002 何故、隠蔽をかけん?

 タブレットは作ったので、次はアカネのプリンターを作ろう。外観はアカネの大好きなオレンジで。

 続いて飛行カメラ、時間停止のマジックバッグはウエストポーチ型でいいか。あまり目立たないようこちらは黄色が強い茶系キャメルブラウンで。ボックス型財布も必要か。お揃いの色にしよう。

 通信バングルは後々はコアたちとも繋げられる仕様で。初対面同士、いきなりではどちらも戸惑うから。


 そして、着替えや生活雑貨も不便がないよう、アカネの趣味に合う物を作る。

 シヴァが次々と錬成して行くと、アカネはかなり興味深げにじっくりと、キラキラとした目で見ていた。可愛い。


『アカネよ。これが普通だと思わんようにな』


「大丈夫。ひ…シヴァが普通だった時は子供の頃からまったくないから。学校が同じで近所に住んでたから、十三歳ぐらいから知ってるんだけどね」


幼馴染おさななじみというヤツか』


「そこまで育ってるとそう言わないよ。何百人もいるし。学友だね」


「で、アカネ、装備はどうする?今の所、魔法特化のステータスだから魔法使い装備にしてみる?」


「どんな感じ?暑いのも動き難いのも嫌だけど」


「そんなガッツリローブじゃなくてもいいって。世間の魔法使いだって好きな格好してるんだからさ。防御力高い装備で杖を持ってることが多い程度。戦闘装備でスカートはなし。細身のパンツに丈の長いシャツや上着、飾りでオシャレにするか」


 こんな感じ、とシヴァは自分のタブレットに思念操作でイメージを表示させる。

 ゲームのアバターの着せ替えよりリアルなのは、シヴァがアカネの体型も趣味も知っているし、アパレルでバイトしていたこともあるからだ。


「うん、いいと思う!派手過ぎないし。でも、このケープみたいなのは必要なの?あまりひらひらしてるとひっかかりそうなんだけど」


「必要。そのひらひらが攻撃を受け流すよう作るから。まだ暑い時期だけど、『ちょっと涼しい魔法陣』で涼しく出来るから問題なし」


『シヴァ、問題あるぞ。魔力をずっと使ってても全然平気な人間はお前だけだ』


「…あ、そういやそうだった。ダンたちからもそれは言われたんだよな。まぁ、ダンジョンの中なら特殊フロア以外はそう暑いってこともねぇから。ここも適温だろ」


「うん。特殊フロアってゲームみたいな火山帯とか海とか?」


「そう。雪山とかも…いや、連れて行かねぇぞ?せめて、レベル100を越えるまでは」


『…シヴァよ。そこまでは鍛え過ぎだと思うが…』


「そんなことねぇって。今だとステータス差があり過ぎて潰しちまいそうだし」


「あ、それは超困る。てっとり早いのはパワーレベリング?」


「ああ。夕方からでも早速。…あーでも、浅層は初心者向けでドロップも美味しいのはアリョーシャダンジョンなんだけど、あの街でシヴァとして動くのは不自然なんだよな。遠くの国で活動しているハズだから」


『アルに化ければいいだけだろ』


「中身が一緒でもわたしが他の男と仲良くしてるのが嫌なのよ」


 シヴァが渋る理由を一瞬で理解したのは愛妻ならでは、だ。


「そう」


『…こんなに心の狭い男のどこがよかったんだ?アカネよ』


「いやぁ、でも、気持ちは分かるし。逆だったらわたしもヤダ。何とかもっともらしい理由を付けたら?得意でしょ、ひで…じゃないシヴァ」


 本名呼びがつい出るらしい。まぁ、おいおい慣れるだろう。


「まぁな。…じゃ、事情があって生き別れになってた妻を探してて、やっと会えたから自衛手段として鍛えることにした、っていうのは?」


「それって何か犯罪が関わってそうな設定じゃない。生き別れも嘘じゃないけど」


「それもそっか。じゃ、妻はいい所のお嬢さんで中々鍛えることが出来なかったから、初心者によさそうなダンジョンが側にあるアリョーシャの街に来た、ってのは?」


「うん、その程度の設定でいいと思う。作り込むとボロが出そうだし。で、明日はテンプレ展開があるかもしれない、ドキドキワクワクの冒険者登録?」


「…そうか、それがあった。おれが付いてりゃ何もねぇけど、あそこのギルマスと副ギルマス、アルが転移者だって知ってるんだよな。シヴァとは別人だと思わせてるけど、アルが何でもあり認識してるから疑っていそうだし」


「バラしちゃえばいいんじゃないの?敵にはならなさそうだし、バラしたメリットはあってもデメリットってあまりないような気が」


「デメリットあるって。シヴァの情報が欲しくて、脅迫する連中が出るかもしれねぇだろ。ギルマス本人は元Aランク冒険者だからいいとしても、妻子持ちだし、自白させる薬や魔道具もあるし、精神操作系の魔法もあるし」


「…あ、そっか。それはかなりのデメリットだね。じゃ、内緒の方向で設定通りに。納得出来なそうでも押し切るってことで。それにしても、ガーコバタちゃんは手伝わなくていいの?」


「…ちゃん付け?」


「呼び捨ても何だし、キーコバタちゃんも蝶だったし、さん付けはちょっとって言われたし。自販がメインのそういったお店ならわたしもお手伝い出来るよ」


「レベル1はおとなしくしててくれって、頼むから」


『ここもダンジョンなんだから、低層でレベル上げをしたらどうだ?』


「噂になるに決まってるじゃねぇか。目立つ自覚ぐらいはある」


『何故、隠蔽をかけん?』


 イディオスの言葉に、シヴァはぽんっと手を打った。

 アカネはクスクスと笑う。


「時々抜けてるんだよね。頭良過ぎて色々考えちゃうせいで、簡単な所を見落とすというか」


「返す言葉がございません」


 …ということで、イディオスは露天風呂でまったりし、シヴァとアカネは装備を整えて魔法の試し打ち、武器の使い方を多目的広場で試した。

 その間にサルタナダンジョンのサーコ経由でカーマインからフェニックスの羽をもらったので、シヴァがリバイブリングを作ってアカネに装着させた。

 これで、最低限の装備は整った。


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