368 おもったいじょうにめんどうくさい…

 このまま帰ると、何だかんだと話を盛るなり冤罪をかけるなりで指名手配されるだろうから、話を付ける必要があった。

 空獣騎士たちを影収納に入れると人工騎獣風竜を出して飛び上がり、20m級の大きさにした。シヴァにだけ隠蔽をかけ、バロンとデュークはそのまま背中に乗る。


【どうするの?ほかのくににいきました?】


「いや、このままだと指名手配されるから、しねぇよう釘を差す。このまま公主殿に乗り付け、いかにも本体はドラゴンでした、みたいな感じで騎士たちを引き渡し、お前らの失礼のない態度は大勢で囲むことか、と糾弾する。しゃべってる風に声を当ててな」


 騎竜は半透明だが、それだけに神秘的な感じになる。


【ドラゴンって。むりない?】


「人間に化けるドラゴンもいるかもしれねぇだろ」


【かも、ね…。ぼくがしゃべろっか?】


「そうするか。まだ穏便だろうし。じゃ、影の中で念話でアシストしてやる。このドラゴンもおれの従魔ってことで。バロンは騎士たちを出す係。おれも影魔法が使えるって教えたくねぇから、出すフリな」


【はいはーい】


「がう!」


 見せつけるのも目的なので、不自然じゃない程度に迂回して騎竜でゆっくりと移動して公主殿の公主の執務室の前に行き、窓の外からデュークが呼びかけた。

 防犯なのか、バルコニーは付いてない。


【おしごとちゅうのところ、しつれいしまーす。ここにこうしゅさまっているよね?ちょっとまどあけてくれない?あけないとこわすけど】


 その言葉で慌てて窓を開けたのは宰相だった。


「…ドラゴン…」


【シヴァのじゅうまだよ。ぼくはしゃべるグリフォンでうわさになってるデューク。きょうはもんくをいいにきた。なに、あのくうじゅうきしだんって。きじゅうしゃのていりゅうじょまでむかえがきてたのはいいけど、そのあと、あんないされたばしょでおおぜいのきしたちにかこまれたんだけど?】


「…かこまれた、だと?」


【そう。しょうこをもってきたよ。バロン、へやのなかにだして】


「がう」


 どさどさっとまだ痺れたままの騎士たちが積み上がる。

 バロンの鳴き声に合わせ、影収納から出したのはシヴァだ。


【おおぜいあつまってないと、こんなにすぐにつかまえられないでしょ?シヴァはてぶらだったのに、きしたちはフルそうびってどうなの?おどしてるのといっしょだよね?しつれいすぎ。なのに、しびれさせただけってすごくない?うちのマスターがかんようなのをいいことに、つけあがらないでよね。これでシヴァをしめいてはいにするんなら、ほろぼすよ、このくに】


「…そ、それは申し訳ないことをした。くれぐれも失礼のないよう指示してあったのだが…具体的に指示しないと分からないとは思わなかった。部下を掌握出来ていなかったわたしの不徳の致す所。責任はわたしにある。今後はこのようなことがないよう…」


【いうだけならなんでもいえるよね。くにのトップだからってすべてがおもいどおりにいかないのはしってるよ。でも、シヴァやぼくたちにてをださないようにめいれいして。めいれいいはんはこっちでしょぶんする。たぶん、しんだほうがマシなめにあうとおもうけど、『じごうじとく』だよね】


「……指名手配にならないように出来ればいいだけであって、それ以上は期待はしていない、ということか?」


【そうだよ。いみのないしゃざいなんていらない。べつにしめいてはいにしてもいいけど、めんどうくさいからけいこくしてるの。シヴァなら、いっしゅんでひともたてものも、なにもなかったかのようにけせるけど、つみのないひとのいのちまでうばわないから、そのせんべつがめんどうくさいってワケ。しつれいなひとたちだってしびれさせただけでしょ?】


