124 念話だと嫌そうなのが丸分かりなのよ!
「……テレストよ。お前は本当にしみじみとダメな子ばっかり拾うよな…」
報告を受けがてら、休憩しよう、とデルティーンの街へシヴァが行くと、テレストが外におり、1mぐらいの黒虎を侍らせつつ、魔石コンロでお湯を沸かしていたのだ!
ヴェスカはサイズ変更をしたらしい。
シヴァは脱力するより呆れが
テレストはそういった星の
「みんな、怖がって押し付けられたのよ。拾ったのと大差ないけど。シヴァ殿、事情を知ってるの?」
「今回の元凶の一匹。…そういや、テレストは鑑定スキルを持ってなかったか」
鑑定出来るアイテムは持っていたが。
「一応、察することぐらいは出来るわ。いきなり虎だし、念話も魔法も使えるし、シヴァ殿が以前に探してるって言ってたし。何か色が違うけど。元凶ってどんな意味で?」
「そのまま。…防音結界を張った。自分で説明しろ。ヴェスカ」
シヴァは自分のソファーセットとコーヒーテーブルを出して、紅茶を淹れた。そんな気分だ。
お茶請けはプチシュー。テレストにも分けてやる。
ヴェスカはちゃんと反省したらしく、嘘偽りなく経緯を話した。
「……何でアタシの所に集まるのかしらね。本当にダメな子たちばっかり…」
はぁ、とテレストはため息をもらす。
話を聞き終わったテレスト判定でもヴェスカは有罪だった。当然である。
二、三百人は死者が出ていて、作物も食べ物もなくなり、環境も破壊されて、国家存亡の危機はまだ脱し切れていないのだ。
『貴殿は324歳と人間にしては長寿だから、どうしたらいいのか助言をもらえると思ったのだ』
「あいにくと、シヴァ殿の方がかなり博識だし、散々説教されてるわよ。ダメな弟子ばかりでアタシが更にダメにしてしまったからね。年ばかり重ねても年数の半分ぐらいは獣人偏見が強くて、肩身の狭い思いをしたり、なるべく関わらないようにしたりしてたから対人スキルも低いこともあるんだろうけど」
「で、またダメな弟子を育てるワケか?」
「弟子なんか取らないわよ、もう。ヴェスカも自分で考えなさい。それも含めての呪いでしょ。時間はたっぷりあるじゃない。…っていうか、アタシの方こそシヴァ殿に弟子入りしたいわ。アカネさんを短期間であれ程、強くしたのは貴殿でしょう?全然向いてなさそうな体格なのに」
「アカネは戦うには体格に恵まれてないだけで、元々運動神経も頭もいいし、努力も惜しまねぇからってだけだ。一人歩き出来る程度の強さでよかったのに、ドラゴンスレイヤーだし、ダンジョン三つソロ攻略して四つ目攻略中だし、で着々と自力で強くなってる」
「…ものすごく才能があったってことよね、それ」
「元の世界でもおれを投げるぐらいは出来てたしな。護身術を教えただけで。…で、テレストはSランクにまでなってるのに、更に強くなってどうするワケ?」
「上には上がいることが分かったからよ。シヴァ殿に比べたら、全然、ケタ違いなのが悔しいから」
「それは強くなりたい理由だろ。強くなったらあのダンジョンのボスを、とかねぇの?」
「それは別にないわねぇ。基本的にダンジョンってパーティ組んで潜るものよ?分かってる?」
「一応は。上手く連携出来てるパーティの方が少ねぇけど。それにしても、その程度が理由なら自分で努力すれば?ソロでダンジョン潜ってりゃ、自然と鍛えられるし、戦い方にも幅が出る。パーティでしか潜ってねぇと経験値は頭割りだから、大して伸びねぇんだよ」
「…え、そうなの?いえ、経験値のことは知ってるけれど、頭割りなのは初めて知ったわ」
「足し算や割り算が出来ねぇ?」
「そんなワケないでしょ!ステータスの数字は鑑定持ちでもなければ見えないし、レベルが上がるのもバラバラだからよ」
「レベルアップに必要な経験値は個人差があるし、高レベルになればなる程、経験値がたくさん必要になるからな。称号が付くのも個人差ありらしい。アカネよりおれの方が多くドラゴンを討伐してるのに、ドラゴンスレイヤーの称号はないし」
「…あのね、シヴァ殿。称号って滅多に付かないものなのよ?最初からある称号だけの人がほとんどなぐらい」
「知ってるって。他の人のステータスも見えるんだからさ。…ああ、そういや、ヴェスカ。転移で移動出来る距離はどのぐらいだ?」
