114 タスキ投げ
シヴァは王宮内を悠々と歩く。
宰相のあんなに率直で熱い演説にも心動かされず、「面倒臭いしー?」とか「そっか。頑張れー」とか言ってそうな、現に言っていた貴族連中の元へ行き、問答無用で眠らせ影収納へ放り込んで行った。
シヴァが廊下で通りすがりのふんぞり返った貴族とその従者を眠らせて影収納に入れてると、ふと目が合った。
五、六歳ぐらいの幼女だ。一人じゃなく、侍女と一緒に目を見開き、こちらを見ている。王女かその学友かその辺りか。
「お嬢さんたちも来る?」
「バーリーおじさまがおっしゃってたふっこうしえん、ですか?わたくしでもお役に立てますか?」
「もちろん。パンや飲み物を配ったり数を数えたりは出来るだろう?君と同じぐらいの子やもっと小さい子達と遊んであげるだけでもいい」
「出来ます!やらせて下さい」
「じゃ、少しだけお休み」
シヴァは幼女も侍女もちゃんと眠らせて影収納の中に入れる。
鑑定すると、やはり、第三王女だった。あの王が父親なので王族の義務というものを、幼いながらも分かっているのだろう。
このサファリス国の王族は当たりかもしれない、と【魔眼の眼鏡】で王族が住むエリアを探してみたが、人がいない。
とうに広場へ向かってるか。第三王女も向かっている最中で、単にコンパスの差で遅れていただけのようだ。
では、引き続きやる気のない貴族たちを回収、料理人はたくさん欲しいので宮廷料理人たちを…と食堂を【魔眼の眼鏡】で覗いてみたが、とうにいなかった。
広場の方を視ると、料理人たちが持てるだけ食材を持ち、広場で待っている人たちにも、貯蔵庫の食材の運び出しの手伝いを頼んでいた。さすがだ。
おれも手伝うか、とシヴァは料理人たちの側にするっと影転移した。【魔眼の眼鏡】で
「手伝うぞ。食材を運ぶ所だろう?おれの影収納は実質、容量無制限だ」
「え、あ、じゃ、頼みます。…って、どちらさま?」
「ああ、そうか。悪い。SSランク冒険者のシヴァだ」
「あなたが!」
「…本当に噂通りの美人さん…」
「はいはい。さっさと案内」
シヴァは料理人たちが持ち出した食材を影収納に入れてから、さっさと促す。
王宮に残る宮廷人や使用人もいるが、作る人がいなければ、街に出て食べたり、調達したりすればいいだけなので、根こそぎさらって行った。
宰相たちが用意していた支援物資も回収しに行く。
「時間を置けば何度も往復出来るから、第一陣はこんな所でいいだろう。次、目を覚ました時は被災地だ。かなり荒れ地になってるから覚悟しとけ」
シヴァは【大地の杖】を出し、そう前置きをしてから一斉に眠らせ、影収納にさくっと入れた。
さすがにこの人数だと結構魔力を使う、らしいが、杖と称号のおかげで大したことがない。
サクッとセプルーに転移して、まずは認識阻害仮面を着けてから、魔法で乾かした場所に国王と宰相を出して目を覚まさせる。
「…本当にもう着いたのか。すごいな…」
「……映像で見せてもらいましたが、実際見ると……痛ましい光景ですね…」
「国王、宰相、そこを動くな。台を作る」
シヴァは国王たちを乗せたまま、土魔法で舞台を作った。階段も土でしっかりと作る。
それから、やはり魔法で乾かした場所に連れて来た人たちを一斉に出し、【スリープ】を解いて目を覚まさせた。
「拡声する魔道具。マイク型」
【アイテム創造】でちょっと作ってみたが、思う通りの物が出来た。マイクだ。スピーカー一体型な感じである。拡散する範囲も指定出来るようにした。スイッチを入れると音が拡散する、と説明してから、国王に持たせる。
【みんな、おはよう。サファリス国国王、バリュース・ティル・フォン・サファリスだ。大雨で大変な被害が出たと聞き、シヴァ殿に頼んで連れて来てもらった。
皆の者、本当に大変だったが、よく頑張った。本当によく頑張ってくれた。第一陣の復興支援隊を連れて来ておるし、これからラーヤナ国からもエイブル国からも支援がある。だから、しばらくはたっぷり休んで英気を養ってくれ。
そして、元気を取り戻したら、今度は一緒にまた頑張ろう。冬になる前に復興しないとならないからな!一人一人の力は少しでも合わされば、大きな力になるのだ。それに、わたしたちには大きな力、シヴァ殿方が協力してくれる!こんなに心強いことはない】
わぁ~っ!と大盛り上がりだった。
動けるよう質素な服で王冠も被ってないが、王様らしくゴージャスなマントなので、本当に王様だ!と民たちも大喜び。
娯楽が少ない世界だし、いつもは遠い遠い存在の国王がすぐ近くにいることなんて滅多にないので、こんな演説程度でも楽しいのだろう。
国王はご機嫌で手を振り、宰相を紹介すると、続いて王族を舞台に上げて、順に紹介して行く。そんな紹介されても普通は一発で覚えられないので、シヴァは作業台を出し、順にタスキを作ってやった。
『国王・バリュース』『宰相・バーリー』…といった感じで。
国王はマントがあるので後回しにし、他の人たちにはひょいっひょいっと投げて、タスキをかけて行く。輪投げより簡単だった。
文字が読めない人たちでも、タスキがかかっている人が王族、というのは分かり易い。
「ゼロ、ちょっとおれにもやらせて」
面白そうだと思った分身「へー」がシヴァ本体に寄って来て、タスキかけを手伝ってくれた。
こちらの役人にはとうに腕章を着けさせている。安全ピンは過去の転生者、転移者が定着させていた。大きさはバラバラなものの、このぐらいなら普通に使えた。
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