069 正解はパエリアだった

 昼食後も探索を進め、14階で交替で採掘をし、魔物を狩りつつ、11階のセーフティスペースまで戻った所で夕方になり野営の準備になった。


 ここまで来たら普通に帰れるのだが、野営も試験のうちなのである。

 まず焚き火だ。枯れ枝は道中で拾ってるので、さっさと点ける。

 このフロアは外と同じく日が暮れるので、やがて真っ暗になるのだ。


 アカネの圧倒的な強さを思い知った受験者たちは、徐々に口数が減っていた。ここまで早く戻って来れたのも、アカネのおかげだ。


「もうAランクでいいだろ…」


「何でまだCランクとか言ってるんだよ…」


「スゲーお荷物なの、こっちだよな…」


「おれ、調子乗ってた…」


「世間って広いのね…」


「もう二度と試験官なんか受けねぇぞ…ギルドも把握してねぇだろ、ここまで強いのは…」


 ぶつくさ言ってはいたが。

 野外料理の定番と言えば、カレーだが、ダンジョン内ではさすがに…と結界を使えば問題ないにしろ、他にも人がいるので自重したのか、アカネは深いフライパンでパエリアを作った。

 わざわざ、冷凍してマジックバッグにしまっておいた魚介類を使って。ブイヤベースかクラムチャウダーでも作るのかとシヴァは思っていたが、正解はパエリアだった。


 流水半解凍してから切ってある野菜と一緒に具材を炒め、そこそこ火が通った所で生米を入れ、少し炒めてからスープを入れて炊く。香辛料を使うが、簡単な家庭料理だった。


 それだけじゃなく、ガスパチョも作る。生野菜とパンと好みの調味料をミキサーに入れるだけのとろっとしたスペインの冷製スープだ。パエリアもスペイン料理だからだろう。

 この世界には色んなジューシーな野菜があるので、アカネはシヴァレシピで作っている。


 魔道具ミキサーは普通に売ってるが、アカネが使っているのはシヴァの改良版でミキサーに入るサイズなら、大きかろうが何だろうがサクサクと細かくし、みじん切りからジューサーまで段階も選べる。

 洗うのが面倒なミキサーだが、魔法のあるこの世界では【クリーン】で一発キレイになる。油脂汚れでも何でも。


 香ばしいいい匂いに、アカネ以外の六人の喉が鳴る。

 出来上がったので、アカネは深皿にパエリアをよそった。残りは後三分の二。


「アカネさん、売ってくれないか?おれは試験官だから…」


「試験官だからこそ、ダメでしょ。賄賂わいろじゃん」


「…うっ…って、アカネさんには賄賂なんて必要ないから、それとこれとは別だと…」


 フィヨルド、食欲に負けたか。


「別じゃない。だいたい、人妻の手料理をお金を出せば、あっさり食べられるとでも?残っても冷凍しとけば保つしね」


 当然、アカネは断り、さっさとフライパンをしまって、いただきます、と手を合わせてから食べ始めた。

 熱いまましまったパエリアは、後でシヴァにくれることだろう。


「それに、なぁなぁにしたら各自に用意させた意味ないよね?ダンジョン内では何が起こるのか分からないのに、限りある食料を試験官が奪うっていうのもどうなの?しかも、食材はあまり出ないダンジョンなのに」


 謝らないフィヨルドに追撃。まったくの正論なので、フィヨルドはうなだれ謝罪した。


「こういった時に食べるのがカップラーメンなのにね」


「残ってるワケないだろ!」


美味うま過ぎで残らないのが保存食としての欠点だ!」


「そんなに美味しいんだ?別の所にいたから、わたしは噂でしか聞いてないんだけど」


「超美味い。絶対、たっぷりまとめ買いするべき」


「豚骨味が一番美味い!」


「いや、醤油味だろ」


「味噌だって味噌味」


「まとめ買いしたのにもうないって…商人は?そんな売れる商品ならたくさん買うでしょ?」


「転売商人たちは全員が酷い目に遭ってる。客たちが強盗に早変わりしたせいで」


「『カップらーめんやさん』の関係者を騙った商人は更に酷くて、身ぐるみ剥がされて拷問もされたとか」


「え、誰に?カップラーメンを売ってる所が?」


「いや、『カップらーめんやさん』の情報が少しでも欲しくて、欲張った商人や権力者が。警備隊が捜索してて捕まえたんで、転売商人たちの命は助かったけど、酷い状況だったとか」


「『カップらーめんやさん』と『こおりやさん』の店長は大魔導師様だから、防犯対策も万全なのに、その辺も分からん商人はどうしようもないな」


「自動販売魔道具で、店員は精霊?だか使い魔だか何だか、なのは、人間を使うと危ないからだったんだなぁ、と今更、思い知ったり」


「え、かき氷の時、人間の店員がいたけど?店長ってこと?」


「多分。他は人間サイズの猫人形?しか見てないし」


「成人し立てぐらいだったんだけど、あの人が店長さんなのか?」


「エルフだか何だかの長命種族で、何百年と生きてるんだろ」


「エルフじゃないよ。これは絶対言える。こんな派手な商売出来ないし、出来るだけの技術も知識もお金もないから」


 クォーターエルフであるラバーヌがそんな力説をする。


「でも、エルフってSランク冒険者がいるって聞いたことあるけど」


「高ランク過ぎると報酬もバカ高いから滅多に依頼入らないって聞いたよ。だから、ダンジョンに潜って稼いでるって。弓師だからパーティでね」


「じゃ、店長って他の国から来たのかもな」


 他の世界から、が正解だ。

 アカネはフッと笑った。


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