第五十四話 記憶整理と質問
ここで少し
特に
転生直後に比べて思い出せたものもあるが僕が覚えている範囲は物凄く狭い。
まずここは小説『・・・・・・』の世界なこと。
相変わらずタイトルは思い出せないが僕がこの世界とは異なる世界に生きていたのは間違いない。
物語序盤、というより物語のはじまりは主人公が魔法学園に編入してくるところからだ。
そこから主人公が
理由はあまりよく覚えていないが彼女が単に可哀想だからだったはず。
奴隷であるクリスティナは学園でもヴァニタスの暴力と暴言に晒され常に不遇の存在だった。
それを知らずに少しづつ交流を重ねていた主人公は、ある日主であるヴァニタスからクリスティナが酷い仕打ちを受けている場面を直接目撃してしまう。
彼女の境遇に奮起した主人公は平民の身でありながら侯爵家嫡男へと決闘を持ち掛ける。
結果はもう誰にでもわかるだろう。
ヴァニタスは敗北者だ。
無惨にも主人公に敗北したヴァニタスは
その後恨みを募らせたヴァニタスは事あるごとに主人公に絡みその度に奴隷を失う。
失う過程はあまり記憶にない。
どれも決闘を介してだったと思う。
シンクレア・アーバンブライトはクリスティナの代わりだ。
クリスティナを失った心の穴を埋めるように彼女を奴隷として購入する。
加入する時期は覚えていないがハーレム魔法とも言うべきある特殊な魔法を扱う彼女は、キャラクターの設定の濃さもありよく覚えている。
まあそこはいい。
問題は教壇に立ち、自己紹介を続けるアンヘルという編入生が主人公かどうか。
僕の覚えている主人公の情報は名前の先頭に『ア』がつくこと。
『強化』の先天属性をもつこと。
平民出身で確か孤児だ。
魔法学園には誰だったか後ろ楯になってくれた人物がいたはず。
その人物のツテで入学した。
だが容姿は……小説の
もう一度アンヘルを観察する。
……明らかに主人公面だな。
黒い髪、
優男風でありながら人当たりのよさそうな雰囲気が滲み出ている。
問題はアイツが主人公だと仮定して『強化』とは異なるあの属性を持っているのかどうか。
持って、いるのだろうなあのチート属性を。
だとしたらヤツは爆弾だ。
追い詰められたらいつ爆発するかわからない。
あの後天属性はそれだけチートの塊だ。
「ヴァ、ヴァニタスくん、あのアンヘルくんのためにみんなにいま自己紹介をして貰っているんだけど……その、ヴァニタスくんも」
たどたどしい問い。
ふと我にかえれば教室中から視線が集中しているのがわかる。
担任教師フロロ・ケイト。
緑髪に茶色の瞳、仕草や言葉遣いからも内向的な性格。
確かケイト子爵家の次女だったか。
ヴァニタスの記憶でも常におどおどとしていて問題児であるヴァニタスを上手く諌められていなかった。
彼女はいまにも泣き出しそうな困り顔で僕に尋ねてきていた。
「あ、あの……嫌だったら別に」
「いえ、自己紹介は大切ですからね。構いませんよ。フロロ先生」
「……へ?」
教室がにわかに騒がしくなる。
長期休暇前のヴァニタスを知っている身としてはフロロ先生に敬語で話す姿が信じられないのだろう。
先生呼びもしていなかったしな。
教室のそこかしこでひそひそとした話し声が聞こえる。
「ヴァニタス・リンドブルムが敬語、だと? 馬鹿な」
「ウッソだろ。明日は槍でも降るんじゃねぇか?」
「…………不可解」
クラスメイトたちの誰もが目を丸くして驚いていた。
目の前の現実に不意をつかれていた。
僕は視線をクラスメイトたちの
ヤツは目を逸らさなかった。
先入観はない、か。
「ヴァニタスだ。ヴァニタス・リンドブルム。リンドブルム侯爵家の嫡男。先天属性は『虚無』。適性外だが光属性の汎用魔法も使える。いまは掌握魔法を鍛えている最中だ」
「掌握、魔法? よくわからないけど……うん。よろしくヴァニタスくん」
うむ、悩むくらいなら直球で行くか。
転生してからずっと疑問だった一点。
僕がこの小説に転生したなら果たして他の者は?
「主人公面、お前転生者か?」
「…………主人公、面?」
チート属性を持っていたとしても関係ない。
お前は僕の敵になるのか?
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