「それは確かに。……シヴァ殿は何者なのだろうか?」


【ぼうけんしゃでれんきんじゅつしでまどうぐしでもあって、やくざいしでもあるきかくがいなひと。ものづくりもだいすきだよ。だからねぇ。けんりょくだのはばつだのにかかわりたくないワケ。とっくにおおがねもちだから、じぶんがおもしろいとおもったいらいしかうけないの。

 きょう、くうじゅうきしだんのつめしょまででむいたのも、いしそつうがいまいちなら、じゅうまたちがかわいそうっておもっただけだよ。こうやってねんわをだれにでもきこえるようにするマジックアイテムって、ほんとうはもーのすごくこうかなものだけどね。ほかでみたことないし。…あ、ようやく、えいへいがきたんだ。おっそいなぁ】


 扉の外に衛兵がいても中の異常には中々気付かなかったらしい。


「やめよっ!攻撃するな!話しているだけだ」


【べつにこうげきしてもあたらないけどね。で、じゅうまたちはべつにこまってないから、マジックアイテムはもうつくらないって。じゃ、もうかかわってこないように】


 デュークとバロンを乗せた騎竜は、さっさと空高く飛び去った。

 上空でデュークとバロンはディメンションハウスに入り、影の中にいたシヴァは騎竜をしまってから、同じくディメンションハウスに入った。

 どうせ騒ぎにはなるだろうから、数日は姿を見せない方がいいだろう。

 シヴァたちはキエンダンジョンの自宅へ帰って、露天風呂でまったりする。


【かげまほう、ぜんぜん、ついきゅうされなかったね】


「ドラゴンに気を取られてたからじゃね?結局、目立つことになっちまったし」


【さいしょからだよね、それ】


「まぁな。しかし、今回はおれの力はほとんど見せてねぇ辺りが違う」


【シヴァきじゅんの『ほとんど』だね。ぼくがいったこと、れいせいになったらおおげさだとおもってるだろうなぁ。ぎゃくにまだひかえめなのに】


「国丸ごと消そうと思ったら大陸も滅ぶだろうな。それも被害がマシな方で」


【…そうなんだ?】


「いくら離れていても世界は繋がってるからな。どこかで異常気象や大災害が起きれば、他の場所も影響を受けるし、まず生態系が崩れちまうんだよ。

 国の組織だってトップがいなくなりゃ、トップになりたい連中が争い出し、一時的にはトップになれても暗殺だの何だので消されたりするだろうし、上手く政治がやれるとも限らねぇし、民から高い税金を取り立てるバカかもしれねぇ。そんな不安定な状況だと近隣の国がチャンスと攻めて来たりするワケだ」


【え、そんなふうにつながってるの?】


「そう。だから、上層部を交代させるならバランスを考えて、改心する機会も与えて、それでも、どうしようもねぇ奴だけ消して行く。政治的に邪魔ってだけなら別の国で第二の人生を、だな」


【…おもったいじょうにめんどうくさい…】


「だから、関わりたくねぇんだって。自由にどこでも行ける冒険者が一番気楽」


【なかでもシヴァはじゆうすぎるけどね。ディメンションハウスのおかげで、まりょくもせつやくできちゃうし】


「移動手段としてもスゲェ画期的だけど、魔力を前払いしてるようなもんなんだよなぁ。よく考えたら。ディメンションハウスがレベル2になるまで、魔力が元々多いおれでも半年以上かかったってことは、一般人ならレベル上げするのは一生無理だろうし」


【いちばんきちょうなアイテムってこと?】


「おれが持ってるアイテムの中ならな。同じ物はおれでも作れねぇし、コアたちもダンジョンエラーでしか出せないアイテムだって話だし。生き物が生存出来る環境を整えた亜空間、までは作れても、魔法陣もなしに持ち主の行った場所を登録し、どうやって任意登録者を出入り自由にするかがよく分からん」


【…にたようなのはつくれるって、ものすごいとおもう…】


「まぁ、伊達に色々と勉強してねぇんで」


 勉強と言えば、集めまくった書物を参考に色々と開発している途中だし、空いた時間は物作りに費やそう。

 旅に出て物珍しい物を見たり食べたりするのも好きだが、こもって物作りをするのも好きなシヴァだった。


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