第十五話 講師アシュバーン・ダントン
「お母さんですよ? ヴァニーちゃん、どうしたの? 朝の挨拶を返して?」
「――――ライトアロー」
「うおっ!!」
「外れたか……運のいい奴だ」
母上の姿のまま横っ飛びで僕の光魔法を躱したなにか。
うむ……威力は弱いとはいえ壁に魔法で傷がついた。
「貴方のせいで父上の執務室が傷つきました。弁償して下さいね」
「何を言う! いきなり人に魔法をぶっ放すやつがおるかぁ!」
「貴方が悪趣味なだけでしょう? どんな手段かはわかりませんが言うに事欠いて母上の姿を取るなんて」
「むう……じゃがこれだけが儂の楽しみなんじゃ。若人をあっと驚かせるのは老い先短い老人の戯れ。少しくらい許してくれてもいいんじゃないかのう?」
「駄目です」
「厳しいのう」
一体誰なんだこのコイツは。
いや恐らくは講師の先生なのだろうけど、言動が怪し過ぎる。
「はぁ……アシュバーン先生。悪戯はもうその辺で。私も流石に不快になってきました」
「お、おう。そうかのう。そろそろ元の姿に戻るとするか」
すると腰に両手を当てて胸を張っていた母上の姿がぐにゃりと変形する。
まるで出来の悪い粘土細工をさらにくしゃくしゃに押し潰していくようなそんな変わりよう。
それが治まった後、現れる者こそ母上の姿をした何者かの正体。
「ゴホンッ、こちらの方がヴァニタスの講師を頼んだアシュバーン・ダントン先生だ」
「ホホホホ、アシュバーンじゃ。これからよろしく頼むのう。気軽にアシュバーンちゃん、でもよいぞ」
「――――チェンジで」
現れたのは結構な御歳を召したご老人。
御髪はすっかりと白く染まり、顔には深い皺が刻まれている。
しかし、ハキハキとした話し方には内なる活力を感じさせる。
元気のいいお爺さんだ。
「美女にでも変身すれば喜ぶと思ったんじゃがのう。ダメじゃったか?」
「駄目ですね。纏う雰囲気もまったく違いましたし、母上に変わった時点でナンセンスです。 というか……変身?」
変身?
まさか変身魔法ということか?
でも物語の中でそんな魔法の使い手は登場しなかった。
いや僕がそこまで読んでいないだけか?
少なくとも僕の知らない未知なる魔法の使い手……面白そうだな。
「そうじゃ! なにを隠そうこの儂こそ卓越した変身魔法の使い手。魔法総省にこの人ありと言われた神出鬼没の『変幻』の魔法使い!」
「アシュバーン先生の先天属性の一つは『変身』。年齢もあって魔法総省は引退したが、その活躍はいまでも語り継がれている。ある時は政府要人に変身し、内部情報の収集と操作を。またある時は戦場で敵の兵士に変身して指揮官の暗殺を。いまでこそ帝国は平和な時代が続いているが、この御方がその一端を担っていたのは間違いない」
「う〜ん、儂が説明したかったんじゃが……」
「ああ、失礼しました」
「といってもいまは悠々自適な隠居生活じゃ。やることもなくぷらぷらしておったところを此奴から連絡を貰ってのう。『息子の魔法を見てやって欲しい』と熱心に頼みこんでくるので仕方な〜く来ることにしたんじゃ。なにせ暇じゃったからのう」
そんな重要人物よく父上にツテがあったな。
僕が父上の人脈を疑問に思っていると、それを見透かしたように話を続ける。
「ヴァニタスの希望は掌握魔法の習熟だろう? だから来て頂いたんだ。魔法界でも有名な掌握魔法と同じく特異な魔法、変身魔法の使い手に。アシュバーン先生は帝都の魔法学園で一時期魔法学園の臨時講師を勤めていてね。その時からの知り合いなんだ」
「もう二十年以上前かのう。あの頃のエルンストは臆病でいつもおどおどしているような生徒じゃった。勉強は出来るのに魔法はからっきし。他の生徒にいつもからかわれておった。そんな此奴がいまはすっかり侯爵家の当主なのだから、時が移るのは早いのう」
「お恥ずかしい話です」
「じゃが、久々に会ったらなんか違うくね? お主そんなに堂々としておったかのう」
「そうでしょうか? しかし先生には負けます。私の目の前で愛する妻の姿に変身するとは。妻を抱く時に先生の顔がチラついたら……責任を取って貰いますよ」
「お主絶対なにかあったじゃろ! 怖っ! 侯爵家当主の脅し怖っ!」
う、うん、父上は大分変わったよな。
いい意味で素直になった。
……いい意味のはずだ。
「という訳で儂はヴァニタス、お主の講師としてエルンストに呼ばれた訳じゃが、どうする? どうしてもお主が気に食わんなら儂は帰るだけじゃが……儂が長年鍛えてきた変身魔法……気にならんか?」
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