ステータスが見えても、そこは分からない。
『前は街から街へぐらいは余裕で移動出来たが、今は魔力が足りる距離、だと思う』
「たったそれだけの距離?国をまたぐような距離は無理だったのか?」
『そんな長距離、どうやったら移動出来るのか分からん』
「魔法はそう思った時点で出来ねぇんだよ。しょぼいな。輸送で使えるかと思ったのに」
「ああ!それはいいわね。街から街へでも一般的にはかなりお役立ちよ。ヴェスカ、アイテムボックスや収納系の魔法は?」
『アイテムボックスならある。輸送とは何をやるんだ?』
「物資を運ぶのよ、物資!食料はもちろん、服や雑貨も足りなくなるだろうし、家や橋が壊れちゃったでしょ。材料がなければ直すに直せないの」
『つまり、人間の使いっ走りをしろ、と?』
「まだまだ全然反省が足りないようね?」
テレストは炎の玉を手のひらの上に浮かべる。無詠唱だ。スムーズな発動といい、さすがSランクなだけある。
『お、落ち着け!確認しただけだろう!』
ヴェスカもさすがに慌てる。
テレストはSランクだけあり、魔法の攻撃力も大した威力なのだ。魔力が少ないのが惜しいが。
「念話だと嫌そうなのが丸分かりなのよ!」
その通りである。
「テレスト。貴重な魔力は温存しとけ」
シヴァも魔力温存中なので、ヴェスカの上にかなりの量の雪を出してやった。大雪で家が潰れることもあるように、かなりの重量である。
ぐえっ!と悲鳴が上がったが気にしない。
「…どこから出したのよ。こんなに大量な雪」
「出入口が雪で埋まってるダンジョンがあってな。片っ端から収納したからたっぷり持ってるワケだ」
「……それ、反則攻略じゃない?」
「この程度で反則はないだろ。元々ダンジョン攻略にルールなんかないし」
「そういえば、疑問だったのだけれど、シヴァ殿、急なことなのにあんなに大量の物資、どこから集めて来たの?大量に買い占めたとしても、もっとバラバラになるハズよ」
「日頃から災害時に備えて備蓄していた。超有能な仲間たちがいるからな。野菜は大規模な農園で作ってる」
ダンジョン内に。これまた本当のことだ。
「服や靴は?」
「作った。その素材も作ってる。大規模にやってても噂にならんのは、許可した人しか入れん場所だからだ」
これも本当のことである。
「それにしたって、アル殿名義でもかなりの物資を出したでしょ?一体、どれだけ大金持ちなのよ…」
「世界一。こう急いで復興しなくても数年は遊んで暮らせる程の物資提供は簡単だが、それだと堕落するからな。さじ加減が難しい所。動いていた方が気が紛れるだろうし」
「…ああ、そう。何か気負ってたのがバカらしくなっちゃったわ…」
「気負って上手く行くことなんざ、あまりねぇぞ。…さて、おれは怒られる前にちゃんと休むか。お休み」
シヴァはさっとソファーセットを片付けると、影の中に潜ってからディメンションハウスへ移動した。
昨日に引き続き、今日も、なので、さすがに魔力を使い過ぎた。
オーブに溜めた魔力を使おうにも、もう胃もたれしている感じで受け付けない。
これが大量に魔力補給して大量に魔力消費を繰り返した副作用だろう。魔力自動回復スキルも上手く働かないようで、いつもより回復も遅い。
テレストと話している間も、念話で報告を受けていたし、休む旨も連絡してあるので問題ない。分身やコアバタなら普通に転移して来れるだろうが、そこまで緊急でシヴァ本体を起こす事態はまずないだろう。
眠過ぎたので風呂は後にし、【クリーン】でキレイにしてからベッドに倒れ込んだ。
ホワイトタイガー…いや、黒虎ヴェスカのせいで余計な手間と魔力と労力を使ったのも痛かった。
しっかりこき使わねぇと、と思った所でシヴァの意識は眠りの沼にダイブした。
――――――――――――――――――――――――――――――
新作✩「番外編26 文字は縁(えにし)を結ぶもの?」
https://kakuyomu.jp/works/16817330656939142104/episodes/16817330666433475345
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます