068 初対面の奴に財布預けるようなもんだ

 Cランク昇格試験を受けるだけあり、安定した戦闘をする人たちばかりだった。武器があまりよくないのが、惜しいぐらいに。

 しかし、魔物の数が多いとある程度の怪我は仕方ない、という戦い方は頂けない。避けるか防具にもうちょっと金をかけるべきだろう。

 回復術師の出番を敢えて作った、というワケでもないだろうに。


 …いや、これが普通の一般的な冒険者なのだろうか?

 疑問に思ったシヴァはパーコに通信バングルで訊いてみた。


【多かれ少なかれ怪我はするもので、ほぼ無傷なダンさんたちのパーティは、マスターが思っているよりもっともっと優秀なのです。まったく怪我しないように鍛えているアカネ様は異常の域ですから、『結構強い』程度だと思わないで下さい】


『お、おう』


 そのぐらいだと思っていた。シヴァの基準が違うと認識がズレまくる。


 ちなみに、今日のシヴァは影の中でイリューガルダンジョンの隠し部屋ボス討伐ドロップ…じゃなく、ダンジョンエラードロップ【植物図鑑10~12】を読み、タブレットに取込みつつ知識を蓄えていた。

 討伐ドロップはこれだ。


【真偽の珠・真偽を判定出来る。洗脳されていたり、そう思い込んでいたりすると嘘だと判定されない】


 …ちょっとしょぼい。



 受験者たちはやっと順調に進み出したが、あちこち寄り道をしているので、お昼になる頃でもまだ13階に下りた所だった。

 岩に囲まれたセーフティスペースで昼休憩になる。


 アカネのお昼はカルツォーネ(包みピザ)と野菜スープである。

 超レアな時間停止のマジックバッグだとはバラさないので、カルツォーネは焼くばかりにしたもの、スープも冷ましたものだ。魔石コンロ二台でカルツォーネを焼き、野菜スープは温めるが、ドロップしたクラッシュイーグルの肉を適当に切ってスープに入れる。


「…アカネさん、しっかり料理するタイプなのね」


 サンドイッチを食べながら、ラバーヌが羨ましそうに言う。


「これでしっかり料理って言わないよ。手抜き料理」


 事前準備でアカネはちゃんと自分で作っている。調味料以外は。


「そうなんだ…。旦那さん、胃袋ゲットした?」


「少しはね」


「……やっぱり、料理出来る女ってポイント高いのね…」


「アカネさん、その飛び道具ってマジックアイテムなのか?魔力弾と似たようなものを撃ち出してるようだけど、属性がたびたび違ってる気が」


 気になっていたらしく、ハードパンサンドを食べながら、オロゾがそう質問した。


「冒険者の素性や武器や魔法は詮索不要、じゃなかった?」


 ワケありの人が多いし、恨まれることもあるし、武器や魔法は冒険者のウリでもあるので。


「臨時とはいえ、パーティ組んでるんだから…」


「アウトだ。オロゾ。強制臨時パーティだからな」


 おにぎりを食べながら、フィヨルドが止めた。


「そりゃそうだよな。初対面の奴に財布預けるようなもんだし」


 丸パンサンドを食べてるシュタインが上手くたとえると、


「上手いたとえ」


と焼き上がった熱々のカルツォーネを息で冷まして、やっと食べ始めたアカネが感心した。

 むぅ…とオロゾは渋々引き下がる。

 カラバッサとガジャルは堅パンとチーズと干し肉と水、程度の昼食だった。

 シヴァの昼食は久々にうな重と煮物と肝吸い。ばっちり美味いので食が進む。


「アカネさん、夜も保存食じゃなく作るの?」


 ラバーヌがそう質問した。


「そのつもり。各自用意なんだから自分以外の分は作らないからね。テントにも入れません。準備してる物だって試験なんだし」


「テントって…いや、女の冒険者は結構持ってるのは知ってるけど、何かあった場合、対応が遅れるわよ?」


「ない。そういったマジックアイテムを持ってるからね。ラバーヌさんこそ、普段の野営は何もなしでマントや毛布にくるまるだけで寝てるの?」


「ええ。それが普通よ」


「別の意味で危なくない?…あ、パーティメンバーも一緒なのが前提なのね」


「そうだけど、頼り切ってるワケじゃないわ」


「いいんじゃないの。適材適所だし」


「…え?」


「あ、ごめん。わたしの故郷の言葉」


 アカネは通じなかったと思ったらしい。


「いえ、適材適所は知ってるけど、そう言う冒険者って少ないから。回復術師は戦闘面でも体力面でもイマイチだから、お荷物って見られることも多いし。大して怪我しない人だとポーションで間に合うこともあって。…って、アカネさん、まったく怪我しないわね?」


