116 神獣たちの本領発揮!

 みんなが忙しく働いていると、そこに、分身のアルがイディオスと一緒に来た。

 ラーヤナ国フォボスダンジョン→キエンダンジョン→サファリス国ティサーフダンジョン、とダンジョン間転移魔法陣経由で、ティサーフからはシヴァ(本体)が転移で引き寄せた。


「おう、ご苦労さん。イディオスも少しぶり」


『そういえば、すれ違ってたか。…それにしても、かなり、広範囲に汚染されてしまったな。早速、浄化していいか?』


「是非とも頼みたい所だけど、その前に民たちが魔物だと勘違いして怖がるかもしれねぇから、まず紹介しよう」


 シヴァは風魔法に声を乗せて、この辺一帯にイディオスを紹介しておいた。

 魔物とはまったく違う神聖な雰囲気なので間違える方がどうかしているが、見慣れないものは疑心暗鬼を招く。



 いつもは大型犬サイズのイディオスだが、今日は5mぐらいの本当の大きさになり、キラキラと光を振りまきながら、土地を駆け回った!


 それだけでジメッとしていた土地がみるみる肥沃な土地に変わる。

 枯れたり腐ったりした作物ばかりで、取りあえずは放置だった田んぼや畑だったが、イディオスがその上の空中を飛ぶと、どうしようもない作物はみるみる乾いてなくなった。


 大歓声が上がった!

 さすが、神獣。

 本領発揮である。

 いくら、神獣でもすべての畑だった場所の浄化は無理なので、後は地道に浄化して行くしかない。

 今度はシヴァの【大地の杖】の出番だろうが、他の作業が終わってからだ。宿舎の数をもっと増やさねば。

 火魔法使いに枯れた、腐った作物を燃やしてもらってからの方がいい。



 その間に、分身のアルは影収納からラーヤナ国の救助隊を出し、目覚めさせると、役人に言ってまた名簿作りと担当分けをしてもらっていた。

 置いてもいい場所を聞き、土魔法で整地すると、救援物資入り倉庫を次々と設置して行くアルに、はぁ?と周囲の人間が驚いていた。

 大容量のマジックバッグでもここまで入るものなんてあるのか?そう思ったのだろう。

 実際、倉庫を出しているのはコアバタだ。分身アルは整地はしているが、倉庫は出したフリである。


 シヴァはさっとタスキを作って、分身アルにかけてやった。

 『にゃーこや店長・アル』である。王族のタスキの地色は黄色、アルは色違いでオレンジ。アカネの好きなみかん色である。


「ちょっと待て。何でおれまでタスキ?」


「分かり易く。『何でも係』だろ」


 アルは暗めの茶髪に薄い水色の目のよくある十人並の容姿で、特に強いワケでもない避難民たちに見分けが付くとは思わなかった。

 シヴァの分身たちは全員が認識阻害仮面を着けていても、背が高く、やはり、目立つので分かり易い。

 それぞれ服も装備もバラバラにしたが、暗い色系統なのは変わらない。


「人使いが荒いし~」


「イディオスと川の下流に行って、死体処理と浄化、よろしく」


 死体は人間だけじゃなく、動物、魔物も多い。それ程、川が氾濫していたのだ。

 死体は伝染病とアンデッドの原因になり兼ねないので、早めの処理が必要だったが、こっちはそこまで人手を割けない。分身アルには多めに魔力を蓄えたオーブを渡してあるし、空を飛べるバイクもある。


「はいはい。ついでに、困ってる村や集落の調査な」


「そう」


 大雨被害はやり過ごせても、物流が途絶えているので。

 通信バングルでイディオスを呼び戻し、アルと一緒に出かけて行った。大型犬サイズになれば、リアシートに乗れる。

 一応、シートベルトで縛り付けて。以前、一号を乗せたことがあるのでお試し済だ。


 シヴァはポンプ式打ち込み井戸を新設すると、仮設住宅からそう遠くない所に温泉を掘り当て大衆浴場を作った。設備は分身たちも手伝う。

 【大地の杖】様様でかなり魔力消費が抑えられているし、温泉の源泉も【魔眼の眼鏡】を使うより分かり易かった。



【おう、シヴァ到着したぞ。ここから、どこへ行けばいいんだ?】


 そこに、通信バングルにカーマインから連絡が入った。

 ちょうどいい。

 シヴァはカーマインを引き寄せた。


『い、いきなりじゃな。会うのは久方ぶりか』


「そうだな。駆け付けてくれて感謝する」


『改まらんでもいい。こんな酷いことになっとるんなら、わしらの仕事のうちじゃしの。イディオスが先に来とるようだが、半端な仕事ぶりじゃないか?』


「川の方の浄化を頼んだからな。カーマインは枯れた腐った作物を燃やしてくれ。浄化はおれがする。その方が効率的だろう。この【大地の杖】がかなりお役立ちでな」


『ほう?かなりの力が込められとるな。精霊も憑いとるし』


「…そうなのか。それは気付かなかった。大半の精霊には大して力がないと思っていた認識を変える必要があるな」


『いや、その認識で合っとるぞ。精霊王の指示か何かで、その杖には滅多にいない強力な高位精霊が憑いているから、こっちが例外じゃ。どうやって手に入れた?』


 シヴァは念話に切り替える。少ないとはいえ、周囲に人がいるので。


『ティサーフダンジョンで。ボス討伐ドロップだ。アトラスだったから大地関係ということになるかもな』


『なるほどのぉ。こんな大変な事態になっとるから助力の一端かもしれん。さぁ、始めるか』


「その前に皆に紹介する」


 見れば分かるだろうが、見えない所にいる人たちは驚くだろうから。

 また風魔法に声を乗せて紹介しておいた。

 その間に、カーマインはカラスサイズから本来の翼長10mに戻った。

 バサッと羽音が聞こえて来そうなのだが、そこは神獣だからか、音はなし。

 枯れた腐った作物を燃やすが、すぐ火は消え、煙も大して出ない。その辺の配慮もしているらしい。


「おぉっ!フェニックスだ!フェニックス様も救援に来て下さったっ!」


「ありがたや、ありがたや」


 被災者たちが両手を組み頭を下げカーマインを拝んでるうちに、シヴァは【大地の杖】を使って土地の浄化、土壌改良をし、肥沃な土地にし、風魔法で種を蒔いた。まずは小麦。一気に成長させると土地が痩せるので、まず苗になる程度までで。

 シヴァはさり気なく隠蔽をかけたので、カーマインのおかげ、となるだろう。

 シヴァは隠蔽をかけたまま、カーマインと一緒に田んぼや畑を蘇らせて行く。


『別に隠れんでもよくないか?』


 そんなことをカーマインは言っていたが、よくないので隠れているワケだ。四分の一まで終わった所で終了。

 カーマインの魔力が保たないこともあるが、オーブを使っているシヴァも疲れたので。

 シヴァはカーマインの背中に乗せてもらってセプルーの街に戻った。

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