003 さすが運動神経がいいだけある!

 軽食を食べてから、転移魔法陣を使ってアリョーシャダンジョンへ転移し、更にシヴァが1階へ転移した。

 もうかなり日が陰って来ている夕方なので、他の冒険者たちは少ない。

 こちらの世界に来たすぐ翌日に、というのも性急なのだが、命が関わっているので多少の無理はするべきだった。


 塔型のキエンダンジョンの低層は動きの速いホーンラビットや破壊力があるレッドボアがいて、あまり初心者向けではないので、アリョーシャに。

 アリョーシャダンジョンの1階は、大きいネズミ系とコウモリ系。初心者が戦闘に慣れるにはもって来いなのだ。


 アカネの武器は軽量化した切れ味抜群のショートソードと魔道具拳銃。

 属性が付与してある特殊弾を思念操作で選んで使うようにしてあるので、Cランクぐらいの魔物までは大丈夫だろう。弾切れはまず心配ない。マジックバッグに使ってある空間拡張付与で、コンパクトな銃身には考えられない程、たっぷりと銃弾が詰まっているので。分身も使って大量生産しまくった結果だ。

 抜かりなく残弾数が分かるようにしてあるし、予備弾倉も予備拳銃もマジックバッグに入っているので、【チェンジ】ですぐ出せる。弾チャージも一瞬だ。


 可愛くない大きなネズミ系魔物なので、アカネの攻撃も躊躇なんてなかった。コウモリも同様だ。

 隠蔽をかけたシヴァがまとめて【スリープ】をかけ、アカネがトドメを刺す。まずはパワーレベリングでステータスを上げるのだ。

 流れ作業のように進んで行き、少し慣れて来た所で実際に戦ってもらう。

 ネズミは蹴ったり踏ん付けたりで余裕だったが、コウモリ系は飛ぶし、高い天井の上の方に逃げたりするので遠距離だと中々当たらない。

 イラッとしたアカネは、覚えたばかりの【身体強化】をかけて壁を蹴って三角跳びジャンプ。

 ちょっと足りない時はシヴァが風魔法で手伝って届かせてやり、ショートソードで切り裂く。

 アカネは元々運動神経がいいし、レベルが上って来たので、一人でも安定して狩れるようになるのは予想以上に早かった。


 レベル12になった所で小部屋に結界を張って休憩を入れる。

 誰も入れないようにしたので、シヴァは隠蔽を解いた。レベル10で休憩にするつもりだったが、まとめて倒したため、更に上がったワケだ。

 【クリーン】をかけてやってから、ソファーセットとアイスティーとクッキーを出す。


「ふーっ、何かすっごい運動したって感じ」


「やっぱ、すじがいいな。無理に追わねぇ所が更にいい」


「ありがと。…っていうか、ダンジョン内でこうもくつろいじゃっていいの?」


「全然オッケイ。結界が張ってあるから誰も入って来れねぇし。…お、アカネ、射撃スキルが生えてるぞ。命中スキルと剣術スキルも頑張れ」


「はーい。それにしても、シヴァ、すごい魔道具を作ったね。反動なく音もなく撃てて軽くて威力も大きい。たった三ヶ月でここまで作れるってすごく向いてたんじゃない?いくら、物作りが得意でも魔法や錬金術は初めてなのに」


「おう。コアたちからもらった本が大きいにしても、市販のすぐ手に入る本で理論を勉強してバイクを作ったぐらいだしな」


 出来る限り早くこの世界を知り、力を手に入れようと、必死だったのもあるが。


「コスプレも超似合うし。そういったかなり大きい大剣って実用出来るもの?」


「出来たぞ。刀も使ってるけどな」


「マジックバッグや収納スキルがあれば、荷物にならないんだから使い分けるよね、やっぱり。念のため、予備も必要だし。…うん、美味しい!このクッキーもシヴァの手作り?」


「そ。素材がいいんだよ。ほぼ全部ダンジョン産だし」


「そっか。わたしの知ってる食材じゃなさそうな所で、異世界なのをやっと実感したかも。シヴァがあまりにも便利で快適な生活してるから、実感が遅れてたワケだけど」


「ダンジョン内で魔物退治してても実感はないワケか」


「ネズミ系とコウモリ系だからね。害虫駆除っぽくて。倒すと死体が消えてドロップに変わる所はバーチャル系のゲームかな、と」


「まぁ、他の冒険者たちには会わねぇようにしてるしな。そんな強力な魔道具使ってる新人なんざ、胡散うさん臭いにも程があるし」


「まぁねぇ。っていうか、魔法は使った方がいいんじゃないの?魔力の枯渇を繰り返すと、魔力の総量が増えるっていうのがファンタジーの定番だけど」


「その通りなんだけど、1階で魔法使うのはさすがにもったいねぇんだって。2階でがっつり魔物パック作ってやるから待ってろ」


「…魔物パック…ああ、結界で囲うのね」


「そ。MPポーション飲みまくって、せっせと魔法使うのでもいいけど、トイレが近くなるぞ。ポーションの大半は水分だから」


「そうなっちゃうよね。ちなみに、普通の冒険者ってトイレはどうするの?」


「その辺の物陰で。自浄作用があるから直後でもなければ、臭わねぇし、滅多に遭遇もしねぇ」


 いくらデリカシーがないシヴァでも言葉ぐらいは選ぶ。


「独立トイレを出してするのも何だけどね~」


 シヴァがアカネのマジックバッグに入れて持たせたのである。

 ゲームでもテーマパークでもないので、自力で快適にしないとならない。


「自動的に結界張るようになってるし、安全なんだけどな」


 何、という気持ちも分からなくもない。

 創作物のファンタジーでは、あまり触れられない部分である。

 こういったあけすけな会話が出来ない夫婦や恋人同士だと、実は悲劇が起こっていた、かもしれない。

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