「うん。普通はそんなに怪我するものだとは思わなかった。…あ、いや、別にイヤミじゃなくて、わたし冒険者経験がまだ浅いから。登録して一ヶ月も経ってないし」


「嘘っ?」


「マジで?」


「それでその強さって何?」


「日頃の努力の成果。冒険者登録してから鍛錬しないとっていう縛りなんてないし」


「…まぁそれはそうか」


「アカネさんは今までソロでやってたのか?」


 シュタインがそう訊く。この程度はセーフの範囲だ。


「そう。短期で知り合いのパーティに混ぜてもらったことや、泊まりで合同の護衛依頼を受けたことはあるけどね」


「アカネさんって、訓練場でグロリアさんたちと手合わせしてた人?華奢な女なのに押してたって聞いた時は嘘だと思ったけど」


 ガジャルがそんな確認を入れた。


「うん。特にグロリアさんは百戦錬磨だから経験と技術でちょっと負けてるけど」


「…すごいな」


「グロリアって人、有名なの?」


「割とな。派手な功績があるワケじゃないけど、依頼達成率が高い槍使いで人柄もよくて顔も広い人だから。ここのダンジョンも攻略したって話」


「え、バジリスクじゃなかった?ここのダンジョンボスって」


「毒と石化対策すれば、何とかなるらしいよ。バジリスク、すごくでかいけど、死角も多いし、再生能力はないんだって」


 話を聞いてるアカネがそう教える。


「……そう言えるの、倒せたからだよな…」


「攻略した時、アカネさんも一緒にいたとか?」


「ううん、いない。攻略した後にこの街に来たし」


 そんな風に世間話に変わって行った。

 ちなみに、昨日、アカネはアリョーシャダンジョンを攻略している。

 薄暗いアンデッドフロアには【影斬撃】がかなり有効で、実体のないレイスも倒せたし、ドラゴンゾンビにはライフルのダムダム弾を二発撃ち込んだら瞬殺だった。しみじみと殺傷力が高い。


 ライフルは物理と魔力と魔法の合わせ技なので、防御力、魔法防御力が高いドラゴンでも複合攻撃だと突破してしまうようだ。思わぬ効果だった。

 しかし、ダンジョンエラーにはなってないのは、アーコもいい加減、学習し、「想定内」にしたからである。


 キマイラにはアカネはライフルを使わず、【影斬撃】と内部破壊魔法と剣術で二十分程かけて倒した。結界でキマイラの魔法攻撃も防げるので、じっくり攻略出来たのも大きいのだろう。


 ドラゴンゾンビのドロップはやはりいいもので、大きな魔石、ドラゴンアイ(竜眼)、ドラゴンブーツと三つも出た。


【ドラゴンアイ・この片眼鏡を装着すると、千里眼、高度な鑑定、状態異常無効、顕微鏡・透視、戦闘力の数値化…と様々。ドラゴンの目とほぼ同じことが出来る】


【ドラゴンブーツ・キック力三倍アップ!】


 かなりいいものだった!

 どちらも普段使いには出来ないが、マジックバッグに入れておけば、いつでも【チェンジ】で素早く装備出来る。

 アカネも大喜びだった。

 ドラゴンブーツと足場結界を使えば、かなりの高速移動も出来る。足場結界に魔力を使うので、街から街へ、は無理にしても、飛行と併用してもいいし、ダンジョン内ならかなり使えることだろう。


 しかも、


【ドラゴンスレイヤー・ドラゴンのアイテムに遭遇し易く、ドラゴン系の魔物には攻撃力防御力が10%上がる】


という称号が付いた。

 ドラゴンを何匹も倒しているシヴァには付かないのに、称号が付く基準がよく分からないが、いい称号だった。

 キマイラ討伐のドロップは魔石とエリクサーと【守護の指輪・物理魔法防御力を10%上げる】だった。アーコの希望も入ってるようだが、まだ防御力はBまでしか上がってないので有り難い。


 20階のワイバーンはリポップ待ちの行列が出来ていたので、まだ倒してなかった。

 面倒臭いことになるので、アカネが攻略したことはギルドには言わない。

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