005 シヴァ様は騎竜です
アカネを屋敷の外に連れ出してから、ほら、とシヴァは魔力駆動の魔道具バイクを出した。
乗車姿勢が前傾にならないクルーザータイプのロングツーリングに向いてる中型バイクである。ハーレーが有名だが、国産の違う物だった。
「…まんま乗ってるバイクじゃん…すごいね。何にもない所からここまで作れちゃうんだ」
「メンテで散々部品も構ってるからな。中はまったく別物でほぼ空っぽだけど。…あ、こっちもタイヤ変更しねぇとな。やっとゴムの木を見付けたんだって」
「やっぱり、こっちにはない素材もかなりあるよね。でも、このタイヤもゴムっぽいけど、素材は?」
アカネはまだまだ鑑定能力が低いが、そうじゃなくても中々鑑定出来まい。
「スライムの皮を混ぜた合成素材。スライム皮ベースだとゴムっぽいのが作れるんだって」
「スライムいるんだ!ぷるぷるの可愛いタイプ?どろっと?」
「あいにくと、どろっとタイプ。で、このバイクは普通に走るけど、空も飛ぶ。乗る?」
「乗りたい!」
「じゃ、アリョーシャの街に入る前に、ぐるっと周辺一帯を回るか」
「うん!」
【マスター、その場合、隠蔽をかけるかアル様になってからじゃないとダメですよ。シヴァ様は騎竜です】
そこで、キーコから注意が入った。
「…おっと、そうだった。注意ありがとう、キーコ」
【どういたしまして】
どうも、シヴァは元の身体になった意識が薄い。ラフな普段着だから尚更だ。
動いたり鍛練してみた感じでは、シヴァに化けていた時よりも少しだけ反応が速く、感知範囲が広くなってるぐらいで、大きな違いはないのもあるだろう。
ちゃんと鍛えた身体とステータスゴリ押しだった借り物の身体の時と、もっと違ってそうだが、それはおいおい分かるだろう。
ピアノは格段に弾き易い。身体に刻まれているのとそうじゃない身体との違いだ。
シヴァは再びバイクを収納し、アカネのゴーグルを錬成してから、シヴァとアカネは転移魔法陣でアリョーシャダンジョンに行き、隠蔽をかけてから外に出た。
転移魔法陣のアカネの利用登録はしたが、この出入り口はまだだったので登録しておく万が一に備えて、だ。
アリョーシャダンジョンの側で、今日も『カップらーめんやさん』は営業。そちらに人数が集まっているため、裏側は誰もいないし、見てもいなかった。
店舗内も混み過ぎ、ということは今の所なく、ちゃんと譲り合っているようだ。
カップラーメンの自販はそのまま中に詰め込んだだけの作りだったが、大盛況ですぐ売り切れてしまうので、マジックバッグを使った大容量在庫に改良していた。お金回収の所も。
ゴーグルを装着し、バイクを出してバイクにも隠蔽をかけたら準備オッケイ。
アカネをリアシートに乗せたシヴァは、ゆっくりとバイクをスタートさせる。荒れ地でもサスペンションも利かせてあるし、スムーズだ。
「音がすごい静か。バイク自体は音しないの?魔道具だから?」
「そ。スピードも結構出してるけど、風抵抗が少ねぇのは見えねぇ風防があるから。空飛ぶ時は遮断もするけどな」
バイクを飛行モードにし、ふわりと飛び上がる。
「へぇ、いいなぁ。このバイク。運転するのも楽しそう。魔力多く使う?」
「魔力タンクがなければな。チャージしてあれば、かなり保つ。でも、それは内緒。使用者限定にしてあるから、動かせねぇけど」
「欲しがる人、多いだろうしね。やっぱりかなり高い?」
「それもあるけど、おれにしか作れねぇのも問題。コアたちにもまったく同じバイクは無理だった」
「それはすごい。異世界技術だからってこともあって?」
「いや、中身はこっちの技術だって。ネックになってるのは部品やギアの細かさだな。コアたちはファスナーも最初は無理だった。今頃、新米コア組が苦労してるだろうけどな」
「…そっか。ファスナーがあって当たり前だったから、全然気にしてなかったけど、かなりのすごい技術だよね」
「過去の異世界人たちにも無理だったらしく、作れるのはいまだにおれとコアたちだけ。ドロップでファスナーのバッグは、そこそこ出るようにしたけどな」
「ファスナーは細かいもんねぇ。わたしも何もない所から作れって言われたら無理だわ。構造は何となく分かるけど、何となくだし。やっぱり、錬金術で?」
「最初は土魔法。結構、色々作れる魔法なんだって。練習は必要だけど」
「そうなんだ。…考えてみれば、陶器は粘土、ガラスも土っていうか珪砂。街の中も魔法が色々使ってあるんだよね?冒険者登録したら街中見ていい?」
「もちろん、どうぞ」
ぐるっと上空から街を見てから、門の側に降りた。バイクをしまい、見計らってから隠蔽を解く。
多少、行列が出来ていたが、シヴァの【行列優遇】スキルのおかげで順番を譲ってもらえる。アカネも一緒なことには驚いていたが。
「田舎から出て来たんで、妻には身分証明がない。保証金はいくらだった?」
シヴァは黒地に金文字、ルビー入りの3×2cmのSSランクのギルドカードを見せる。
「…あ、はい。ええっと、銀貨3枚です」
安い。手の中に銀貨を出してシヴァが払うと、警備兵は珠の形の魔道具にアカネの手を置かせてチェックした後、仮滞在票を書いて渡して来た。
珠の形の魔道具は、ステータスで犯罪歴があるかどうか出る魔道具である。
レベルがまだ低めのアカネは、鑑定されて狙われると困るので、アカネのステータスにシヴァが隠蔽魔法をかけてある。
「冒険者ギルドか商業ギルドに登録して身分証明が出来た後に、再び来て頂ければ保証金をお返ししますので」
「分かった。ありがとう」
「ご丁寧に有難うございます」
アカネが頭を下げて丁寧にお礼を言ったので、警備兵の方が「いやいや」と慌てていた。
「もうちょっと軽い挨拶でいいって」
街の中に入ってから、シヴァがそう教えておいた。
「そうなの?親切だなぁ、と思って」
「門担当の警備兵は愛想いい人が選ばれるって話だぞ。ゴネる貴族とか金持ちの商人とかいることもあって」
シヴァが知っている警備兵じゃなかったが、アルの知っている警備兵たちだった。今の人たちではないが、差し入れた時、雑談でそう言っていたことがある。
「あーそっちはテンプレ通りにいるワケね。…あ、石畳じゃないのも混じってる。土魔法?」
「そう。あまりよそ見してると、スリに狙われるから注意しろよ」
「はーい。海外旅行より危険だっけね」
「アリョーシャの街はそこそこ治安がいいけどな。繁華街や低所得層が住む地域はあってもスラム街という程の所はねぇし」
「でも、スリぐらいはいる、と」
「強盗もな。ダンジョンが側にある街は流れ者も多いから、仕方ねぇことだけど。おれらも流れ者だしな」
「そうでした」
かなり、注目されながらシヴァとアカネが冒険者ギルドへ行くと、毎度のことながらギルド内は静まり返った。
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