245 【ちょっかん】スキルがはえたよ!

 リビエラ王国王都ドリフォロスの冒険者ギルドは、外観に彫刻があしらわれた歴史ある建物で元劇場だった、というのが頷ける程だった。


 劇場の方は手狭になり、もう少し郊外の方へ移転したそうだ。

 割と大きな建物だが、室内・屋外訓練場、倉庫を併設すると持て余すことなく、ちょうどいい大きさと言えるかもしれない。


 余裕を持った間取りになっていたものの、さすがに従魔は連れて入れなかった。

 デュークとバロンはディメンションハウスで待機させ、シヴァは単独で依頼掲示板を見る。いつものように混雑時間帯は避けたので、残っている依頼は割が合わないか、ワケアリが多い。

 ドリフォロスダンジョンのドロップ納品依頼が多いが、他のダンジョンのようにフロアボスドロップの納品依頼はまったくなかった。


 ここのダンジョンは30階ごとのフロアボスで、ボスフロアはボス部屋と転移魔法陣がある小部屋だけがある一般的な仕様ではなく、他のフロアのように通路と小部屋を通って罠を回避してボス部屋に辿り着く、というタイプなので、難易度が上がっているからか。

 誰も受けない依頼なら取り下げられるので。


 フロアボスドロップはランダムなことも多いが、武器ばかりとか防具ばかりとかマジックアイテムが多いとかの傾向はある。

 大半は高く売れる物なので、冒険者ギルドが買い取るより高く買う、と依頼があったりするワケだ。


 そういった依頼がなく、いらないドロップの場合は、冒険者ギルドに買い取ってもらうか、オークションにかけるのが一般的である。

 シヴァはドロップ納品依頼をいくつか受けよう、と思っていたのだが、鉱物も食材もいくらあってもいいものだ。

 それ以外となると魔石。B・Cランク魔石ぐらいなら腐る程持ってるので、これでいいか。


 市販の魔道具で需要が高い火属性、水属性の魔石をそれぞれ五個ずつ。別の依頼者で二件の依頼を受注した。

 ついでに、ガラノスの街で引き渡した盗賊の討伐報酬、懸賞金が口座に振り込まれているか確認してもらった所、ちゃんと振り込まれていたので引き出しておいた。


 商業ギルドでも口座を作ってあるから、いくつもあると管理が面倒だし、アルも目立ち過ぎたので、いつ冒険者ギルドから脱退することになるのか分からないこともあって。

 別に冒険者ギルドに入っていなくても、冒険者として活動するのはまったく問題ない。


 ただ、デュークの保護依頼が出たように、変わった依頼が時々あるので、そういった時にギルドに所属していないのは困る、程度だ。掲示板に掲示されている依頼ばかりではないので。


 シヴァは物陰からドリフォロスダンジョン10階転移魔法陣部屋へ、直接影転移した。

 部屋を出ると、ディメンションハウスで待機させておいたデュークとバロンを出し、受けた依頼の説明をしておいた。


 30階以降に出て来る魔物の魔石だが、バロンのレベルもそこそこ上がったのでパワーレベリングではなく、普通に探索で今日からはペースも上げて行くので、すぐだ。

 バロンは元々野生なだけに、戦い方から教えないとならなかったデュークより、戦闘能力が高いし、成長も早い。

 役割的に前衛はバロン、中衛は槍でデューク、シヴァは二匹のフォローでいいだろう。


 宝箱は小部屋に多く置いてあるが、大したものはないので寄り道せず、シヴァのナビで最短ルートを行く。

 もちろん、20階以降には罠も仕掛けられているが、バロンは野生のカンでひっかからず、うっかりスイッチを押してしまいひっかかるのはデュークだけで、はいはい、とシヴァが助けることになった。


 千里眼を使っている時でもそのまま鑑定も出来る【ドラゴンアイ】を装着すれば、デュークが罠にひっかかることはなくなるのだが、浅層のうちに罠に慣れておいた方がいいので、敢えてなしで。それに……。


【あっ、【ちょっかん】スキルがはえたよ!】


 狙い通り、デュークにスキルが生えた。


「そりゃよかった。まぁ、あれだけひっかかればな」


【はしるそくどがはやいから、わかりにくいんだもん~】


「それは逃げてる時に罠にひっかかっておしまいってことだぞ?」


【…う、それはイヤ。よかった、スキルはえて】


「不意打ちにも対応出来るようになるしな。バロンも更にステータスが上がってるし、上々だな」


 ちょうどいいから休憩にするか、と近くの小部屋に入り、魔物を掃討し、宝箱はあったもののミミックだったので、サクッと倒した。


 リポップするまで時間の余裕があるので、ソファーセットを出して休憩にした。デュークとバロンには果実水、シヴァは紅茶で生クリームのケーキを出してやった。クリームはバロンも大好きだった。


 ダンジョン初心者のバロンは気疲れもするだろうと、早めに休憩することにしており、休憩はもう二回目なので、36階の今もバロンもデュークもまだまだ元気一杯だった。

 依頼の魔石はとうに揃ってるが、まだ昼前で、納品期日は三日後までなのでかなり余裕がある。


 30階のフロアボス、キングマンティスも多少歯ごたえがあったかな?程度で従魔二匹で難なく倒しているので、予想より早く攻略出来そうだった。


 10階ごとに転移魔法陣があるだけに、その付近のフロアは冒険者が多くなっている。

 そのフロアにいない魔物に遭遇した時は、ほとんどは従魔なのは知られた事実だが、経験の浅い冒険者だとイレギュラーボスと勘違いする場合もある。

 魔物と人間が戦闘中ならまだしも、人間と一緒に行動するイレギュラーボスなんていないにも関わらず、冷静に判断が出来ず。


 シヴァはそういったバカもいることは知ってるし、デュークもバロンも、従魔だと分かり易くキラキラと輝く石の付いた首輪をしているにしても、セーフティエリアで攻撃したアホがいたこともあって、しっかりと警戒していた。


 しかし、それ以前の問題だった。

 40階以上に来れるような冒険者は割と戦えるようになっているので増長し、前はちゃんとやっていた装備を整えることもおざなりになり、警戒も緩くなり、結果、怪我することになっていた。

 回復係はいても魔力切れ、ポーション切れ、マズイと気付いた時には転移魔法陣があるフロアまで戻るには、かなり困難になっており……。


 そんなこんなで、シヴァがポーションを売ることが増えてしまった。それ以上は自己責任だが、ポーションも薬も豊富に在庫を持っており、回復魔法も転移魔法も使えるシヴァじゃなければ、自殺行為だろう。


 まぁ、デュークとバロンには「こういった冒険者たちもいる」といい勉強にはなったか。

 人が減って来た45階のセーフティルームで昼休憩することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る