146 ぼく、そこまでちびっこじゃないのに~

「なんか、のんびりするねぇ、ここ。さむくないし、あつくもない』


 寄せては返す波の音。鳥も虫もいないので波の音、木々が揺れる音だけが聞こえる。


「そういった風に整えてあるんだよ。そういや、グリフォンって泳げるのか?」


『たぶん。ファルコ、かわやみずうみならふかいところにはいってたし。ぼくはダメっていわれたけど』


「ファルコがデュークのこと、人間で言えば、『ちょっと動けるようになったぐらいの赤ん坊だ』と言ってたぞ」


『えー?ぼく、そこまでちびっこじゃないのに~』


「十分ちびっこだろ。生まれてまだ三ヶ月程度じゃ。その割には賢いけど」


『おやがいないと、じぶんでいろいろおぼえないといきのこれないから、かしこくなるんじゃないかって、ファルコがいってたよ。ファルコもひなのときからかしこいんだって』


「だろうな。魔物だと生存本能がより強くなるだろうし、ある程度まで大きくなるのも早いんだろうな」


『そうらしいよ。とべるのは、うまれてはんとしごぐらいだって』


「結構、かかるんだな。風魔法も使えねぇと飛べないからか」


『え、しってた?』


「推測。魔力はもうそこそこあるから、魔法が使えねぇってワケでもなさそうだけど」


『…そうなの?じぶんじゃわかんないや』


「自分の中の魔力は分かる?」


『なんとなく?』


「じゃ、おれの魔力で押してやろう。…これがデュークの魔力」


『あ、うん!なんか、ぐぐっとなった。これがまりょくなんだ。じぶんでうごかせたらいいの?』


「最初はそうだな。体内でどこでも動かせるように。足に集めれば身体強化で高く跳べるし、目に集めれば遠くまで見える」


『へぇ、それはすごいね!』


「魔力消費するから調子に乗って使ってると、魔力欠乏でしんどい思いするぞ。魔力枯渇まで行っちまうと命の危険があるからやらねぇように。って、本能が強い魔物の場合はそこまでやらねぇだろうけど」


『うん、きをつける~』


 新しいおもちゃをもらったように、デュークは自分の体内魔力操作を嬉々としてやり出した。魔法を使えるワクワク感や憧れもあったのだろう。


「あ、そうだ。自分のステータスが見えるマジックアイテムを作ってやろう。…って、デューク、人間の文字は読める?」


『ちょっとだけ。すうじはばっちり』


「商人と一緒だっただけあるな。なら、大丈夫。着けるならどこ?足?ファルコみたいに首輪?」


『くびわ!かっこいいのにしてね』


「カッコイイ…デュークの趣味はどんなの?」


 シヴァがタブレットを出して、いくつかデザインしてやると、ク○ムハーツのようなクロスモチーフで、唐草と絡めてあるようなゴツイ感じがよかったらしい。


 合わせてコマの大きいチェーンを両端に繋いでネックレスにし、黒い鷹頭に黄色のクチバシに似合うブリリアントカットしたスカイブルーからパープルになるグラデーション人工ダイヤを使う。

 お試しで作ったものだが、中々キレイなのだ。直径3cmでもかなり光るので大きく見える。


 そして、バレーボールぐらいの大きいSランク魔石を直径3cmまで圧縮し、人工ダイヤと【アイテム創造】で合成。

 これで人工魔石になる…というワケではなく、表面が人工ダイヤ、中身が圧縮魔石になっただけだ。どうせなら、飾りだけじゃなく空間収納を付けてペンダント型マジック収納にしたいので。


 このマジック収納は着替える魔法【チェンジ】の仕組みを使ってあるので、脳内でリスト化し、更に、可視範囲なら思念操作で手で触れずとも選んだ物を収納出来るようにした。出す時も脳内リストから選びどこに出すかも決めることが出来る。

 当然、セキュリティはかけてあり、他人様ひとさまの物は収納出来ないようになっている。

 最後にステータス表示と通信機能を付けて出来上がり。


 子供のグリフォンというだけでもレアなので、レア物を使ってても全然いいだろう。


 ペンダント型マジック収納をシヴァが試しに手首に装着すると、ちゃんと自動調整してピッタリサイズに。砂や石を適当に収納して、また場所を変えておく。ステータス脳内表示も通信機能もオッケー。

 よし、バッチリだ。


 デュークの首に装着しても、ちゃんとピッタリサイズに調整された。デュークに使用者登録もさせておく。管理権限はシヴァにある。盗まれても他の人には使えない。

 鏡を出して見せてやると、デュークもかなり気に入っていた。


『きらきら~キレイ。すっごいね。シヴァってほんとうにすっごいね。ささーっとつくっちゃうし』


「喜ぶのは後にして機能試してみろ。ステータスって思い浮かべれば頭の中に表示されるから」


『あ、うん、でた!どれがまりょくかわかんないんだけど』


「MPって表示してある」


 シヴァが砂地に書いてやると、あ、これね、とすぐ分かった。


「見たい項目だけ見れるし、ステータスについては後で説明してやるよ。で、通信機能と収納を付けた。通信で繋げられるのはおれとアカネだけ。ファルコと繋ぐのは慣れてからな。あっちが仕事中にも関わらず、たびたび連絡しそうなんで。ファルコから連絡があった時はデュークにも繋げるから、それは問題なし」


『はーい。…あ、シヴァといっしょにいないときでも?』


「大丈夫。で、収納なんだけど、使い方はマジックバッグとだいたい同じ。バッグがなく、時間停止で、頭の中にリスト化されてるから何が入ってるか分からねぇということもなく、収納する時に一々手で触れる必要もないだけ」


『…だいぶちがわない?』


「空間収納やアイテムボックスに近いって言っても分からねぇだろうから。これを収納したいと思う物が入る。生き物は不可。やってみ?」


『なんでもいいの?』


「ああ。他人の持ち物は基本的に範囲外。売り物もお金払って自分の物になってから」


 この辺のセーフティも入れてある。どういった仕組みなのか、我ながら分からないが、想像が出来ればいいのかもしれない。

 デュークはやはり、最初は石から収納していた。

 おおー!と大興奮で他にも色々収納して行く。海の水や砂もだ。


『まざったりはしないの?』


「しない。空間が分かれてるからな。時間停止だから温かい料理はそのまま、冷たいものもそのまま」


『へぇ!すごいね!』


「だから、デュークが自分で狩りが出来るようになった時、獲物がでか過ぎて全部は無理、ということがなくなるし、しばらく入れておいても腐ることもない。結構、大容量だからな」


 Sランク魔石が豊富にあるので200m四方で作っておいた。『大は小を兼ねる』だ。


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