149 世間に出していい技術なんでしょうか?

 翌日。

 シヴァは【変幻】魔法でアルに化けて、デュークと一緒にパラゴの商業ギルドに来ていた。

 朝のラッシュが過ぎた時間九時半である。

 ファルコ経由でベレットには連絡を入れてあり、昼食を一緒に食べることになっている。


 商業ギルドの扉をくぐると、いつもと違い、ざわっ!と空気が緊迫感を帯びた。

 小さくてもどう見てもAランク魔物のグリフォン連れだからか。

 野放しなのも不安なのかも、とアルはデュークを抱っこした。


「トリノさん、いる?」


「しょ、少々お待ち下さい…」


 奥の部屋にいるらしく、受付嬢が呼びに行こうとすると、任せろとばかりに男性職員が呼びに行った。


【ぼく、こわがられてるの?こんなにかわいいのに?】


 デュークの首輪に仕込んだ通信魔道具には、誰にでも念話が聞こえるようスピーカー機能を付けてあった。

 アルだけしゃべるのも変なこともあって。当然、切ることも出来る。

 すると、首輪はオシャレなコミュニケーターにしか見えない、という目論見もある。


「グリフォンなんて見たことねぇ人が大半だしな。おれもダンジョンでしか見たことねぇし」


「しゃ、しゃべるんですか?」


「スゲェ賢い魔物なんだよ。人間の言葉を理解していて念話が使えるから他の人にも聞こえるようにしただけ」


 デュークが人間の言葉を理解しているからこそ、普通に話してるよう言葉として聞こえるのだ。

 翻訳しているワケではないので、もし、普通の魔物に使っても言葉にはなるまい。人間に育てられたファルコと長年人間の従魔をしている魔物以外は。


【こんにちは】


「こ、こんにちは…」


【ぼく、わるいまものじゃないからね。アルのおてつだいをすることになったの。じゅーま?ってやつで】


「そうなんですか。驚きました。どんなお手伝いをするんですか?」


【きょうはけんがく。にもつもはこぶの。ぼく、アイテムボックスとかいうスキルもちなんだって】


 実質は大容量で時間停止のマジック収納だが、そういったことにしてある。


「まぁ、それはすごいですね。中々そのスキルをお持ちの方はいないんですよ」


【そうなんだね】


 そんな話をしてると、トリノが来たので、応接室へ移動した。


「…グリフォン」


【こんにちは~。なかよしだっていうしょうにんさんだね。ぼく、デューク、よろしく】


「よ、よろしくお願いします。…アル様、何で話すのでしょうか?」


「元々賢い魔物で念話が使えるから、マジックアイテムで他の人にも聞こえるようにしただけ。言葉を理解しているからこそ、ってワケ。文字は数字しか読めねぇから勉強中だけど」


「そんなに賢いんですか…」


【ぼく、けっこうすごい?】


「かなりすごいですよ。従魔なんでしょうか?」


「そう」


 アルはデュークを飼うことになった経緯をさらっと話した。

 別に隠すようなことじゃない。


「ああっ、聞いたことがあります。王都の北部でグリフォンを騎獣にしている行商人の噂は。Aランク魔物をどうやってただの商人が、で本気にしてない人ばかりでしたが、本当だったんですね」


 やはり、噂にはなっていても信憑性が薄いと、そこまで広まってなかったようだ。

 ベレットたちの活動地域は王都エレナーダの北部、農村と山ばかりでそんなに大きくない街が一つしかない地域ということもあったのだろう。そんな僻地だから行商人は有難がられるワケだが。


「で、今日はデュークの顔見せだけじゃなくて、新しいレシピを登録しようと思って。樹脂アクセサリーと人工宝石」


「じ、人工宝石ですか?」


「これこれ。多少手直しは必要だけど、十分キレイ」


 多面体カットではなく、オーバルで色々キラキラを入れてオパールっぽくしてみたり、グラデーションにしてみたり、バイカラーにしてみたり、キャッツアイにしてみたり、蛍光の鉱石と混ぜて薄っすら光らせてみたり、とアルとアカネで楽しく手作業で作ってみた。


 ルースのままざらり、と出すのも高級感がないので、ビロードっぽい黒い布に一石ずつ置き、透明ケースに入れてみた。素材は紙だが。

 樹脂アクセサリーはドライフラワーだけじゃなく、鉱石チップや光る貝殻を砕いたもの、ミニチャーム入りとやりたい放題である。

 アイテムはペンダントはもちろん、ピアス、樹脂だけで作った指輪、ブレスレットも作った。

 物作り大好き夫婦なので、かなり色々試したワケだ。


「…本当に人工なんですか?」


「ああ。はい、書類。砂時計と同じ素材を使ってるんだよ。だから、パラゴに持って来たワケ。上手く行けば大儲け。パラゴの街もかなり発展するだろうな。で、カット技術を高めると、こんな輝く宝石も作れるようになる」


 こんな、とデュークを抱っこして、その首輪のスカイブルーからパープルになるグラデーションになった人工宝石を見せてやった。


「なんて綺麗な…世間に出してしまっていい技術なんでしょうか、これ」


「もう出てるじゃねぇか。砂時計で。瓶や食器も作って売ってるだろ」


 素材があるパラゴなだけに。


「いや、でも、こんな使いみちがあるとはまったく思ってもおらず…好きな形と大きさと色に出来てこれ程綺麗なら、本当の宝石より価値が上がるかもしれません…作り方は……え、こんなに簡単でいいのですか?」


「おう。ソルジャーアント狙いの冒険者が増えそうだろ。腐る程いるし、一定時間でリポップもするから狩り放題だぞ。この辺の他のダンジョンで『目』はドロップしねぇし」


 さり気なく増やして行くつもりではあるが、今の所、この近辺ではパラゴだけだ。


「ちなみにその人工宝石、手作業で作ったけど、錬成すればもっと大量生産出来るぞ」


「…アル様、本部に上げた方がいい案件かと。たびたびお手数ですが」


「うーん、面倒臭いなぁ」


 本部長とギルドマスターを助けたことがあるので、やたらと長くなるし、先日両替に行った所なのだ。

 コアバタたちに頼んで、幻影を使って色んな街の商業ギルドへ行き、両替作業を地道にしてもらっている。


【ほんぶってなに?】


「商業ギルド本部です。王都エレナーダにございます」


【そうなんだ。…あ、あのおおきいたてものね】


「それで合ってる。大事になりそうな案件は、一担当者、一支店長には判断出来ねぇから、本部に連絡した方がいいって風になるワケだ。じゃ、サファリス国に持って行こうかな。大掛かりな事業になりそうなら、大災害で復興が大変だから一番外貨が欲しい所へ」


 王都ティサーフダンジョンだけじゃなく、他のダンジョンも攻略して、何故か『ソルジャーアントの目』と『カエル系魔物の粘液』がドロップするようになればいいのだ。


「そうですね。その方がいいかと思います。パラゴの街はアル様のおかげで十分発展してますし」


「トリノさんも欲ねぇなぁ。ま、レシピの登録はしといて。本部に上げるかどうか、広めるかどうかはトリノさん次第ってことで」


 登録しても現物はなく、ギルド職員が役立てそうな職人や商人に声をかけなければ、新しいレシピが知られることはないのだ。


 それから、トリノに生花が買える店や生産者がいる場所を聞いて直接買い付けに行き、デュークとその収納が役に立った。アルと手分けしたので。

 野菜より生花の方が育てるのが簡単だった。



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新作☆「番外編28 主様(ぬしさま)の花嫁は幸せを掴む」

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