃない?】


「外観だけ普通で中は改造してあるんだよ」


 中にいる風にカモフラージュしてあるので嘘じゃない。

 超快適なディメンションハウスに行くつもりだ。


「あ、なんだ。そうなのか。中拡張してあるマジックテント?」


「似たようなもの」


 マジック(アイテムを中で使うカムフラージュ)テントである。

 夜の見張り当番はマンダルとナディアをペアにしても対応出来ないし、どうせ結界を張ってあるのでなしにした。

 焚き火は無理に維持しなくても、気温調整も灯りも魔道具でいい。

 トカゲ騎獣たちにも簡易獣舎を作ってやった。気温は大丈夫だし防音だが、結界の外とはいえ、魔物が近くにいると落ち着かないだろうから。


「そんな丈夫な結界?」


 結界の強度に不安があるようなので、マンダルとナディアに結界の外から好きに攻撃させてみた。ついでにデュークとバロンも加わる。

 簡易結界でもドラゴンブレスにも余裕で耐えるのに、ちゃんと魔力を込めたシヴァの結界が破れるワケがない。


 何らか異常があった場合、知らせが来る飛行偵察カメラも設置するので、もし、結界内部で何かあっても対応出来る。

 よく知らない人たち同士で野営すると問題になるのは、人間同士なのだ。

 何か盗まれたり、嫌がらせされたり、馬や騎獣の奪い合いや他のことでトラブルになったり、といった話は多い。


 二人が納得し、結界の強度を確かめていたのをヨング、エイレス兄弟も見ていたので、全員が心置きなく寝る準備に入った。

 シヴァたちはさっさとテント経由でディメンションハウスへ行き、デュークとバロンも戦い足りなかったので鍛錬してやり、まったりと風呂に入ってから眠った。


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