第13章・小国群の国から国への護衛依頼
403 移動ついでに砂漠の護衛依頼を受けよう!
小国群の一つタクララン国のオアシスの街の冒険者ギルド。
ここ程、国際色豊かな場所は中々あるまい。
交易の要所となって久しいので、小国群それぞれから商人が集まって来て、そうなると街道整備や河川や橋の整備、宿が増え、店も増え、街の防壁も拡張し、警備兵も増やし、様々な手続きが増え、と役人たちの出番も色々と多かった。
その役人には貴族も多いが、現場に来るのは下級貴族で次男三男と跡継ぎになれなかった者ばかりなこともあり、横柄な態度を取る者はほとんどいない。
裕福な商人の方が威張っているぐらいだった。
舐められないための虚勢もあるのだろうが、賢いやり方ではない。
どうせ小国群に行くのなら、ルートも分からないし、護衛依頼を受けるか、と軽い気持ちでギルドに来たシヴァだが、小国群へ行く護衛依頼はたくさんあり過ぎて選ぶのが難しかった。
オアシスの街からトカゲ騎獣で西へ行けば二時間程で砂漠を抜けるが、南へ行けば一日半程でティアマト国に入る。
砂漠は魔物が多いため、迂回ルートで行く隊商も多いが、十分な数の護衛を雇えたら砂漠を抜けるルートを選ぶ隊商も多い。費用はかかるが、迂回すれば倍の日数はかかるため、最短を選ぶワケだ。
往復で護衛を雇えばいいのに、片道ごとになっているのは、シヴァのように移動ついでに護衛依頼を受ける冒険者も多いのと、砂漠越えは過酷なので商人も護衛も人数が減ってしまうことも多いからだ。
結局、護衛依頼はデュークに選ばせた。
シヴァにとってはどれでも一緒なので。
受注手続きを頼むと、受付嬢が困り顔で確認を入れて来た。
「食事も水も宿も支給なし、護衛だけでこの安い報酬で本当にいいのですか?人数が集まるかどうかも分かりませんよ?」
一日半とはいえ、砂漠泊があるので、普通の護衛依頼よりは報酬がいいのだが、オアシスの街の基準だと低いらしい。
「別に構わねぇよ」
【ぼくたち、いどうついでだから。にんずう、あつまらなかったらキャンセルになるの?】
「いえ、護衛対象は二人だけですので、このまま出発になると思います。夜間の見張りは交替なしではキツイと思いますが、とりあえずは砂漠に一泊で、その後は街や村に宿泊、野営はもう一日しかありませんし」
砂漠泊、ティアマト国の村泊、街泊、野営、村泊、ベニヤミンの街到着という五泊六日の行程だった。
ベニヤミンの街はティアマト国で三番目ぐらい栄えている工芸の街である。家具や陶器や生活金物とシヴァにとっては見どころも多い。
「それでいい。結界を張る魔道具を持ってるから交替なしでも全然大丈夫だし」
結界魔法を使える人は案外少ないので、そう言っておく。それも嘘じゃない。
「あ、そうなんですか。それはよかったです。依頼主に伝えても大丈夫ですか?」
高価な魔道具を持っている、というのは依頼主にも明かさないこともあるので、受付嬢が慎重に確認を取って来る。
「もちろん」
…ということで翌日から護衛依頼になったのだが、案外、条件が悪くても移動ついでに受ける冒険者もいて、もう二人とも一緒に護衛になった。
一人はベニヤミンの街出身で里帰りついでのDランク女冒険者ナディア、もう一人はベニヤミンの街の側にあるダンジョン目的のCランク男冒険者マンダル。
ナディアはテイマーで、騎獣のトカゲとインコ系のライトグレイの鳥を従魔にしていた。カラスぐらいの大きさだ。機動力と情報伝達能力がある、ということで斥候だった。魔法も少し使えてタガーでも多少は戦えるらしい。
マンダルはいかにも冒険者といった180cmオーバーのガタイのいい剣士で、武器は大剣。魔法は生活魔法ぐらいだそう。
依頼主は二十六歳とまだ若いヨング、その二つ下の弟エイレス。兄弟で行商をやっている。
シヴァは「剣も使える魔法使い」と名乗った。砂漠ならローブを羽織るので、それっぽいかと。嘘でもない。
護衛のリーダーは結局、シヴァがやることになった。
ナディアは土地勘があるが、冒険者ランクも戦闘力も一番下、采配もしたことがない。
マンダルはそういったまとめ役が苦手で、従魔の扱いもどうしたらいいのか分からないから、ということで。
******
出発前にシヴァは食事について話しておく。
出発初日の朝食はなし、昼食からで最終日の昼食までとして五泊六日、食事は十六回、一食銀貨2枚で金貨3枚銀貨2枚。これは大人一人前の料金で二人前三人前食べるのなら、相応の料金。値引きはなし。
村・街泊の三回の夕食はそちらの食堂で食べるのなら、その分抜いて計算すると金貨2枚銀貨6枚。
【はっきりいうけど、シヴァ、むちゃくちゃりょうりじょうずだし、たかいしょくざいもぼくのアイテムボックスにはいってるからね?1しょくぎんか2まいならちょーやすい】
今回はデュークが時間停止のアイテムボックス持ちだと教えることにした。実際はマジック収納首輪だが、狩ったもの縛りだと肉ばかりになるので。
それなりに稼いでいるナディアとマンダルは「是非とも!」とすぐ頷いて前払いしたが、商人二人がかなり渋った。
「いや、でも、銀貨2枚は結構…」
「ちょっといい食堂並みの値段だしな…」
「別に無理には勧めねぇって。ただ後から欲しいって言っても、追加ですぐ作れねぇぞって話」
【さいしょからつくるパンとかクッキーとかにこみがひつようなりょうりとかね】
「そうそう。前払いした二人にはおやつの味見をさせてあげよう」
マドレーヌをナディアとマンダルに一つずつあげた。マジックハンドの手を出すのでデュークにも。
「…え?もうないんだけど?」
ナディアはさらっと平らげた後、不思議そうに首をかしげる。自分で食べたのに。
「どこで買ったっ?」
マンダルは味わいつつ食べた後、勢い込んで訊いた。
【かってないって。シヴァがつくったの。りょうりのうでもいいけど、ざいりょうもいいのだもん。おいしいにきまってる。こののうこうさはコカトリスのたまご?】
「品種改良したトットリーの卵。風味のいい発酵バターにゴールドキラービーの蜂蜜も入ってる。いい味だろ」
「ゴールド…何?」
マンダルが聞き返した。
「キラービー」
【こびんできんかのこうきゅうはちみつだね】
市場相場も勉強している賢いグリフォンである。
「…こういったおやつ付き?」
「おやつは別料金。聞いての通り、高級食材使ってるけど、食事代ももらってるから五日半で銀貨3枚でいい」
完璧に赤字だが、シヴァたちとしても見せびらかして食べたいワケでもないので。
マンダルもナディアもすぐさま払った。
「そりゃ楽しみだ!おやつは単独で売ることはしないのか?」
「しねぇな。貴重な素材を使ってるのも多いから、値段付けるってなると難しいし、一番高いのはおれの人件費なワケで」
「そりゃそうだよなぁ」
「…高過ぎる…」
高級蜂蜜と聞いてナディアはがっくりとうなだれた。買えるのなら欲しかったらしい。
こんな話をしていても、商人兄弟はうぐぐぐぐ…と唸ってはいたが、我慢するようだった。
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