405 砂漠で冷やし中華始めました!

 休憩後はバロンが先頭になり、露払いし、食べられる魔物はシヴァが回収して進んで行く。

 先頭が何やってるか見えないのをいいことに、だ。


 トカゲ騎獣車は馬車に比べて速度が速く、ガタガタした道じゃない砂漠の方が疲れ難いので中々のペースで進んだ。

 他の隊商なら戦闘で時間を食っただろうが、シヴァたちは全然止まる必要もない。


 いい時間になった所で砂丘の下側、少し影になった所で再びタープを張り、アウトドアテーブルセットを出して昼食にする。

 日中、暑い砂漠を通るのでヨング、エイレス兄弟は干し肉とパンだけしか用意していなかった。


 シヴァたちは暑いと食べたくなる冷やし中華。

 オークの薄切り茹で肉、錦糸玉子、トマト、キャベツ、いんげんもどき、エビ、ツナ、きのこ類、と具材たっぷり彩りもキレイで栄養バランスも取れているものだ。今日は甘酸っぱいゴマダレ。

 定番の醤油ベース甘酢タレも好きだが、こちらも美味い。

 麺類は食べ難いバロンには、食べ易く一口サイズに切って具材を混ぜてやる。


「…くー美味い!ケチらず二人前頼んで正解だった!」


 二杯目に手を付けた所で、マンダルが感想を述べる。


「サービスで大盛りだけどな」


 感想を述べる時間も惜しい、とばかりにナディアも冷やし中華に夢中だった。


 そんなシヴァたちを、騎獣車の影に木箱を出して座りうぐぐぐぐぐぐ、とよだれを垂らしながら見ているヨング、エイレス兄弟。

 デュークが言ったようにかなり安い値段設定なのに、ケチだとそれすらも払いたくないらしい。


「ゆっくり食ってていいのかっ?」


「交替で見張らないと魔物が襲って来た時、困るじゃないか!」


 そして、食事の邪魔をすることにしたらしい。


「ギルド職員に聞かなかったのか?結界を張る魔道具がある、と。氷魔法で涼しくもしてやってるのに気付かねぇって、どうなんだ。何度か砂漠を渡ってるクセに」


 結界を張ってるのも涼しくしているのも、当然、マンダルもナディアも知っていた。雇い主側が知らないとは思わなかったが。

 Pバリア2では小さいので、シヴァが結界を張っている。


「……そういえば」


 ぐぬぬぬぬっ、とヨング、エイレス兄弟に唸って睨まれた。


【すずしいこともきづかないなんて。すながこっちにこないのもぐうぜんだとおもってたってこと?】


「それ以前に、色々と気付かなくて鈍いんだろ。こんな砂漠の真ん中で護衛たちの不興を買うマズさも分からねぇようだし。『魔物に集団で襲われて手の施しようがなかった』でおしまいなのに」


【よくあるはなしだね】


「おれは依頼失敗ってなると困るから、おとなしくしといてくれよ。な?」


 マンダルが依頼主たちをなだめに入った。

 シヴァたちが本気だとは思っていないだろうが、挑発し過ぎも扱い難いからだろう。


「じゃ、うるせぇから口塞いどく?散々怖い思いするかもしれねぇけど、生きて目的地にさえ届ければ依頼達成なんだから」


【きょくろんだね!…って、シヴァ。サンドワーム!】


「ちょうどいいから口に放り込めって?」


「違うでしょ!危ないって話で…あ、結界か」


 ナディアが慌てて立ち上がったが、15m級のサンドワームが結界に阻まれたのを見てすぐ座った。


「そ。マンダル、倒す?」


「何で譲るんだよ。シヴァが倒したら?」


「面白くねぇぞ?」


 再生能力が高いサンドワームなので、青い炎の高火力で一瞬で燃やした。シヴァは食事の手すら止めてない。


「……は?詠唱は?杖は?」


 マンダルも愕然としていたが、ナディアは顎が外れんばかりに大きく口を空けていた。

 ヨング、エイレス兄弟は見間違いかと何度も目をこする。


【つえってあまりつかってるひとみないんだけど、いるの?】


「いるらしいな。一般的には」


 土魔法でこちらに魔石を投げて手でキャッチし、冷却してから収納に入れた。魔石が通る一瞬だけ、その場所だけ結界を外す、という器用なことをしていたのだが、誰も分かってなさそうだ。

