369 ドラゴンに勝てると、貴様は言うのか?
丸三日半、こもって物作りをしていたシヴァだが、ホテルの方も放置していたワケではなく、ちゃんと分身を送っていた。
【影分身】は【影転移】の次に使ってるのではないだろうか?と思うぐらいの使用頻度である。
パリサード公国の公主殿はルヒルダンジョンのルーコバタに探らせていた所、結構な騒ぎになっていた。
まず、ドラゴンの目撃者が多かった。
何故、ドラゴンがいきなり現れたのか、それを探ると空獣騎士団の不手際が
空獣騎士団団長ベルサスに事情聴取した所、嘘八百を並べ立て、他の団員たちも庇う発言をしたが、口裏を合わせる時間がなかったため、ボロが出て事実が発覚。
貴族の子弟も多かったため貴族たちが賄賂を渡し、しゃべるグリフォン連れの冒険者が本当に優れた錬金術師なら、無理矢理にでも連れて来るよう依頼しており、そのために人数を揃えた。
連れて来た錬金術師は上手いこと言いくるめられなかったら閉じ込めて、せっせと金になる魔道具魔術具を作らせるつもりだった、と。
予想を外さない結果だった。
ちなみに、この国には奴隷はいない。
犯罪者は強制労働、借金を返すことが出来ない者はタコ部屋のような所で強制的に働かされてはいて、奴隷と大差ない扱いではあるものの、『奴隷の首輪』で縛ることはない。
『奴隷の首輪』や隷属魔法、魔法封じ自体、廃れているからだ。
誰かが故意に廃れさせたのか、単なる技術の低下かは定かではないが、犯罪にもよく使われる『奴隷の首輪』や『魔法封じの枷』が出て来ないのはいいことだろう。
魔法契約、魔術契約は、そこまで強制力はないので、閉じ込める、となったのだろう。
国益を損ねるだけではなく、国家存亡の危機になる所だった、と関与した騎士団員たちと貴族たちをさっさと投獄。
関与してない空獣騎士団員たちで、十分業務は回せるらしい。
「たかが一人の冒険者の機嫌を損ねただけで、大げさな…」
そんな風に状況を読めない連中もいたが、
「ドラゴンに勝てると、貴様は言うのか?」
公主の言葉で青ざめて黙った。
人工騎獣の風竜は戦闘能力はないのだが、威嚇で出したカイがあったものだ。戦闘力で言えば、ドラゴンの大群よりシヴァの方がヤバイので間違ってない。
バカなマネをした連中の処罰も揉めに揉めているが、騎士たちはクビ、貴族たちは降爵の上、罰金、爵位がない貴族は罰金上乗せ、ぐらいになるだろう。未遂でドラゴンも冒険者も暴れておらず、被害もないので。
ドラゴンが何故現れたか、民たちが不安にならないよう公主が通達したので、空獣騎士団の評判も関わった貴族たちの評判も地に落ちていた。
また、改めて謝罪がしたい、と公主が冒険者ギルド、商業ギルド、国立学校にもシヴァへの伝言をしてあった。『関わるな』の意味をもう一度考えてもらいたいことに。
まぁ、体面もあるのだろうが、それはそちらだけで取り繕ってもらいたい。
国をまたぐ冒険者、行商人たちは戦々恐々となった。
少し目立った冒険者がちゃんと出向いたのに、騙し討ちのようなことをしたのが空獣騎士団で、それも未遂に終わったのは、その冒険者が返り討ちに出来る程規格外だったからだ。
もし、自分たちだったら、と。
ある程度のランクの冒険者も行商人も小金持ちなので、狙われないとは限らない。
それに、今回は引き下がったが、今度は怒らせてドラゴンが大暴れして巻き添えを食らうかもしれない。
そもそも、公主の対応がよかったら、空獣騎士団は変なことを企まず、ドラゴンは出て来なかったハズなのだから可能性は高い。
結果、さっさと出国する冒険者、行商人たち、裕福な平民たちが相次ぎ、入国より出国手続きの方が長い行列になった。
過剰反応だと笑う連中もいたが、機を見るに
遅かれ早かれ破綻しただろうし、戦時中にゴタゴタするよりはよかっただろう、とシヴァは思う。
命令がちゃんと伝わらない状態がどれだけマズイことか、思い知ったハズだ。
認識阻害仮面を装着しているシヴァは、デュークたちを連れていなければ、特定出来ないので普通に街中を歩けるが、騒がしいのもうるさいので、しばらくは行かないでおこう。
海中にある竜宮ダンジョンに潜りたかったが、何だか気が削がれた。
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