066 ちょっとお子ちゃまがイキがった所で…

 今回のCランク昇格試験受験者は六人。

 男四人、女二人。試験官のCランク冒険者が入って七人で臨時パーティを組むことになる。

 試験官のCランク冒険者はフィヨルドと言う槍使いで、フィヨルドがリーダーを勤める。


 男剣士一人、男槍使い二人、男魔法使い一人、女回復術師一人、女オールラウンダー一人、といった槍使いが多いパーティで前衛が少な過ぎるが、オールラウンダーのアカネを前衛に配置すればいいだろう。

 フィヨルドがそう話すと、すぐ不満の声が上がった。


「って、こんな小柄な女が前衛ってあり得ないだろ。おれが剣を持った方がまだマシだ」


「いや、おれが前衛になろう。パーティバランスで転向したが、前は剣士だったし」


 槍使い二人、カラバッサとガジャルだ。


「何勝手なこと言ってる。アカネさんは前衛で決定だ。Bランク昇格試験を勧められているぐらいの逸材だぞ。見た目で判断するな」


「彼女の強さが分からんとは…三流だな」


 剣士のシュタインがボソッと呟く。


「情報も遅いぞ。彼女、SSランク冒険者の奥さんだ」


 魔法使いのオロゾがバラした。


「…え、そうなの?」


 回復術師のラバーヌは試験のためにパラゴの街に来た、と言っていたので、まったく知らなかったらしい。

 昇格試験は街によってもバラバラの時期に行われるため、都合のいい場所と日程と内容で受けることになる。


 今回は14階の採掘が試験なので、10階まで踏破していることが受験条件になっている。ラバーヌはすぐダンジョンに潜っていたのだろう。


「そう。若く見えるようだけど、わたし、今年、二十四歳だから。変な誤解しないように」


 自己紹介じゃなく、試験官のフィヨルドが書類を見ながら全員の紹介をしたので、アカネは今教えた。少なからず、毎回驚かれる。

 アカネ以外の受験者は全員二十六歳以上三十八歳まで。

 最高齢はラバーヌでエルフの血が入ったクォーターだ。見た目は二十歳前ぐらいで、アカネより少し上程度に見える。


 こだわってるなぁ、といつものようにアカネの影の中にいるシヴァは苦笑するしかない。アカネがやり過ぎない限り、手出しするつもりはない。

 ダンジョンマスタールームにいてもいいが、一々パーコ経由になるのも面倒なのだ。


 過保護ではなく、面白そうだから見学、というのはアカネも分かっているので苦笑一つで許容していた。

 こういった所、アカネは器が大きいのだ。「試験なんだから念話で話しかけないでよ」とは言われたが。


「SSランク冒険者の奥さんだからって、本人の腕が立つかは分からないだろ」


 負けん気が強いのかカラバッサがそう言い出した。


「バカね。潰されるか、大怪我しちゃうわよ。ステータス差がそうも大きいのなら」


 さらっとバカにしてさくっと指摘したのはラバーヌだった。事実だが、もう少し言いようがあるだろうに。

 これもラバーヌの世渡り術か。アカネよりは全然体格がいいラバーヌでも、女性冒険者が舐められ易いのは確かだし、引き手数多な回復術師だし、エルフの血のせいか美人なので、過去に色々あったのだろう。


「………………」


 あからさまな言葉に、カラバッサは少し赤くなって黙り、そういった話に免疫がないのかガジャルも同様、オロゾは苦笑し、シュタインは不快そうに鼻を鳴らす。純情か。

 言い方ってものがあるでしょ、とばかりにアカネはラバーヌを見やり、試験官たるフィヨルドはため息を漏らした。


「腕が立つ証明はこれから分かる。カラバッサ、文句しか言えんのなら、ここで失格だ。謝って余計な口を利かんのなら続行。どうする?」


「悪かったよ。これでいいんだろう?」


「謝る相手が違うだろ」


「別にいいよ。ちょっとお子ちゃまがイキがった所で、その辺の石より気にならないし、邪魔なら排除するだけだから」


 それで謝罪のつもりか、とアカネは呆れてるらしい。

 確かに、カラバッサの精神年齢はかなり低い。


「…………」


 ちょっと煽られただけでカラバッサは顔を真っ赤にして、アカネを睨むが、アカネはスルーして促した。


「いい加減、中に入らない?」


 『こんな風に無駄な時間を費やしてるから、14階での採掘程度で時間がかかっちゃうのよ』とまではさすがに言わなかったが、言いたそうな雰囲気ではあった。


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