 シヴァは耐性があるし、レベルも高いのでまだ熱い魔石でヤケドなんてしない。


【ほらね?ケタはずれすぎでしょ?けんもたいじゅつもすごいんだけど】


「そ、そうなのか。…何でまだCランク?」


「面倒だから」


「……ランクを上げると稼ぎも段違いになると思うが……シヴァには関係ないのか。持ってる物だけでも高そうなもんばっかだし」


「そう。ランクアップするメリットが全然ねぇんだよ。だから、依頼が未達成だろうがクレームが入ろうがどうでもいい。そもそも移動ついでに受けただけだし。もうちょっとペース上げようかな。トカゲにバフかけりゃいいし」


「それよりシヴァさんの馬にはキツイんじゃないの?」


「全然余裕。ゆっくり走ってる方だって」


 体力疲労関係なしの人工騎馬だというのは教えない。

 食事を続け、デザートにクラッカー付きでバニラのアイスクリームを出す。

 デュークに出してもらうフリしてシヴァが作り置きを出した。


「……何者?どっかの国の貴族?こんな冷たくて美味しいお菓子って貴族でも滅多に食べられないと思うけど…」


 幸せそうに大半平らげてから、ナディアがそんなことを言った。


「この辺の甘過ぎなアイスは手っ取り早く糖分と栄養を蓄えるための生活の知恵なんだろ。他の国では氷自体が貴重なんだけどな」


【そうそう。ばしょがかわればたべものもかわるよね。シヴァがつくるものはなんでもおいしいけど】


「元料理人とか?」


「まさか。趣味が高じて食にこだわってるだけ。食える魔物や植物なのに食べ方を知らねぇせいで損してる地域も多いしな。おれのように片っ端から鑑定してねぇか、鑑定レベルが低いか、で」


「…確かにそんなことで鑑定は使わないだろうな。いや、でも、食事即決したおれ、しみじみと正解だった!言い出すからには自信があるんだろうなとは思ったけど、予想以上過ぎ」


「護衛依頼を受けるたびに毎回、欲しがられるんだよ。それぞれ各自でってなってても。前回は四十人前作った。十五人なのに」


「そこまで人気か。ちなみにどんな料理?」


「道中で狩った鳥や魔物肉の唐揚げやスープ、川魚の煮付け、川エビや山菜の天ぷらとか。目立つデュークは連れて行かなかったからな。砂漠だと肉はともかく野菜類も果物類もねぇし、今回はデュークの時間停止のアイテムボックスをバラしてもいいかな、と」


 あくまで、アイテムボックス、ということにしている。


【さんさいのてんぷら、おいしかったよねぇ。もうきせつすぎちゃったけど】


 その時の護衛依頼にデュークはいなかったが、山菜は土産に持ち帰っていた。

 栽培もしているので季節無視も出来るが、そこは敢えて。


「道中採取出来る食材ってのも風情があるんだけどな」


「ふぜい?」


「季節感を感じられておもむきがある」


 シヴァが説明してやったが、よく分からないようでマンダルもナディアも首を捻っていた。まぁ、この辺は日本人感覚か。


「魚も持ってるんだ?」


「ああ。かなりの種類を。海魚もオアシス魚もな」


「そりゃ楽しみだ!」


 この辺の料理も圧倒的に肉が多いので、魚を食べる機会は少ない。


 ヨング、エイレス兄弟は、コソコソと話し合い、いつの間にかおとなしくなっていたが、言いがかりを付けた謝罪もなしだ。なぁなぁで何とかなるとでも思ってるらしい。

 まぁ、仕事はちゃんとやるので、食休み後は再び隊列を整えて進み出した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る