第四十一話 戦力の確認


 問題は誰を連れていき、どう賊に対処するか。


 リンドブルム領騎士団のディラクの元を訪れた僕たちは、彼に頼んでおいた装備を受け取り、戦闘の準備を整えていた。


「ヴァニタス様! その……すみません。このような武具しか御用意出来ず、まだ依頼された専用の武具には手を付けられていない状態でして……」

「構わない。今回は不測の事態だ。騎士団に卸しているものと大して変わらずとも、いま所持している武具よりかは遥かにマシだ。僕たち用の特別な武具はまた今度でいい」

「はっ、そういっていただけると助かります」


 ディラクから騎士団へと卸している武具の中でも上等なものを譲り受ける。


 僕には軽い短剣と一応急所を守るための金属製の胸鎧。

 あまり重いものだと動けなくなるため心臓の部分だけが厚い金属で出来た胸当てだが、これだけでも不意の攻撃には耐えられるため着けないよりはマシだろう。


 クリスティナには新しい片手剣と女性物の装備一式。

 片手剣は銘こそ無いものの、ディラク製作のものでもかなり質のいいもの。

 クリスティナの素早い剣術にも対応できるよう、なるべく細く軽い刃の剣を見繕った。

 全身に纏う鎧は騎士団採用の物では大仰過ぎるので、ある程度パーツを外し動きやすいように調節した。


 ヒルデガルドは武具を身に着けることをあまり好まないため、当初は何もいらないと言っていたが、流石にそれでは無防備過ぎる。

 取り敢えず服の下に着込む鎖帷子の最も軽く動きを阻害しないものを身に着けさせた。

 戦闘に支障があるようなら外せと伝えてあるがいまのところは気にならないらしい。

 飛び跳ねたり、小走りしては動きを確かめている。


 そして、僕たちが新しい装備を見繕っている間、手持ち無沙汰に眺めていたラパーナは――――。


「ラパーナ、お前は屋敷に残れ」

「え……? なんで……ですか?」

「お前はまだ戦闘に耐えられる能力はないからだ」

「でも……」

「クリスティナは剣術と水魔法。ヒルデガルドは格闘と泥魔法。変身魔法を極めたアシュバーン先生は言わずもがなとしても、お前では足手纏いだ」


 ラパーナの戦闘能力は現時点では高くない。

 争いを好まない彼女は模擬戦も消極的であり、自己鍛錬もまだまだ足りていない。


 マユレリカを攫った『流血冥狼ブラッドシャード』の連中はかなりの実力者が存在することが窺える。

 人質を取られて動きを観察されている以上騎士団は大っぴらには動かせないため、ラパーナ一人を守りながら戦うのは今回は厳しいだろう。


 故にラパーナは連れていけない。

 僕はその辺りの事情を彼女になるべく優しく伝えたのだが……。


「わかり……ました……ご主人様の命令通りに……」

「ああ、僕たちの帰りを待っていろ」


 ラパーナは当然のようについてくるつもりだったのだろう。

 見たことのないほど意気消沈していた。

 しかし、これも必要なこと。

 彼女には今後の成長を期待するとして今回は残ってもらう。

 

 物語ストーリー中の彼女はヴァニタスの奴隷の間、戦闘行為に参加することはなかった。

 ヴァニタス自身が期待していなかったのもあるが、理不尽な暴力に晒され萎縮していた彼女は自分自身が戦うということに意識が向かなかった。


 主人公にヴァニタスの元から助けられ己を見返すまでは戦う意思を持てなかった。


「ラパーナ、いまもし共に戦えなくて悔しく思ってくれているなら……もっと強くなれ」

「…………はい」


 ラパーナは顔を伏せたままだったが、確かに頷いていた。






 さて、ラパーナのことも気になるが、気持ちを切り替え次だ。


 現時点で判明している情報を整理しよう。


 騎士団の拠点でポーションなど必要なものをついでに掻っ攫らい、シアの元へ。


「『流血冥狼ブラッドシャード』について持っている情報を共有したいと思う。いいか?」


 僕はこの場に集まった皆に声をかける。


 クリスティナ、ヒルデガルド、アシュバーン先生、シア、あとはシアの部下が何人か。

 この場にいる者がマユレリカ救出のための核となるメンバーになるだろう。


「まず初めに『流血冥狼ブラッドシャード』という組織。これについては父上からある程度は聞いているが……シア、どうだ何か聞いたことはあるか?」

「いえ……残念ながら私もあまり。……ただ貴族を襲うような集団だ。かなり気が狂っている連中だと推察出来るが」

「ほほ、儂もお主から聞かされて驚いたがマユレリカ嬢と交換に金銭と、なにより子供を要求する輩じゃ。気が狂ってないとそのようなことせんじゃろうて」

「しかも生き血を啜るのですよね。悍ましい連中です」

「血、吸われたく、ない」


 指名手配はされていてもあまり知名度はないか。

 とはいってもシアもアシュバーン先生も最近リンドブルム領に来たばかりだし、『流血冥狼ブラッドシャード』の情報にはあまり期待していない。


 取り敢えずヤツらが危険で気の狂った連中だと共通の認識が出来ていればいい。


「うむ、では次だ。相手方の戦力について。これは指名手配で近隣に公開されている情報と、逃げ延びた騎士が話してくれた情報がある」

「賊共の人数はどうかのう」

「総勢約十五人程度だと思われます。これは指名手配されている情報ですが、騎士の証言とも合っている。ただ見せていないだけで予備戦力ぐらいいるでしょう。まだ人数は多いと見た方がいい」

「ああ……そうだな。往々にして犯罪者とは徒党を組むものだ。手配されている人数より多いのは確定だろう」


 シアも僕の考えに同意してくれたがやはり人数は多く見繕っていた方がいいだろうな。


「確か……リーダーのザギアスは『血霧』と『剣』の先天属性を所持しているのですよね、主様」

「ほほう、血系統の属性かまあまあ珍しいの」

「二属性持ちか……賊の頭領にしてはもっている方か」


 先天属性を二つ持つ者は多くいる。

 ただ賊のような無法者に身を落とす奴は大抵が一つだ。

 そういった意味では地方騎士出身のザギアスは素行はともかく実力はあるだろうな。


「生き残った騎士の話ではザギアスの血の霧によって撹乱かくらんさせられた騎士たちは次々と討ち取られていったらしい」

「う〜む、となると広範囲に血の霧を拡散出来るのかも知れんのう。一度分断されると厄介かも知れん」

「しかも『剣』の先天属性か……接近戦も隙がないと考えた方がいいだろうな。ところで他の戦力はどうなんだ。騎士たちをほとんど打ち倒したとしてそのザギアスという頭領だけが強い訳ではあるまい」

「ああ、他にも実力のある配下がいるようだ。名前はバローダとガドット。両方とも男だ。屈強で筋肉質の大槌使いがバローダ。弓使いがガドットだ。こっちは他の配下たちを引き連れ弓隊の真似事をしているようだな」


 ザギアスだけ警戒すればいいのではない。

 配下の連中にも実力のある者たちが紛れている。

 それに情報にはなくともまだ隠れた戦力が加入している可能性もある。


 僕たちはシアの部下たちが、『流血冥狼ブラッドシャード』の根城を調べてくれている間、マユレリカ救出のための準備を着々と整えていた。


 そうして二日後。


 ようやくヤツらの根城が判明する。











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